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第十三話『波乱の遺言書【前編】』
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「優大様!大変です!」
今日の授業も終わり、門を出たところで、血相を変えた寛が駆け寄って来た。優大は眉をひそめた。なるべく寛には大学近くに姿を出すなと言ってあったのだ。しかし寛の表情から緊急事態であることを察したので、静かに車が止まっているところまで少し早足で歩み始める。道端で話せる内容でもないのだろう。
「それで、なにがあったんだ?」
車に乗った優大は鋭い目つきで問いかける。寛は少し息を整えて口を開く。
「お祖父様がお亡くなりに...」
「...そうか。」
以前から寝たきりだったのでそう驚くことではないが、寛を連れてきたのはじい様だったから、思うところはあるのだろう。
「それで、ご家族全員に召集がかかっています。」
「...遺言だな?」
「はい。あとそれと...」
寛は少し口籠もる。なんだか言いにくそうな雰囲気を出している。
「他に何かあるのか?」
「それが、秀和様にも出席の義務があると...」
「なにっ!?」
今まで秀和が呼ばれることは基本的に、いや、絶対なかった。愛人との子など『存在しない』とされていたのだ。それがここになって召集されたってことは...
「...遺言は秀和にも関係あるってことか。」
「おそらくそうだと思います。」
「...迎えに行こう、出してくれ。」
「承知しました。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ーーだからって母さん!俺は絶対行かないからな!」
秀和はめずらしく怒鳴って電話を切った。父方の祖父が亡くなったんだそうだ。だから急に行けって言われたって、俺、顔も知らないし。行く義理ないじゃん。
「でもヒデちゃんのじいちゃんが亡くなったんだろ?行かなくていいのか?」
ちょうど部屋に来ていた隆則が問いかける。ムッとした秀和は口をへの字に曲げた。
「会ったこともない、母さんを裏切った父方の家族なんて誰が会いたいんだよ。」
「(あー、そーゆーことだったのか。)」
「なんだって?」
「いや、結構複雑なんだなって思ってさ。ヒデちゃん全然自分のこと話さないし。」
「確かに?まあでも、家族の問題って人に話すことないしな。」
「いや、ヒデちゃんはそれ以外も全然話してくれないじゃん!」
「ごめんって。今度から気をつける。なんでも話すよ。」
「...えっ、ホント?今ちゃんと聞いたからな!はぁ~ついにだよ、ついに俺にも『なんでも話せる仲』の友達ができたんだ!なあなあ、これからは「ヒデ」って呼び捨てでもいい!?」
適当に返した言葉に、相当喜んでいる隆則を目の当たりにし、少し罪悪感に苛まれると共に、自分とのテンションの落差に秀和は困惑する。
「え、いや、あの、ちょっと?」
隆則は聞く耳を持たず本当に嬉しそうに独り言を言っている。やっと止まったかと思うと、ギラギラした目つきで迫ってきた。
「いーだろ?な?なーなーなー?」
「ーーわかった、わかったから落ち着いてくれよ!」
しばらくして、やっと止まったかと思えば、「はしゃぎすぎた」って急に落ち込みだしたり、やっぱり面白い奴だなと秀和は思うのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「秀和様、お迎えにあがりました。」
スーツ姿の身長は秀和とほぼ同じでツーブロックの男が訪ねてきた。後ろから隆則の不安そうな視線を感じる。
「色々不安もあるでしょう、良かったらお友達も一緒にどうですか?」
「えっ、俺!?行っちゃっていいやつなの?...いいやつなんですか?」
予想外の展開に秀和も隆則も困惑する。
「流石に遺言を一緒に聞くというのはできませんが、秀和様の付き人としてなら同行可能です。」
本当は友達を連れてくるなんて許可されて無いが、優大がむしろ連れてこいと言うので仕方がなかった。客人としてじゃ無いなら使用人として連れていくしかない。
寛は隆則を見つめる。何故かどこかで会ったことのある気がしたが、どうしても思い出せなかった。
寛が2人を車の前まで連れてくると、優大は助手席に移動していた。2人を後部座席に座らせてあげろということなのだろう。
「秀和様、こちらは優大様、秀和様の実兄にあたります。」
「よろしく。」
優大がふてぶてしく挨拶をすると、いきなり隆則が笑い出した。状況が掴めない寛と秀和は困惑する。笑い終わった隆則が口を開く。
