僕、勇者サマの養い子になりました

148.

「何？どうし……ッ！」

すぐにアヤさんは気が付き、スラリと音も無く腰から剣を抜いて構えた。
僕がしがみ付いたのを確認すると、踏み出した足で勢いよく真っ白な砂地を後ろに蹴る。
瞬きの間に岩ガニが目の前に迫っていた。

見た限りでは剣を一振り、だけどその瞬間、幾つもの金属音が重なって聞こえ、気が付けば岩ガニの背負っていた白い岩は粉々に砕け散っていたのだった。

「あれ？コイツだけ中身の色が違うね。岩も妙に硬かったし」

アヤさんに言われて見てみれば、他のは焦げ茶色だったのに、20cmくらいで象牙色のヤドカリが砕けた岩の下に埋もれていた。

「アルビノ？希少種？味が違ったりするのかな？ちょっと【鑑定】してみるね」

そう言うと、アヤさんは白い岩ガニをジッと見詰めてから頷いた。

「やっぱり希少種だ。岩ガニって戦闘力は大した事ないのにやたらランクが高いのは【隠密】が凄いからなんだけど、これはＡランクだから更に凄いみたいだな。良く見付けたね、イツキ」

僕の髪を梳くように撫でて整えながら、アヤさんは笑顔で褒めてくれると、僕は【鑑定】すると何が見えるのかが気になってジッと顔を見詰めてしまった。

「ん？何？どうしたの？」
「【鑑定】すると、どんな風に見えるんですか？」
「見たい？見たい？じゃ、目を閉じて」

言われて僕は大人しく目を閉じる。
アヤさんの温かい手が僕の両目を覆って暫くすると、以前ステータスを見せて貰った時のように、瞼の裏に文字が浮かび上がってきた。

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岩ガニ（希少種）食用可
【ランク】Ａ
【年　齢】５
【性　別】メス
【レベル】３８
【スキル】土魔法５　　　空間魔法３
　　　　　隠密１０
【状　態】死亡
【生息地】シーリア近郊の海岸沿い
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うわぁ、凄いな。
やっぱりゲームみたいだ！
僕も頑張って覚えたら【鑑定】って出来るのかな？
その内アヤさんに教えて貰っちゃおう。

ワクワクしていつの間にか口角が上がっていたらしい僕の頬を、アヤさんは瞼を覆っていた手で何度か撫で回すと、僕をゆっくり砂の上に下ろしてくれた。

よろけつつも何とかアヤさんに掴まって、自分の足で立つ。
と、思った以上に柔らかい足裏の感触に驚いて目を瞬しばたたかせた。

「公園の砂場と違って、ここの砂は特にサラサラだからね、裸足で歩いてみても気持ちいいんじゃないかな」

アヤさんは何を思い出したのか、含み笑いで僕を見ると、いきなり僕を小脇に抱えてブーツを脱がせてしまった。

ちょっ、いきなり、何を！？

突然裸足で砂の上に立たされて困惑していると、アヤさんはブーツをさっさと無限収納アイテムボックスに仕舞ってから歩き始めた。

……さっぱり意味が分からない。

でも訳が分からなくても取り敢えずに付いていくと、砂浜を歩きながら裸足で砂を踏み締める感触に、僕は思わず目を輝かせてしまったのだった。