僕、勇者サマの養い子になりました

髙城

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そんな事言われても、
はっきり言って朝食に要望なんて…ない。
僕にとっての食事とは、基本的には空腹感が無くなりさえすればそれで充分なものだからだ。

僕は首を横に振る事で要望は無いんだって意思表示をすると、アヤさんは少しガッカリした顔で「もっと我儘いっぱい言って欲しいのにぃ」とボヤいていた。

そんな事言われても……

アヤさんがフロントと連絡が取れるインターホンみたいな魔道具マジックアイテムで朝食を頼んでいるのを横目で見つつ、僕はリビングの大きな窓から外の街並みを見下ろしてみた。

昨晩は真っ暗で何も見えなかったんだけど、既に朝も8時を過ぎているからシーリアの街はとっくに動き出していたようで、僕は手に様々な荷を持って忙しなく行き来している人々の様子をぼんやりと眺め始めた。

一体どんな仕組みになっているのか、屋外の音は全く室内には入って来ないんだけど、見てる限りでは賑やかな街の雰囲気に、早くも僕は浮かれてドキドキと胸を高鳴らせるのだった。

今日の空は快晴で青く澄み渡り、雲は高く、雨などの心配は無用な感じだ。
こう言うを絶好の観光日和……
っていうのかな?

空を見上げて目を細めていた僕は大きく息を吐くと、ゆっくりアヤさんの方へ振り返った。

実はさっきからうなじの辺りがチリチリしてて、学校で花壇の草むしり中に野良猫にガン見されてた時みたいな感覚がしてたんだよね。

「窓の外を見るのはもういいのかい?」

僕の事をジーっと観察していたらしいアヤさんが、ニコニコしながら窓際まで歩いて来ると、僕の頬をひと撫でしてから頭をポンポンと優しく叩いた。
僕は頷きながら、ふと近付いて来る気配に意識を向けると、ゼアラさん達がすぐ近くまで来ている事が分かった。

「ん?ああ、ゼアラが来たんだね」

僕の異変に気が付いたアヤさんが、このフロアの入口ドアへと歩いて行く。
ノックされる前にアヤさんがドアを開けると、料理の乗ったワゴンを押していた犬耳さんが目を丸くして驚いていた。

そうだよね。普通は驚くよね。
なんでゼアラさんノーリアクションだったんだろ?凄いな。

「おはようございますアヤト様。お待たせして大変申し訳ございませんでした。
本日はご要望の『和朝食』となっております。ワゴンのお料理はわたくしどもでテーブルにセッティングさせて頂いても宜しいのでしょうか?」
「いや、そのままで。私が並べるから後はいいよ」
「かしこまりました。それではごゆっくりとお召し上がり下さいませ。失礼致します」

素早く二人が居なくなってホッと息を吐く。
アヤさんの後ろから覗いてただけなのに、無意識に緊張していた僕は肩の力を抜いてワゴンを見詰めた。

「勝手に決めちゃったけど、メインは刺身や焼き魚だよ。大丈夫かな?苦手だったりしない?食べられそう?」
「はい、大丈夫です。好き嫌いは無いと思うので」
「そう?なら良かった。今回は『日本の旅館の朝食』をイメージして用意させたんだよ。昨日は『洋食』って感じの晩ご飯だったからね」
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