「緊張しすぎだって先輩、笑顔笑顔!」
「「先輩?」」
寛と秀和が同時に質問する。隆則が続けて説明する。
「うん。実は高校が一緒なんだ。ここの大学にしたのも、先輩に勧められたからなんだよ~。サークルも一緒だからたまに話したりするんだ。まあ、先輩ほとんど活動しに来ないけど。」
「週一しか行かないやつがどうしてそう言い切れるんだ。...そんなことより、今度こそよろしくな、秀和。」
「あっちょっと!そんなことではないでしょ!」
隆則のことはそっちのけで優大は手をさし出した。秀和は、優大の営業スマイルと言わんばかりの満面の笑みにちょっと怖がりつつも握手をした。思ったより悪い人じゃ無さそうだなと感じたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「着きました。優大様の別荘でございます。」
「あれ?目的地の場所とはちがうよね?」
隆則が質問する。優大が答える。
「当たり前だ。そんなみすぼらしい格好で家の門をくぐってみろ、たとえ家族だとしても追い出されるぞ。特に秀和は敵視されてるだろうから細かくチェックされるはずだ、気をつけろよ。」
秀和は不機嫌な顔をした。
「敵視だって?俺、なんもしてねーじゃん。顔も知らねえのに理不尽だろ。」
優大は難しい顔をした。寛に説明するよう指示した。
「長男の優大様の他にご兄弟は、長女の香織様、次女の衣織様、三男の敦史様がいらっしゃいます。優大様以外は秀和様より年下です。今回、秀和様が呼ばれたことによって、取り分が減るのが許せない方もいるかもしれません。しかし、一番敵意を向けてくるのは奥様だと推測されます。唯一血が繋がってませんし...」
秀和はやっと状況が掴めてきた。つまりは、敵地に単騎で乗り込むようなものってことだ。奥様とやらの息がかかった子供たちとも敵対する可能性が高いし、海外ドラマとかである遺産を巡った殺人まであるかもしれない...
「質問でーす。」
少しの間黙って聞いていた隆則が手を挙げた。
「なんだ。」
「少なくとも先輩は味方なんですよね?」
秀和はそうだったと言わんばかりに素早く優大を見つめた。優大だって秀和の敵になる可能性はゼロじゃない。
「...さて、どうかな。それは遺言の内容次第だ。」
しばらく、冷たく無音な時間が流れる。それに耐え切れず声を出した者がいた。
「そりゃあそうだよな。誰だって、金は大事だもんなっ!」
秀和は勢いよく車から出る。隆則は頬を膨らませた。
「せっかくのアピールチャンスだったのに変に怖がらせないでやってよ!」
そう言って秀和を追った。
その様子を黙って見ていた寛はため息をついた。
「俺は先に服用意してきますから、その間に、謝っとくんですよ?」
「わかってるよ。」
「優大様と敵対する時は、奥様とは敵対しないってこともちゃんと説明しといて下さいよ?」
「なあ寛樹...遺言聴くのは多分俺が一番怖がってると思う。」
寛は驚きつつも困ったように笑う。
「だろうな。優大の隣にはいてやれないが、近くには居るからな、勇気持て。弟くんの前では強がりたいって気持ちはわかるけど、無理しすぎるなよ?」
「...ああ。よし寛、服のついでにハーブティーも用意しといて。」
「かしこまりました。ご用意しておきます。」
優大は、寛を『寛樹』と呼んだ時だけ友達として接してもらっていた。寛は、雇われている以上普段からフランクに接することはできないが、友人としての優大の事も大事にしたいと思っている。
【後編へつつぐ】
今日の授業も終わり、門を出たところで、血相を変えた寛が駆け寄って来た。優大は眉をひそめた。なるべく寛には大学近くに姿を出すなと言ってあったのだ。しかし寛の表情から緊急事態であることを察したので、静かに車が止まっているところまで少し早足で歩み始める。道端で話せる内容でもないのだろう。
「それで、なにがあったんだ?」
車に乗った優大は鋭い目つきで問いかける。寛は少し息を整えて口を開く。
「お祖父様がお亡くなりに...」
「...そうか。」
以前から寝たきりだったのでそう驚くことではないが、寛を連れてきたのはじい様だったから、思うところはあるのだろう。
「それで、ご家族全員に召集がかかっています。」
「...遺言だな?」
「はい。あとそれと...」
寛は少し口籠もる。なんだか言いにくそうな雰囲気を出している。
「他に何かあるのか?」
「それが、秀和様にも出席の義務があると...」
「なにっ!?」
今まで秀和が呼ばれることは基本的に、いや、絶対なかった。愛人との子など『存在しない』とされていたのだ。それがここになって召集されたってことは...
