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塵芥のための舞台(6)
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「ここで私の人生は終わるのか?」
ウランフは一人考える。あの舞台に佇む男は、親友にして主君、バトゥに間違いない。
なぜこのような事態になったか見当もつかないが、余興とはいえ正式な晩餐会の場でこのような無礼、条約の破棄はもちろん、戦争になってもおかしくない。
それはこの場の出席者全員の考えのようで、現にウルスの文官、武官はもちろん、狼たちですら不安げにざわついている。王国側も戦争は望んではいないだろう。しかし戦争をするデメリットより、戦争をしないデメリットの方が大きければ、不本意だろうが決断は下される。
故に何とかこの場を丸く収めなければならない。
文官の筆頭であるウルスの宰相どのは経験豊かで有能なお方だが、高齢で不測の事態に弱い。武官の筆頭は、ウランフも旧知の勇猛果敢で鳴る男だが、まさに今、こちらを不安げに見つめている。役に立つとは思えない…。
自分が舞台に駆け上がり、主君を引き摺り下ろして、泣いて詫び、詫びの印に自らの喉を裂いたとしてこの場が収まるか?否、それとてこの場が収まる保証はない。
それとも宰相どのに因果を含め、この役割をお願いするか…。否、いかにこちらの無礼とはいえ、自国の王の無礼を詫びるため、宰相が自らの首を他国の王に差し出すなど、ウルスを割ることなりかねない…。
「八方塞がりか…。」
そうであっても何もしないわけにはいかない。今、王国側から誰何が無いのはある意味の温情だろう。ウルスの側から何とか動かねば、最悪の事態になりかねない。それを避けるためであれば成功する見込みが低かろうが、この首を差し出さねばならない…。
「大変なことになった…。」
舞台の上に佇のは間違いなくウルス王・バトゥ。舞台に上がり、微動だにしないこと、王国側よりむしろ、ウルスの側が騒がしいことから、元より計画された行動では無いのだろう。
ジークベルトが仕えるアウグストにも言えることだが、強く加護を受けた英雄という人物は兎角突飛な行動を取りやすい。
普通では無い人物だから神や精霊に愛されるのか、神や精霊に愛されるから普通では無い人間になるのかはわからないが、とにかく交渉や政には向かないことが多い。
我が王国の王は加護に依らず、その賢明なる思考に基いて政を行うお方であるので問題はない。しかしウルスのように、王が直接加護を受け、よくも悪くもその加護に依って国を動かすというのは、常識では考えられないことが起こるようだ。
王国の宰相にして外務卿たる、かの御仁がいれば、何らかの方策が示されるのであろうが、あいにく体調を崩し、この場にはいらっしゃらない。官僚たる、外務次官たちの手には余る。王が直接このような事態に対応するなど論外だ。
立ち会い人たる聖教国のお歴々など、ウルス王よりタチが悪い。
「そうなると…。」
ジークベントはチラリと主君であるアウグストの方を見る。アウグストの周りには恐らく自分と同様に考えたであろう官僚たちが集まっている。
聖銀の騎士・アウグスト・ファン・ワーゲン、この場を何とかまとめるに、十分値する王国の英雄は、威厳を持って事態を見守ってように見える。しかし、辺境伯家の寄り子として、物心がついた時からの付き合いであるジークベルトには、アウグストが既に思考を放棄している事がすぐに理解できた。
「これはウルスのどなたかが命を捨てるしかないか…。」
それも後味が悪い。命を捨ててでもという時は確かにある。しかし、ここがそうかと言われれば正直頷けない。これは単なる行き違いの類であり、納めるには誰かが命を捨てる必要があるのかもしれないが、誰もこの場を納めるために命を捨てて欲しいとは思っていない。
もう一度、アウグストの方を見る。
すると、ふと、アウグストと目があう。
アウグストは目を逸らさない。
ジークベルトは首を傾げる。
それでもアウグストは目を逸らさない。ジークベルトの背筋に冷たい汗が流れる。
私ですかと声には出さず問う。
アウグストは我が意を得たりと頷く。
ジークベルトは動揺を顔に出して見せるも、アウグストは既に自分の仕事は終わったとこちらを見ていない。
「何ということだ…。」
ジークベルトは聖銀の団の騎士隊長の一人にして、アウグストの次席幕僚たる我が身を呪う。しかし今更どうにもならない。もう一度アウグストの方を見ても、聖銀の騎士は子供のようにこちらを決して見ようとしない。
