10 / 26
10
しおりを挟む朝食に選んだのは、モダンで感じの良さそうなカフェだ。
ベーグルを使ったプレートや、ご飯ものもある。量より質か、と唯も考えたが、それなりに値段や価値のありそうな店を選んだ。
お姉さんが決めて良いよ、とユウマが言うので、近場で、それでもメニューの豊富そうな店を選んだつもりだった。
こうして向き合うと、唯は嫌でも最初に会った時の事を思い出す。
沈黙が来るとどこか気まずくて、唯が黙り込んでいるとそれを察したのかユウマが当たり障りの無い会話を投げてきた。
暫く他愛の無い会話が続き、唯の緊張は段々と解れる。
「……仕事って、バーテンダーなの?」
唯が尋ねると、ユウマは片眉を上げる。
「いろいろしてるよ。ツテとかもあるし、それこそ日雇いも。ただ、あんまり人が多く集まる場所は避けてるかな。日程的にもきっちりはシフト入れないし」
ユウマがそう答えると、頼んだ料理が運ばれてきた。
「この間、絡まれてたけど……バーテンダーとかも危なく無い?」
唯は言葉を選びながら、ユウマの反応を窺う。
「あの日はたまたま変な客が居たけど、あそこのオーナー凄く良くしてくれるよ。 融通も効くし今住んでるとこもそのツテ。まぁ割の良い誘いだったら、俺も歓迎だけどね」
ユウマの言葉に、唯は小首を傾げて千切ったベーグルを口へ運ぶ。
「入れられても無いし入れても無いけど、それ以外の事は全部してきたってこと、お金の為に」
ユウマがあっけらかんとそう言うので、唯はゴホッ、ゴホッと咽せた。
周りの人に聞かれていないか、唯は辺りをキョロキョロと見渡す。
「俺、結構人気なんだよ。女性用の風俗でも、男性専門の店でも」
そう言って口の端を上げて笑うユウマは、唯よりも随分大人びて見える。
ユウマの生きる人生は、唯の生きる世界と全く違った。
Ωが社会で生きるにはかなりの困難が付き纏う。頭では分かっていたが、唯の体にズシンとした現実がのしかかってきた。
今唯の目の前に居る人は、今までどう生きてきたのか……––––
それを考えずにはいられない。
生まれながらにして、苦しく辛い特性を背負わされたのなら、子供は早く大人にならなくてはならない。毎日を、生き抜く為に––––
だから、若いユウマはどこか大人びていて、とてもしっかりしている–––––
食事をする唯の手が止まった。
「だから、お姉さんをガッカリはさせないつもり」
ユウマはそう言って、揶揄う様な笑みを唯に向ける。
唯はただ顔を赤くして、気まずそうに視線を逸らした。
唯はカフェでしこたまパンを買い込み、ユウマと共に外へ出る。
てっきりこのまま解散でそれぞれ帰ると思っていた唯は、買い込んだパンをユウマに渡すつもりでいた。
いくつ購入したか正確には分からないが、カフェのオシャレご飯では若いユウマには足りなかっただろうと思っていたからだ。
だが、ユウマはちょっと行きたいところがある、と言って唯の手を握りズンズンと道を歩いた。
この、ユウマの白くて長い指の感触が、唯の肌にジン、と鈍く、深く染み込む。
––肌の内側がこそばゆい……
そう思うと、唯の頬や耳に熱が生じてくる。
唯はユウマに連れられるまま地下鉄に乗り込んだ。
1
あなたにおすすめの小説
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
密会~合コン相手はドS社長~
日下奈緒
恋愛
デザイナーとして働く冬佳は、社長である綾斗にこっぴどくしばかれる毎日。そんな中、合コンに行った冬佳の前の席に座ったのは、誰でもない綾斗。誰かどうにかして。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる