やがて一つになる君へ

秋月。

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不思議な魅力の少女

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小さな島に船が着港すると、そこから降りるのは拓斗1人だけだった。


拓斗:「という訳でやって来ました~っと」


拓斗:俺一人だけどさ。


拓斗:「もう夕方か・・・」


拓斗:想像していたよりも遅い到着になってしまった。

拓斗:船の揺れから解放されて、地面に足を付けると新しい所に来たんだと実感をする。

拓斗:この島で何が待ってるのか・・・。

拓斗:何も無いとは思ってても、何故か行ってみたいという気持ちを抑えられなかった。

拓斗:・・・もう10年も前の事なのにな。


柚子:「こーんにーちは!」


拓斗:「へ?」


柚子:「もうこんばんはかな?」


拓斗:「夕方だし、こんばんは・・・?」


柚子:「一人で来たんですか~?」


拓斗:「ああ、そうだけど・・・君は?」


柚子:「んー、女子高生Aです」


拓斗:「は?」


柚子:「こんっっっな幼気(いたいけ)な美少女の名前を聞き出そうとしてるんですか!?」


拓斗:いきなり話しかけてきた女子高生を名乗る女の子は、そう言いながら自分の体を抱きしめるように身をよじらせる。


拓斗:「何も言っていないんだが?」


柚子:「これが都会で言うナンパって奴ですね!?連絡先をしれっと聞かれるっていう!あー、ダメですよー、ダメダメ!私スマホなんて持ってないんですから!そもそもこの島は圏外ですからね!無駄ですよー、残念でした~」


拓斗:「何も言ってないのに一人でめっっっちゃ喋るじゃねぇか・・・」


柚子:「喋らなくたってお兄さんの心なんて全部全てまるっとスリっとゴリっと、エブリシングお見通しだ!」


拓斗:「どっかで聞いたことあるフレーズだな」


柚子:「ドラマで見ましたっ!」


拓斗:「・・・古くね?」


柚子:「えーーー!!!昨日借りてきたDVDで見たばっかなのに!!!」


拓斗:「レンタルの時点で多少は古いだろ」


柚子:「くっ・・・!こやつ、出来る!!」


拓斗:「どの立場なんだよ!」


柚子:「これで勝ったと思うなよ~~~!!」


拓斗:「あー、待った待った!」


柚子:「はいぃ?」


拓斗:「少し聞きたい事があるんだけど、いいかな?」


柚子:「はいはい、なんでございましょうか~?」


拓斗:「この島に大きな屋敷ってあったりする?」


柚子:「ふむぅ・・・確かにありますね」


拓斗:「良かった。場所を教えてくれるかな?」


柚子:「ん~・・・どうしよっかなぁ~」


拓斗:少女はくるくると回って悩むようにしながら埠頭を降りると、砂浜を歩き始める。

拓斗:長い髪とワンピースを風になびかせ、夕日に向かって海の方へ進んでいく。

拓斗:夕日に透ける様な彼女がとても綺麗で、初対面だというのに少しドキっとしてまった。

拓斗:・・・黙ってれば綺麗ってのは、まさにこの事だろうか。

拓斗:そんな事を考えていると、彼女はまた喋り始めた。


柚子:「この島ってね?」


拓斗:「うん」


柚子:「滅多に人が来ないんです」


拓斗:「今降りたのも、俺一人だったしな」


柚子:「久し振りに外の人見てテンション上がっちゃった!えへへ」


拓斗:「おう・・・そっか」


柚子:「島に来るのは初めてですか?」


拓斗:「10年くらい前に1度だけ」


柚子:「10年前・・・」


拓斗:「どうかした?」


柚子:「ううん、なんでも」


拓斗:「・・・そう?」


柚子:「ふふ、女子高生Aは本当は柚子っていうらしいですよ?」


拓斗:「はぁ?」


柚子:「だーかーらー、私の名前ですよ」


拓斗:「ああ・・・めんどくさい」


柚子:「ロマンティックがないとモテませんよ?」


拓斗:「めんどくさいのとロマンティックは違うんだよ。そんな事より、屋敷の場所教えてくれよ」


柚子:「来たことあるんじゃないんですか?」


拓斗:「前来た時は親に連れられて車だったんだよ」


柚子:「なーるほど。もう少し南の方に行ったら見えてきますよ」


拓斗:「そっか。教えてくれてありがとうな」


拓斗:それだけ告げて俺は彼女に背を向けて歩き出した。

拓斗:砂場をぬけて道路に上がった頃、少女に呼び止められた。


柚子:「おにーーさーーーん!!」


拓斗:「なんだーー?」


柚子:「まーたーねー!」


拓斗:またなんてあるのかよ・・・

拓斗:まぁ、様式美ってやつかな


拓斗:「おう、またなー!」


拓斗:返事をすると彼女は本当に無邪気な笑顔をこちらに向ける。

拓斗:ちょうど水平線に沈み切る夕日が、彼女との別れを伝えているみたいだった。


拓斗:「あんまり暗くなる前に帰れよー!」


柚子:「わかったー!」


拓斗:さてと、それじゃ行きますかね。

拓斗:俺は砂浜を後にして、屋敷へと足を進めた。


柚子は拓斗を見送ると、胸を抑えながら息を荒らげる。


柚子:「はぁ・・・はぁ・・・アレは、もしかして───」


柚子はその場にうずくまり、少しすると何も無かったように歩いてその場を後にした。

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