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しおりを挟む目が覚めると、唯の目には見知らぬ天井が映る。
もう一度目を閉じて、目を開けると、こめかみから頭頂部にかけて鋭い痛みが走った。
ここは…?
昨日は、宮川くんと飲んでて……
唯は頭を摩りながら、うんうんと唸る。
いや、でも飲んでた割に、良い匂いがする……それに、なんだか服も……
服……服…––––?
唯は肌触りの違う服と、見覚えの無い部屋に勢い良く飛び起きた。
「え…え…?」
今まで唯の人生でこんな事は起きた事は無い。
男物の長袖のカットソー……
下は……下着以外何も履いていない。
嘘嘘嘘嘘嘘……––
と唯はボサボサの頭を抱えて困惑する。
––まさか宮川くんと?
っ嘘嘘嘘嘘嘘ー!?
––本当に?だって……私は……––––
「起きた?」
その声に、唯はビクンッと体を大きく跳ねさせて悲鳴を上げる。
狭く古い部屋のキッチンと部屋を仕切る開かれた障子の陰から、今日も相変わらず中性的な美しさを放つ人物が気怠気に唯を見ていた。
「ユウマ……?」
唯がそう言うと、ユウマは水が入ったペットボトルを差し出す。
中々唯がそれを受け取らないので、ユウマはんっ、との太い声を出して受け取れと唯に促す。
「……えっ」
「あのさ、とりあえず一回シャワー浴びてくれる?こう見えても俺割と綺麗好きなんだよね。昨日酔っ払ったお姉さんを押し付けられて、とりあえず俺もお姉さん連れて帰ったけどさ。お姉さんすぐに俺のベッドで寝ちゃうし、いくら揺らしても起き無いし。服は着替えさせたよ、流石に耐えられなくて」
ユウマの説明に、唯は血の気が引いていく。
「はい、これタオル。シャワーは向こう」
唯は促されるまま、シャワーとトイレが一体となった狭い浴室に押し込まれる。
出来るだけ冷静に昨晩の事を思い返しながら温かいシャワーを浴びて、頭がよく働く様に唯は両手で何度も軽く頬を叩いた。
昨日、泥酔した唯を、ユウマが引き取って––?
どうやらここはユウマの部屋らしい……
唯がシャワーから出ると、そこにはコンビニで買ったであろうビニール袋に、買ったばかりのカップ付きの下着とパンツが入っていた。
……––気が利き過ぎやしませんか?
とユウマの甲斐甲斐しさに、唯は申し訳無さと情けなさが込み上げる。
有り難く下着類を身につけ、先程着ていたユウマのカットソーを唯はもう一度身につけた。
小柄な唯には、お尻は見えない位の長さがある。
部屋に戻ると、ユウマはベランダでベッドのシーツ類を洗濯機に入れている最中だった。
「……服、そこに掛けてある。匂いが酷かったから一回外干したけど」
ユウマが指差した先には、きちんとブラウスとスーツがハンガーに掛かっていた。
唯は改めてユウマの部屋を見渡す。
ベッドがあるのは和室で、部屋には驚くほど何も無い。そこはキッチンと浴室が付いているだけの古びた部屋だった。
「何、αさんにはこの部屋が不満?」
ユウマの皮肉めいた言葉に、唯は慌てて首を振る。
「ありがとう……ございました。私、記憶が無くて……」
唯は、カットソーの裾を下に引き伸ばしながらユウマにペコペコ頭を下げる。
「無いだろうね。その体からあんな大きな声出せるんだって驚いた」
ユウマはフッと笑う。
「すいません……。でも、なんでここに?」
「あの街中で、俺との関係叫ばれそうだったから。一緒にいた爽やかスーツの人も助けて欲しそうにずっとこっち見てるし、知り合いですかって聞かれたから従弟ですって言って引き取った。
俺ももう上がるところだったから、客に言い寄られてうざかったし、丁度よかったよ」
ユウマが居るベランダの景色は、繁華街からそう遠く無い場所なのが唯にも分かる。
「……そうなんだ。ごめんなさい、ありがとう」
記憶の無い唯が申し訳無さそうに頭を下げると、ユウマがベランダから部屋に入り、網戸だけを閉めた。
まだ、お酒の匂い残ってるかな……と唯はくんくんと気付かれないように自身や部屋の匂いを嗅いでみる。
「お姉さん、今日休みなの?仕事」
ユウマの問いに、唯は小さくコクっと頷く。
休みでなければ、宮川の誘いには乗らない。付き合い以外の飲み会はいつも唯はそうしている。
「じゃあ何か奢って?昨日お姉さん引き取って帰ってから何も食べてないから。 お姉さん案外重いね、最後は引き摺ってなんとか部屋まで運んだよ」
ユウマはぶっきらぼうだが、棘の無い言い方で唯にそう言った。
昨日から、奢ることが多いな……と唯も苦笑いを浮かべる。
だが、これだけ迷惑を掛けたなら、かなり豪勢な食事を奢らないといけない、と唯も勿論承諾した。
「さっさと髪乾かして、早く行こ」
ユウマはドライヤーを取り出すと、唯を畳に座らせ、髪を乾かし始める。
唯が断る隙も与えないほど、ユウマはテキパキと動いた。
––余程お腹が空いてるんだろうな…
若ければ、尚更……––
と、唯は少し緊張しながら、そう思う。
ユウマの細く長い指が何度も唯の首や耳に触れる。
その感触が、こそばゆく、そしてどこか唯を落ち着かせなかった。
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