僕、勇者サマの養い子になりました

髙城

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閑話 [門番さんの、とある日常の一コマ]

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※勢いだけで書いてしまった、モブくん視点の話なのですが、読んで頂けると嬉しいです。
宜しくお願い致します。
しかし、こんなタイミングで挟んで申し訳ない…

ーーーーーーーーーーーーーーーー



「イーヴ、何してんだ?おい、イヴ」

あー…先輩が呼んでる。
全く人使いが荒いんだから!
俺は西門の待機所に向かって走りながら、大声を張り上げた。

「俺の名前はイヴァンですって、何回言ったら分かるんですか!
耳が遠いんですか?老化ですか?
やっぱり、もう40も過ぎてオッサンからジジイに昇進してたんですね?いや寧ろ降格?
あぁホント老いってのは恐ろしいなぁ~」

つい腹が立って、思うだけにしておこうと思っていた後半部分までポロリと音声に出してしまった俺は、出力最大級のゲンコツをくらい、余りの痛さに頭を押さえて激しく呻いた。

「ホントにお前は…その余計な事を言う口の軽さを何とかしないと、いつか痛い目に合うぞ?」
「いつかじゃなく、今さっき合いましたよ!」

目からチカチカと星が飛び出して涙目になっていると、先輩ことシーリア西門の守備隊長、ダルトン・スウィンクがニヤリと笑いながら手招きをして待機所内を指差した。

「お前、こんな仕事してるんだから少しは口を開く前に出す言葉を選べよ。それとな、今日の午前中はお前が待機で俺が外だ。精々、溜まってる事務仕事を早目に片付けておけよ」
「なッ!?狡いっスよ!また俺が面倒な事務仕事を…」
「ふん、言っとくがな、本当に面倒で複雑な書類の作成は俺が終わらせてるんだからな。後はお前のような『単純バカ』でも出来る程度の簡単な物だけだ。だからさっさと昼飯までにちゃんと終わらせとけよ、いいな!」

そう言うと、先輩は大きな身体を揺らして西門前へと歩いて行ってしまった。

クソ!
あのデカイ図体で頭も切れるって、どういう事だよ!
まぁでも、お偉いさんや貴族様が引き起こした揉め事の事後処理は殆ど先輩がやってくれているのは事実なので、俺は渋々書類の束に目を通し始めた。

で、昼になり、俺は大欠伸あくびをしながら待機所を出て西門前へと向かった。

今日は昼飯、どうすっかな~~

「先輩、昼飯の時間ですけど、今日はどうします?交代で食いに出掛けますか?それとも俺が街で何か買って来ましょうか?」
「んーそうだな。じゃあ久々に『木漏れ日の眠り猫亭』のパエリアが食いたいな。頼めるか?」
「了解です。あの店、先輩じゃ入れないっスもんね」

俺は笑いながら了承すると、先輩は苦笑いで肩を竦めた。

「あぁ、あの店は元々ドワーフの女性がやってたアクセサリーショップだった所だからな。店は入り口のドアも店内のテーブルや椅子も、子供がママゴトで遊ぶ物のように小さい。だから俺では入れない。本当に残念だがな」
「仕方ないですよ。あそこは『蒼氷の勇者様』がオーナーのお店なんですから、文句を言っても貴族や王族ですら誰も何も出来ませんて」
「そうだな」

あの店は信じられない程に美味くて、誰も見た事がないような料理を出す事で有名なお店なんだけど…
とにかく入る客を選ぶ小さな店で、基本的には女・子供しか入れないような可愛らしさだ。
大の男が入って行くには勇気が必要な程の外観なんだが、実は店内は子供用の家具を思わせるもっと可愛らしい仕様になっていた。
先輩が言ったようにテーブルや椅子の高さが恐ろしく低くて、身長180cmの俺では椅子に座ると脚がテーブルに収まらない程なのだ。
2m超えの先輩なんかは恐らく、店のドアさえ通る事が出来ないだろう。
因みに店内に唯一ある、やや大き目のテーブル席はオーナー専用で一般客には解放しておらず、店主の身内以外は誰にも使う事を許していないらしい。
勇者様が自分の為に作った店なのだから当然の権利なのかも知れないが、せめてあの席を使わせて貰えたなら俺でも店内で普通に食事が出来るのに…と思うと残念でならなかった。
でも窮屈な思いをしてでも食べに行く価値があるのだから仕方ないんだけどな。

「イヴ、身分証を忘れるなよ。金が足りなくなって持ち帰りさせて貰えないからな」
「分かってますって!」

俺は腰のポーチに身分証が入っているかを確認すると、先輩からお金を預かって街へと走り出した。

あの店は本当に変わっていた。
勇者様が決めたルールらしいのだが、店内では身分に関係なく、全ての客が平等に扱われるのだ。
店内に平民が先に入っていて、貴族が次に入店した場合、普通では貴族が最優先される。
だがあの店では先に入店していた者の注文から受け付けるのだ。
貴賎を問わず、全てが平等。
因みにゴネると勇者様特製の結界に弾き出されて二度と入店出来なくなる。
そしてその事で店主を脅したり危害を加えたりすると、即オーナー様がご来店される。
あの・・『蒼氷の勇者様』が、だ。
一部の女性達からは『氷の王子様』とか呼ばれてキャーキャー言われているが、アレはそんな生易しい存在ではない。と俺は思っている。
一度だけ遠巻きに見た事があるんだが、人形のようにお綺麗な容姿の勇者様は眉一つ動かさず、豚の様に肥えた貴族の手足を手慣れた様子で凍りつかせてから斬り落としていた。
アレコレ漏らしながら怯え泣き叫ぶ豚野郎を一瞥して、あっさり転移で消えたのを見た時、俺はこの方が本気でキレた時には一体どんな事が起こるのかと身震いが止まらなかったものだ。
ただ救いなのは…勇者様が大の不正嫌いで、子供達には比較的優しい点だろうか。
だから平民には割と受けがいい勇者様なんだが…
その分貴族や王族、悪人達からは男女問わずに酷く恐れられているんだよな。
おっと、いけない!
そう言えば勇者様は『勇者』と呼ばれる事が大嫌いなんだった。
気を付けないと俺も氷像にされてしまう。
そんな事を考えながら走っていると、左手に件の店が見えてきた。
ドアを開けて屈みながら店内を覗けば、既に満席で待合席もいっぱいになっていた。

「いらっしゃいませお客様。申し訳ありませんが只今満席でございます。そちらの用紙にお名前と人数をご記入してお待ち下さいませ。ってイヴァンさんじゃないですか!お仕事お疲れ様です」
「おおルーニン、お前さんこそお疲れさん。持ち帰りなんだが大丈夫か?」
「はい、現在は店内で食事されているお客様待ち状態なんでお受け出来ますよ。何にしますか?」

俺はポーチから身分証を出して見せつつ、「パエリアの大盛りとペスカトーレとグラタンを一つずつ頼む」と注文した。

「かしこまりました。では少々お待ち下さい」

身分証を同サイズくらいの魔道具マジックアイテムで読み取り、頭を下げてルーニンが厨房に消えると、俺は身分証をポーチに仕舞った。
この身分証の提示で高額な食器の貸し出し料金が免除されるのだ。
シーリアの門番だと証明された事で、借りた食器を返却するだけで済む。
まぁ返さなければ違約金を払わなければならないのだが、三日以内に返せば無料なので、街に住む者は皆この制度を利用していた。
因みにこの超便利な魔道具マジックアイテム、勇者様のお手製らしい。
神様は与える所には二物も三物も四物も才能をお与えになるようだ。
そしてこの万能な魔道具マジックアイテムは身分証を持てない者からはステータスを読み取る事も出来るらしく、そんな客達は説明を受けてから「ステータス・オープン」と言わされていた。
言っても本人にしか見えないステータスをどうやって読み取っているのかは謎なんだが、まぁ作ったのが勇者様だからな。
俺なんかが考えても分かりはしないんだろう。
しかし戦う事も仕事の一環な俺達にはステータスの開示など冗談じゃないが、非戦闘員の彼らには気にもならないといった所らしく、店内で飲食する際に身分証やステータスを提示すると割引きしてくれるサービスもあった為、読み取らせる事に躊躇する者は殆ど居ないのだった。

