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塵芥のための舞台(5)
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美しい…。
篝火だけが残されて、どこからともなく聞こえてくる異国の笛と鼓の音に合わせて、二人の少女が舞う、その舞台を見てウランフは素直に感心する。
演目は、小耳に挟んだ話によると、鍛治に関する故事に習っている。古来の刀鍛冶が王より刀を打つよう命じられた、しかし思う様な刀が打てず、思い悩んだ。そんな逸話がもとになっているらしい。
「王国はやはり、人材が厚い。」自嘲気味な呟きが自然と口をついてる。
王国の官吏の質が高い、先ほどウランフはそう考えていた。一方、法や官吏を揃える事は比較的容易である、ともウランフは考える。しかし、現実に法や官吏を生かす事はそれほど容易ではない。優秀な官吏は、与えられた職務、定められた権の範囲において、十分に役割を果たす。法は官吏に与える職務、権の範囲を定める。
しかし、法が全ての事態を考え、定められているわけではない。今日のような前例のない宴において、想定外の事態がまま起こる。このような時、官吏達は無力であり、時に馬鹿のようになる。官吏達が解決法を考えられぬわけではない。しかし、それぞれの官吏の職務と権、それらのちょうど隙間に問題が起こった時、職務を冒さず、権を濫用しないよう、官吏たちを戒める法が、彼らから考える力を奪う。このような時、誰かがこの戒めを解いてやらねばならない。
それは、王や大臣ではない。そこまで身分が高いものが、一々些事に構ってられない。法を疎かにせず、しかし自らで責任と判断を為せるもの。そういった、士官や貴族がいて、初めて官吏という歯車が周り、国は王や大臣が目指す方向に動き出す。
今回の宴、二人の王、神官団それらが居並ぶ、この場をつつがなく回す。そんなことができる人物は一体どんな人物かとウランフは王国の官吏達が居並ぶ方に目を向けるのであった。
「見られている…。」
ジークベントはジュチ・ウルスから微かな視線を感じていた。
舞台の上の少女達の舞は素晴らしい。今は一人の少女が傍に控え、小柄な少女が軽やかに舞っている。少女の軽やかな舞とともに下級の火の精霊がパチリパチリと顕在しては異界に帰る。それは、はたまた炎自身が舞うような、そんな美しさを放っていた。
ゆえにこの場のほとんどの人間の目は舞台に注がれている。そんな中、中級官吏や警護の騎士団の詰所に注がれる視線。放置するわけにはいかぬとジークベントは視線を辿る。
「気付かれたか」
無理もないと、ウランフは考える。舞台の上では今まで控えていた、髪の長い少女が静かに踊り出している。その少女は炎を司る、何らかの神の祝福があるのだろう。先ほどまでの少女の踊りでは小さなトカゲが顕在しては消えていた。
しかし髪の長い少女が踊るにつれ、気は練れら今度はハッキリと狐の姿を現し始めている。それは先ほどまでのトカゲと比べて段違いに位階が高く、現にウルスの武官の狼達までが、少女と狐の舞に、目を奪われていた。
そんな中、舞台に目を向けるでもなく、警護の詰所に視線を送っていれば、怪訝にも思われるのだろうと、こちらの様子を伺う、赤毛の騎士を見つめ返す。そしてこのような見事な舞にも意識を奪われず、己の任務を果たすこの騎士こそが、今宵の宴を整えた鍵なのだろうと理由もなしに確信し、一礼を返すのであった。
「あれはウルスの懐刀、ウランフどのか…。」
ジークベルトが舞台を挟んで、ちょうど反対側からこちら側へと視線を送る、精悍な文官を見つめながら、内心つぶやく。ジークベルト達、この会議への王国側の主な出席者は、もちろんこの交渉が始まる前にウルス側の主な出席者に関する十分な説明を受けていた。もっとも、ジークベルトは直接交渉に携わる立場になく、遠くから顔を覗く機会があるかも分からないと、気楽に受け流していたが…。
舞台の上では顕在化した炎の狐と二人の少女が見事な舞を見せている。この題目はどうやら、炎の神の御使いである狐を向う槌に、二人の少女が鎚を振るい、一本の剣を打ち上げる、そんな筋であるらしい。
それは単なる余興などには留まらない。舞の進行とともに徐々に顕在化する御使の位階は上がり、ほとんど奇跡の発現といってもよい。現に聖教国の席の方が騒がしい。もしかすると聖教国からの参加者の何人かの目的は、この舞だったのかもしれない。
「眼福だな…。」
舞はいよいよ終盤にかかっている。この舞が終われば、今日の宴もお開きになるだろう。このような奇跡を目の当たりにして、まだ宴を続けようと思うものはいない。この後は奇跡を目の当たりにできた幸運を噛み締め、その余韻に浸る時間なのだから。
