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第3章:歯車は動き出す
105話
しおりを挟む携帯で芹名に連絡を入れたい所だが、両手で手すりに掴まるのがやっとで携帯を取り出す余裕などなかった。
ここで手を放してしまえば、体勢を崩し、確実に下まで落ちてしまう。
なんとか手すりに掴まりながら下りてくと、漸く砂浜が目の前に見えてくる。
足に入る力はもう限界を超えていた。
龍司は残り5段という所で足を滑らせ、階段から落ちていった。
「っ…はぁはぁっ…っく…!」
転がるように階段から落ちると、砂浜に全身を打ち付けるように落ちる。
一番下が砂浜になっていたのが救いだった。
仮に硬いアスファルトだったら、確実に頭を打っていた。
立ち上がろうにも、立ち上がる体力など皆無に等しかった龍司は体を引きずるように匍匐前進で前に進んだ。
漸く手すりから解放された腕。
思い出したようにポケットからスマートフォンを取り出し、履歴から芹名の名前を探すとタップし、耳にあてる。
『はい、芹名でございます!龍司様、いかがなさいました!?大丈夫ですか?』
「はぁっ…はぁ、…っせり、な…か…」
コールを鳴らした瞬間に、待ってましたとばかりに電話に出た芹名が、不安感丸出しの声色で問いかけてくる。
そんな芹名の声に、どこか安心感を覚えるのはやっぱり大事な仲間からなのだろうか、自然と表情が緩むがその事を上回るように継続する痛みと苦しさが龍司を襲う。
血が足りなくなってきていているのか、頭が全くと言っていい程まわらない。
『りゅっ…龍司様!?どうなさいました?その声…なにかあったんですか!?龍司様!!』
やっぱり芹名は勘がいい。声だけでおれの現状を理解するとはな。
「せ、りな…っはぁ、はっ…誰かに…腹をッ…、撃たれた…。血が、とま、らない…!ッた、ぶん…朋也の…はぁ、仕業…だ…ッ」
『なっ…!やっぱり…ッ!トモの罠だったんですね!?許せないッ…!!すぐに向かいます!龍司様には申し訳ないのですが、実はお近くまで来てました。…必ずなにかが起きると思っていたので…申し訳ありません―。』
――…そうだと思った。
あれだけ反対していたんだ。
おれに忠誠を誓った芹名を含めたあいつらが、大人しく家で待っていないという事くらいは察しはついていた。
それでも自分の為を想って動いてくれていた芹名たちに怒る気にはならなかった。
龍司は小さく絞り出すような声で『別に良い』と告げると、芹名はもう一度『すみません』と謝る。
『龍司様のGPSを見ると…トモの家から車で5分程の所にある久良島海岸の道路沿いの砂浜を指してますが…お間違いないですか?』
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