「イヴァンさん、お待たせ致しました。こちらのレジでお会計をお願いします」
「いくらになる?」

俺はレジでルーニンに言われた金額を支払い、温かい料理が詰まったバスケットを受け取った。

以前、この店で『レジ』と呼ばれている魔道具マジックアイテムについても一度ルーニンに尋ねた事があるんだが、何でも、客が注文した料理を登録すると料理の合計金額を計算して表示してくれる優れ物なんだと教えて貰い驚いた事を思い出していた。

「あ、そうだ!バスケットの中に試作品の『キッシュ』が二切れ入ってるんで、今度来た時にでも感想を聞かせて下さいね。ダルトン隊長にも宜しくと言っといて下さい」
「分かった、ありがとな。伝えとくよ」

「ルーニン、三番テーブル空けるわよ!」
「了解、姉さん!レジしたらすぐ行くよ!」

忙しそうな姉弟に手を振り焦って店を飛び出した俺はバスケットを小脇に抱え直した。
蓋の隙間から香る涎が出そうな匂いに誘惑されながらも、揺らさないように気を付けて走り始める。
今頃は先輩もお腹を空かせて待っている事だろう。
俺は走るスピードを上げて、大急ぎで西門に向かうのだった。

「おう、お疲れさん。釣りは駄賃に取っといていいからな」
「子供のお使いかよ。まぁ貰いますけど」

先輩と一言交わし、待機所に入る。
と、待機所内のテーブルには先輩が既に水の入った瓶とグラスを用意してくれていて、『先に半分食え』と書かれたメモが置いてあったのだった。

では遠慮なく。
俺はバスケットを開けて料理を取り出すと、同梱されていた二組のナイフやフォークとスプーンで半分に分けて食べ始めた。

美味いッ!!
物っ凄く、美味い!

これらの料理を考えたのも勇者様だって言うんだから、あの人ホント天才過ぎてマジで引く。
確かに店主のミケーリュウスさんの腕も凄いからなんだろうけど、容姿端麗の癖に剣も魔法も一流で、腕っ節も強く、学もあり、鍛治も錬金術も魔道具作りも神業級…って。
その上料理まで…

神様はホントこの人に何をさせたいんですかね?
まだ15歳だってのに、逆に色々と大変そうで羨ましくも何ともないわ、俺。

モグモグとパエリアを頬張りながら、キッシュを一切れ摘み、パエリアを飲み込んですぐにキッシュを口に放り込んだ。

あ~~
やべェ、これも美味いぃ…

ちょっと値が張るから中々食べに行けないけど、あの店の料理は月に一度の贅沢って感じでホントやめられない。
たぶん一度でもあの店の料理を食べた者はみんなそうだろう。

行儀悪くペスカトーレをズルズルと啜って、最後にグラタンで締めた俺はグラスに注いだ水を一気に飲んでから立ち上がった。

冷めてしまう前に先輩と門番を交代しないと!

「先輩、ご馳走様っした!」
「美味かったか?後は宜しく頼むな」
「はい!飯の分は頑張りまっス」
「現金な奴め」
「あ、ルーニンが『キッシュ』ってスゲェ美味い試作品をオマケしてくれたんで、味の感想を伝えといてやって下さいね」
「分かった。食ってから食器を返す時にでも言っとく」

こうして俺は午後から西門の門番として張り切って働いていた訳なんだが………

まさかこの後、あの・・勇者様ご本人に遭遇する事になるとは…
夢にも思っていなかった俺なのだった。



ちなみにあの時………
恐怖の余りへたり込んだ俺は少しだけ下着を濡らしてしまったのだが、
その事は…
未来永劫、絶対誰にも秘密だったり、する。
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