そうなれば今日の自分の任務も終わる。そう、考えるジークベントの目の端に、舞台に佇む、一人の武人。
篝火だけが残されて、どこからともなく聞こえてくる異国の笛と鼓の音に合わせて、二人の少女が舞う、その舞台を見てウランフは素直に感心する。
演目は、小耳に挟んだ話によると、鍛治に関する故事に習っている。古来の刀鍛冶が王より刀を打つよう命じられた、しかし思う様な刀が打てず、思い悩んだ。そんな逸話がもとになっているらしい。
「王国はやはり、人材が厚い。」自嘲気味な呟きが自然と口をついてる。
王国の官吏の質が高い、先ほどウランフはそう考えていた。一方、法や官吏を揃える事は比較的容易である、ともウランフは考える。しかし、現実に法や官吏を生かす事はそれほど容易ではない。優秀な官吏は、与えられた職務、定められた権の範囲において、十分に役割を果たす。法は官吏に与える職務、権の範囲を定める。
しかし、法が全ての事態を考え、定められているわけではない。今日のような前例のない宴において、想定外の事態がまま起こる。このような時、官吏達は無力であり、時に馬鹿のようになる。官吏達が解決法を考えられぬわけではない。しかし、それぞれの官吏の職務と権、それらのちょうど隙間に問題が起こった時、職務を冒さず、権を濫用しないよう、官吏たちを戒める法が、彼らから考える力を奪う。このような時、誰かがこの戒めを解いてやらねばならない。
それは、王や大臣ではない。そこまで身分が高いものが、一々些事に構ってられない。法を疎かにせず、しかし自らで責任と判断を為せるもの。そういった、士官や貴族がいて、初めて官吏という歯車が周り、国は王や大臣が目指す方向に動き出す。
今回の宴、二人の王、神官団それらが居並ぶ、この場をつつがなく回す。そんなことができる人物は一体どんな人物かとウランフは王国の官吏達が居並ぶ方に目を向けるのであった。
「見られている…。」
ジークベントはジュチ・ウルスから微かな視線を感じていた。
舞台の上の少女達の舞は素晴らしい。今は一人の少女が傍に控え、小柄な少女が軽やかに舞っている。少女の軽やかな舞とともに下級の火の精霊がパチリパチリと顕在しては異界に帰る。それは、はたまた炎自身が舞うような、そんな美しさを放っていた。
ゆえにこの場のほとんどの人間の目は舞台に注がれている。そんな中、中級官吏や警護の騎士団の詰所に注がれる視線。放置するわけにはいかぬとジークベントは視線を辿る。
「気付かれたか」
無理もないと、ウランフは考える。舞台の上では今まで控えていた、髪の長い少女が静かに踊り出している。その少女は炎を司る、何らかの神の祝福があるのだろう。先ほどまでの少女の踊りでは小さなトカゲが顕在しては消えていた。
しかし髪の長い少女が踊るにつれ、気は練れら今度はハッキリと狐の姿を現し始めている。それは先ほどまでのトカゲと比べて段違いに位階が高く、現にウルスの武官の狼達までが、少女と狐の舞に、目を奪われていた。
そんな中、舞台に目を向けるでもなく、警護の詰所に視線を送っていれば、怪訝にも思われるのだろうと、こちらの様子を伺う、赤毛の騎士を見つめ返す。そしてこのような見事な舞にも意識を奪われず、己の任務を果たすこの騎士こそが、今宵の宴を整えた鍵なのだろうと理由もなしに確信し、一礼を返すのであった。
「あれはウルスの懐刀、ウランフどのか…。」
ジークベルトが舞台を挟んで、ちょうど反対側からこちら側へと視線を送る、精悍な文官を見つめながら、内心つぶやく。ジークベルト達、この会議への王国側の主な出席者は、もちろんこの交渉が始まる前にウルス側の主な出席者に関する十分な説明を受けていた。もっとも、ジークベルトは直接交渉に携わる立場になく、遠くから顔を覗く機会があるかも分からないと、気楽に受け流していたが…。
舞台の上では顕在化した炎の狐と二人の少女が見事な舞を見せている。この題目はどうやら、炎の神の御使いである狐を向う槌に、二人の少女が鎚を振るい、一本の剣を打ち上げる、そんな筋であるらしい。
それは単なる余興などには留まらない。舞の進行とともに徐々に顕在化する御使の位階は上がり、ほとんど奇跡の発現といってもよい。現に聖教国の席の方が騒がしい。もしかすると聖教国からの参加者の何人かの目的は、この舞だったのかもしれない。
「眼福だな…。」
舞はいよいよ終盤にかかっている。この舞が終われば、今日の宴もお開きになるだろう。このような奇跡を目の当たりにして、まだ宴を続けようと思うものはいない。この後は奇跡を目の当たりにできた幸運を噛み締め、その余韻に浸る時間なのだから。
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