「...遺言は秀和にも関係あるってことか。」
「おそらくそうだと思います。」
「...迎えに行こう、出してくれ。」
「承知しました。」
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「ーーだからって母さん!俺は絶対行かないからな!」
秀和はめずらしく怒鳴って電話を切った。父方の祖父が亡くなったんだそうだ。だから急に行けって言われたって、俺、顔も知らないし。行く義理ないじゃん。
「でもヒデちゃんのじいちゃんが亡くなったんだろ?行かなくていいのか?」
ちょうど部屋に来ていた隆則が問いかける。ムッとした秀和は口をへの字に曲げた。
「会ったこともない、母さんを裏切った父方の家族なんて誰が会いたいんだよ。」
「(あー、そーゆーことだったのか。)」
「なんだって?」
「いや、結構複雑なんだなって思ってさ。ヒデちゃん全然自分のこと話さないし。」
「確かに?まあでも、家族の問題って人に話すことないしな。」
「いや、ヒデちゃんはそれ以外も全然話してくれないじゃん!」
「ごめんって。今度から気をつける。なんでも話すよ。」
「...えっ、ホント?今ちゃんと聞いたからな!はぁ~ついにだよ、ついに俺にも『なんでも話せる仲』の友達ができたんだ!なあなあ、これからは「ヒデ」って呼び捨てでもいい!?」
適当に返した言葉に、相当喜んでいる隆則を目の当たりにし、少し罪悪感に苛まれると共に、自分とのテンションの落差に秀和は困惑する。
「え、いや、あの、ちょっと?」
隆則は聞く耳を持たず本当に嬉しそうに独り言を言っている。やっと止まったかと思うと、ギラギラした目つきで迫ってきた。
「いーだろ?な?なーなーなー?」
「ーーわかった、わかったから落ち着いてくれよ!」
しばらくして、やっと止まったかと思えば、「はしゃぎすぎた」って急に落ち込みだしたり、やっぱり面白い奴だなと秀和は思うのだった。
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スーツ姿の身長は秀和とほぼ同じでツーブロックの男が訪ねてきた。後ろから隆則の不安そうな視線を感じる。
「色々不安もあるでしょう、良かったらお友達も一緒にどうですか?」
「えっ、俺!?行っちゃっていいやつなの?...いいやつなんですか?」
予想外の展開に秀和も隆則も困惑する。
「流石に遺言を一緒に聞くというのはできませんが、秀和様の付き人としてなら同行可能です。」
本当は友達を連れてくるなんて許可されて無いが、優大がむしろ連れてこいと言うので仕方がなかった。客人としてじゃ無いなら使用人として連れていくしかない。
寛は隆則を見つめる。何故かどこかで会ったことのある気がしたが、どうしても思い出せなかった。
寛が2人を車の前まで連れてくると、優大は助手席に移動していた。2人を後部座席に座らせてあげろということなのだろう。
「秀和様、こちらは優大様、秀和様の実兄にあたります。」
「よろしく。」
優大がふてぶてしく挨拶をすると、いきなり隆則が笑い出した。状況が掴めない寛と秀和は困惑する。笑い終わった隆則が口を開く。
「緊張しすぎだって先輩、笑顔笑顔!」
「「先輩?」」
寛と秀和が同時に質問する。隆則が続けて説明する。
「うん。実は高校が一緒なんだ。ここの大学にしたのも、先輩に勧められたからなんだよ~。サークルも一緒だからたまに話したりするんだ。まあ、先輩ほとんど活動しに来ないけど。」
