そのΩ、買いました。オークションで。

塒 七巳

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 唯がどこへ行くか聞いても、ユウマはそれをはぐらかし、いつの間にかパンが入った紙袋もユウマが持っている。
 
 目的地に着くと、そのまま地上へ伸びるエスカレーターに乗り、二人は地上へと向かった。
 
 ––––この場所……
 唯もここに来た事があった。
 
 エスカレーターを上り切ると、そこには都内でも有数の美術館がある。



「会期、今日までなんだ……」
 ユウマはそう言うと、唯の手を引いて美術館へ足を踏み入れた。
 
 ガラス張りの窓の外には、まばらに雨が降り始めて、雨粒がガラスに当たる音が聞こえる。
 
 
 唯は特段美術に詳しい訳では無い。
 好んで美術館に行く様な趣味は無かったが、純粋に描き手の息遣いや時代背景を感じる作品は目を惹きつける。
 
 ゆっくりと様々な作品を見ているうちに、この展覧会はαとΩを題材にした企画展だと唯は気づいた。
 
 αを神格化した作品、αの偉人、Ωの偉人……様々ある絵の中で一際唯の目を引いたのは、蝋燭の明かりが暗さをより引き立たせる結婚式の絵だった。
 
 若いΩの娘は青白く緊張した面持ちで祭壇の前に立ち、その隣には年老いた金持ちのαが興奮を隠しきれないような卑しい笑みを浮かべて立っている。
 解説を読むと、すぐ後ろに怒りを露わにした若い男性が描かれており、それは描き手である作者だと書いてあった。
 
 本来は、そこに作者の親友でありΩの娘の恋人が居たが、悲しみに暮れる表情に胸を痛めた作者が、自らの怒りを乗せて描き直したとある。
 
「Ωに限った事じゃ無いけど、この時代は親が若い娘を老人の金持ちに売り払う……結婚させる事は珍しく無かったんだって。Ωなら、正に金の卵だろうね」
 過酷な時代風景と、花嫁の表情が唯の胸を締め付ける。
 
 解説には続きがあり、この絵が評判になって若い娘と老人の結婚がいっとき極端に減ったらしい。
 
 筆を取った描き手の怒りが、社会を動かして、不幸な花嫁が少しでも減ったと唯は信じたい。
 
 そして、暗澹とした気分で歩みを進めると、次に現れた作品で辺りの雰囲気は一変する。
 
 唯とユウマが見上げる先には、Ωを慈しむαの絵だった。大きなお腹を抱くΩを、横から抱きしめる男性のα……
 に見えるが、詳しい解説は無く、寄り添うαとΩ、としか書いていない。
 
 お腹の大きいΩは、髪が長いがその性別に記述はない。
 色鮮やかに、そして温もりを感じる。
 
 対照的な2つの絵は、その周りの雰囲気をグッと変え、感情を揺さぶられた。
 
 
 
「Ωが出てくる歴史って、悲しい話多いよね……」
 唯はポツリとそう溢す。
 
「今よりもっと大変だっただろうし、価値も高かっただろうから、自分が生きたいようには生きれなかったと思うよ。Ωは、αを産む為のものだから」
 壁に掛けられた大きな絵を見ながら、ユウマはそう言う。

「Ωの死因第一位知ってる?」
 ユウマは穏やかな顔で、唯に尋ねた。
 
 唯は小さく首を横に振る
 
 
「自殺。2番目が、他殺」
 
 唯は目を見開いて、驚愕の表情を浮かべる。
 
「昔も今も、それは変わってないかもね」
 衝撃を受ける唯に反して、ユウマは落ち着き払っている。
 
 まるで唯とユウマの間に深く長い亀裂が走っているように唯は感じた。


 綺麗事を並べる偽善者……––––
 以前ユウマが放った言葉が、唯に容赦無く突き刺さる。
 
 
 
「そんな顔しないでよ。お姉さんはαなんだから。お姉さんはαに生まれた、ただそれだけ……」
 ユウマはそう言うと、眉を下げた唯の腰に手を回し、その体を引き寄せる。
 
 
 
「来月、ヒートが来るんだけど。休み、どれだけ取れそう?」
 ユウマは唯の耳元でそう囁く。
 
 その声が妙に色っぽくて、唯はユウマを突き放す事が出来ない。
 
 ユウマは相変わらず穏やかな笑みを浮かべて唯を見下ろしていた。
 
 
 
 
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