「されこれはどうしたものか…。」
残された時間はそれほどない、舞台の上のウルス王が何らか言葉を発した後ではもう遅い。
ウランフは一人考える。あの舞台に佇む男は、親友にして主君、バトゥに間違いない。
なぜこのような事態になったか見当もつかないが、余興とはいえ正式な晩餐会の場でこのような無礼、条約の破棄はもちろん、戦争になってもおかしくない。
それはこの場の出席者全員の考えのようで、現にウルスの文官、武官はもちろん、狼たちですら不安げにざわついている。王国側も戦争は望んではいないだろう。しかし戦争をするデメリットより、戦争をしないデメリットの方が大きければ、不本意だろうが決断は下される。
故に何とかこの場を丸く収めなければならない。
文官の筆頭であるウルスの宰相どのは経験豊かで有能なお方だが、高齢で不測の事態に弱い。武官の筆頭は、ウランフも旧知の勇猛果敢で鳴る男だが、まさに今、こちらを不安げに見つめている。役に立つとは思えない…。
自分が舞台に駆け上がり、主君を引き摺り下ろして、泣いて詫び、詫びの印に自らの喉を裂いたとしてこの場が収まるか?否、それとてこの場が収まる保証はない。
それとも宰相どのに因果を含め、この役割をお願いするか…。否、いかにこちらの無礼とはいえ、自国の王の無礼を詫びるため、宰相が自らの首を他国の王に差し出すなど、ウルスを割ることなりかねない…。
「八方塞がりか…。」
そうであっても何もしないわけにはいかない。今、王国側から誰何が無いのはある意味の温情だろう。ウルスの側から何とか動かねば、最悪の事態になりかねない。それを避けるためであれば成功する見込みが低かろうが、この首を差し出さねばならない…。
「大変なことになった…。」
舞台の上に佇のは間違いなくウルス王・バトゥ。舞台に上がり、微動だにしないこと、王国側よりむしろ、ウルスの側が騒がしいことから、元より計画された行動では無いのだろう。
ジークベルトが仕えるアウグストにも言えることだが、強く加護を受けた英雄という人物は兎角突飛な行動を取りやすい。
普通では無い人物だから神や精霊に愛されるのか、神や精霊に愛されるから普通では無い人間になるのかはわからないが、とにかく交渉や政には向かないことが多い。
我が王国の王は加護に依らず、その賢明なる思考に基いて政を行うお方であるので問題はない。しかしウルスのように、王が直接加護を受け、よくも悪くもその加護に依って国を動かすというのは、常識では考えられないことが起こるようだ。
王国の宰相にして外務卿たる、かの御仁がいれば、何らかの方策が示されるのであろうが、あいにく体調を崩し、この場にはいらっしゃらない。官僚たる、外務次官たちの手には余る。王が直接このような事態に対応するなど論外だ。
立ち会い人たる聖教国のお歴々など、ウルス王よりタチが悪い。
「そうなると…。」
ジークベントはチラリと主君であるアウグストの方を見る。アウグストの周りには恐らく自分と同様に考えたであろう官僚たちが集まっている。
聖銀の騎士・アウグスト・ファン・ワーゲン、この場を何とかまとめるに、十分値する王国の英雄は、威厳を持って事態を見守ってように見える。しかし、辺境伯家の寄り子として、物心がついた時からの付き合いであるジークベルトには、アウグストが既に思考を放棄している事がすぐに理解できた。
「これはウルスのどなたかが命を捨てるしかないか…。」
それも後味が悪い。命を捨ててでもという時は確かにある。しかし、ここがそうかと言われれば正直頷けない。これは単なる行き違いの類であり、納めるには誰かが命を捨てる必要があるのかもしれないが、誰もこの場を納めるために命を捨てて欲しいとは思っていない。
もう一度、アウグストの方を見る。
すると、ふと、アウグストと目があう。
アウグストは目を逸らさない。
ジークベルトは首を傾げる。
それでもアウグストは目を逸らさない。ジークベルトの背筋に冷たい汗が流れる。
私ですかと声には出さず問う。
アウグストは我が意を得たりと頷く。
ジークベルトは動揺を顔に出して見せるも、アウグストは既に自分の仕事は終わったとこちらを見ていない。
「何ということだ…。」
ジークベルトは聖銀の団の騎士隊長の一人にして、アウグストの次席幕僚たる我が身を呪う。しかし今更どうにもならない。もう一度アウグストの方を見ても、聖銀の騎士は子供のようにこちらを決して見ようとしない。
「されこれはどうしたものか…。」
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