「週一しか行かないやつがどうしてそう言い切れるんだ。...そんなことより、今度こそよろしくな、秀和。」
「あっちょっと!そんなことではないでしょ!」
隆則のことはそっちのけで優大は手をさし出した。秀和は、優大の営業スマイルと言わんばかりの満面の笑みにちょっと怖がりつつも握手をした。思ったより悪い人じゃ無さそうだなと感じたのだった。
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「着きました。優大様の別荘でございます。」
「あれ?目的地の場所とはちがうよね?」
隆則が質問する。優大が答える。
「当たり前だ。そんなみすぼらしい格好で家の門をくぐってみろ、たとえ家族だとしても追い出されるぞ。特に秀和は敵視されてるだろうから細かくチェックされるはずだ、気をつけろよ。」
秀和は不機嫌な顔をした。
「敵視だって?俺、なんもしてねーじゃん。顔も知らねえのに理不尽だろ。」
優大は難しい顔をした。寛に説明するよう指示した。
「長男の優大様の他にご兄弟は、長女の香織様、次女の衣織様、三男の敦史様がいらっしゃいます。優大様以外は秀和様より年下です。今回、秀和様が呼ばれたことによって、取り分が減るのが許せない方もいるかもしれません。しかし、一番敵意を向けてくるのは奥様だと推測されます。唯一血が繋がってませんし...」
秀和はやっと状況が掴めてきた。つまりは、敵地に単騎で乗り込むようなものってことだ。奥様とやらの息がかかった子供たちとも敵対する可能性が高いし、海外ドラマとかである遺産を巡った殺人まであるかもしれない...
「質問でーす。」
少しの間黙って聞いていた隆則が手を挙げた。
「なんだ。」
「少なくとも先輩は味方なんですよね?」
秀和はそうだったと言わんばかりに素早く優大を見つめた。優大だって秀和の敵になる可能性はゼロじゃない。
「...さて、どうかな。それは遺言の内容次第だ。」
しばらく、冷たく無音な時間が流れる。それに耐え切れず声を出した者がいた。
「そりゃあそうだよな。誰だって、金は大事だもんなっ!」
秀和は勢いよく車から出る。隆則は頬を膨らませた。
「せっかくのアピールチャンスだったのに変に怖がらせないでやってよ!」
そう言って秀和を追った。
その様子を黙って見ていた寛はため息をついた。
「俺は先に服用意してきますから、その間に、謝っとくんですよ?」
「わかってるよ。」
「優大様と敵対する時は、奥様とは敵対しないってこともちゃんと説明しといて下さいよ?」
「なあ寛樹...遺言聴くのは多分俺が一番怖がってると思う。」
寛は驚きつつも困ったように笑う。
「だろうな。優大の隣にはいてやれないが、近くには居るからな、勇気持て。弟くんの前では強がりたいって気持ちはわかるけど、無理しすぎるなよ?」
「...ああ。よし寛、服のついでにハーブティーも用意しといて。」
「かしこまりました。ご用意しておきます。」
優大は、寛を『寛樹』と呼んだ時だけ友達として接してもらっていた。寛は、雇われている以上普段からフランクに接することはできないが、友人としての優大の事も大事にしたいと思っている。
【後編へつつぐ】
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