やがて一つになる君へ

秋月。

文字の大きさ
上 下
8 / 11

忘れちゃ嫌だよ...

しおりを挟む
茜:「アタシ達はさ、病気なんだよね」

茜:「紫苑に色んな事があって、その結果産まれた病気」

茜:「病気はさ、治る時が来るのよ」

茜:「紫苑は死んだなんて言ったけど、アレ嘘」

茜:「ずっと眠ってて起きなくて、もう目覚めないと思ってたのよね」

茜:「でもさ、アンタが来てから変わった」

茜:「紫苑は生きてる、起きようとしてんの」


拓斗:「茜・・・?」


茜:「正解」


拓斗:「菫は、菫はどうなったんだ!?」


茜:「寝た。多分、もう起きないよ」


拓斗:「なんで───」


茜:「菫は、優しい子だからさ」

茜:「紫苑の為なら、きっと」


拓斗:「菫・・・」


茜:「んで、アタシも寝る」


拓斗:「はぁ!?」


茜:「今言ったじゃん、アタシは病気なんだって。アンタは病気になったらどうする?」


拓斗:「病院に行くとか?」


茜:「とっくの昔に連れてかれた」


拓斗:「じゃあ薬を飲む、とか?」


茜:「それ正解。紫苑は薬が届くのを10年待ってたの。そして、2週間前に薬が届いた」


拓斗:「薬って、俺かよ」


茜:「アンタ以外誰が居んのよ」

茜:「アンタは、この病気の特効薬なの

茜:「10年目を覚まさなかった紫苑が、起きようとしてんだからさ」

茜:「アタシ達が居なくなれば、体の負担も減る」

茜:「いいことしかないっしょ?」


拓斗:「それは、お前らは───」


茜:「死ぬ」


拓斗:「・・・。」


茜:「めんっどくさ・・・」


拓斗:「お前の気持ちはどうなるんだよ」


若干の沈黙。

静かな中で、茜が小さく息を吸うと一気に喋り出す。


茜:「死にたくない。生きてたい。寝たくない。ずっとこのまま表に居たい。病気なんて知ったことか!」

茜:「折角産まれたのに勝手に殺して、納得なんて出来るわけない!どうして私が死なないといけないの!?」

茜:「紫苑の苦しみをアタシ達3人で肩代わりして、それで10年必死に生きてきた!頭が痛くても、胸が苦しくても、この病気のことをせめられても!!」

茜:「アタシが全部受け止めてきた」

茜:「柚子は紫苑が失った明るさを補う人格」

茜:「菫は無口で少し子供のまま。あの頃の無邪気さを抱えてる。頭が良くなりたかった紫苑の為に本を読んで勉強してる、そういう役割」

茜:「じゃあ・・・アタシは?」

茜:「交通事故でお母さんが目の前でなくなってショックだった紫苑はもっと強い人になりたいと願った。それがアタシ」

茜:「・・・なによ強いって!そんなの知らない!辛いことはなんでもアタシに押し付けて!!イヤなことは全部アタシが請け負うだけ」

茜:「なんで、なんでよ・・・!」

茜:「それで、好きな男が出来て、気持ちが軽くなって、幸せになろうとしたら死ねって。死ねって!!」

茜:「これで満足?これがアタシの気持ち───」


拓斗:俺は彼女を黙って抱きしめた。

拓斗:そして、頭をなでてやる。


拓斗:「茜は、偉いな」


茜:「ふぁ、え、ちょ」


拓斗:「俺と初めて会った時にさ。胸を抱えて苦しそうにしてたろ?」


茜:「それが何よ!」


拓斗:「人格を好きに入れ替えられるんだから、苦しくなったら入れ替わればよかった。でも、茜はそれをしなかった」


茜:「・・・」


拓斗:「さっきも、柚子の様子を察して出て来てくれた。茜はさ、強い人格じゃないんだよ」


茜:「え・・・?」


拓斗:「茜は、すごく優しい人格なんだ。俺が知ってる中で、一番優しい」


茜:「そ、そんなことっ、アタシは───」


拓斗:「そうやって無理して気丈に振舞って、胸の中ではあんなに色んな物を抱えてて、それでも、さっきまでそれをおくびにも出さなかった」

拓斗:「強いからじゃない。心配をかけたくないから、優しいからだよ」

拓斗:「よく頑張ったな、茜」


茜:「う、、、んぐ、、、」


拓斗:「無理すんなよ、俺が受止めてやる」


茜:「アタシのこと、忘れちゃ嫌だよ。アタシが居なくなっても、忘れちゃ、嫌だよ」


拓斗:「忘れるかよ。一生覚えててやる」


茜:「うわぁぁぁぁぁぁん」(号泣)


拓斗:彼女は人目も気にせず、大きな声でひとしきり泣いた。

拓斗:その慟哭を、俺は忘れることは無いだろう。

拓斗:そして泣き止んだ時、そこに優しい彼女はもう居なかった。


しおりを挟む

処理中です...