そのΩ、買いました。オークションで。

塒 七巳

文字の大きさ
24 / 26

24

しおりを挟む
 
 
 少しだけ歩くと、古い家屋が並ぶ一角へ着く。まるでそこだけ置いていかれたように、建物は古かった。
 
 唯が興味津々に辺りを見ると、悠は鍵を取り出した。
 
「この辺り持ってる地主さんが、芸術家に住んで欲しいって古いけど広い部屋貸してくれるんだ。一軒家丸ごと借りてる人も居る。俺はアパートだけど、それでも広くて家賃も相場より安いんだよ。中もリノベーション自由だから、こう見えて人気物件なんだよ」
 
 悠の言葉通り、見た目よりも中は綺麗にリノベーションされていた。
 
「どうぞ」
 悠が電気をつけた部屋は、綺麗に整えられ掃除も行き届いている。
 
「シャワー使って。嫌じゃなければ、服も乾燥機に入れちゃうから。服が乾くまでは……ゆっくりしていって」
 悠はそう言って唯にタオルと適当な着替えを渡して、浴室に案内した。
 
 
 ––––これがデジャヴ……
 やり直してるみたい……
 
 そう苦笑しながらも、唯も存分にシャワーを借りる。
 濡れて気持ちが悪かったので、温かいシャワーはとてもサッパリした。
 
 シャワーを浴び終えて浴室を出れば、洗濯ネットに入れておいた唯の服は確かに乾燥機で回っていて、相変わらず悠はテキパキと動いていた。
 
 
「お茶入れたから、座って」
 そう促され、唯は小さなダイニングテーブルに腰掛ける。
 悠はキッチンで何かしているが、既に着替えて、部屋着になっていた。
 
「シャワーありがとう。それに乾燥機も……。ユッ、香坂さんはシャワーいいの?」
 唯が尋ねると、悠は一瞬唯に目を遣り、軽く頷く。
 
 部屋を見渡すと、そこはキッチンと小さなダイニングテーブル、そして仕事机も置いてある。壁にある本棚には、みっちりと専門的な本が並んでいた。
 
 
「相変わらず部屋も綺麗だね。香坂さん器用で羨ましい。若いのに、気も利くし。 デザイン事務所の社長が採用したのも分かる。私なんて部屋は相変わらずだし、料理も出来無いし、歳だけ取っちゃってさ……」
 唯はそう言って出されたコーヒーに口を付けた。
 
 
「さっきから、若いとか歳だって言うけど、わざと言ってる?」
 
 悠はそう言って、椅子に座る唯の前にやって来た。
 
「いや、本当の事だよ。私、もう三十二だもん」
 唯はなんだか気まずい空気になりそうなのを、愛想笑いで誤魔化す。
 年齢を告げたのは初めてだ。
 
 
「……俺が歳下だから、牽制してる?女として見られないように」
 悠はハッキリとした口調でそう唯に尋ねる。唯は、悠を見上げる事が出来ない。
 
「牽制とか、そんな……––––」
 そう言う唯の唇を、悠は両手で唯の頬を挟み、自らの唇で塞いだ。
 
 
 
「本当に分かりやすいよね……。
 俺は、桜庭さんに欲情してるよ。女として見てる。歳とか関係無い。いや嘘、俺が子供に見えないように、とかは気にしてた。
 まさか会うなんて思わなかったけど、桜庭さんを見つけた時の俺の気持ち、分かる––––?言っても、どうせ若いってまた笑うでしょ?
 その次はαとかΩだからって逃げるのは無しね。俺は、ずっと桜庭さんに会いたかった……」
 そう悠は矢継ぎ早に言い終えると、両膝をつき、唯の膝に頭を預ける。
 
 唯は状況が飲み込めず、固まってしまった。
 
 
「あれ、見える?」
 悠は上目遣いで唯を見て、壁に貼られた小さな長方形の紙を指差す。
 
 唯がその先を見ると、それは初めて二人で行った美術館の半券だった。
 
「捨てられなかった……。初めて桜庭さんに会った時、散々生意気なこと言っちゃったしさ。結局、桜庭さんの力借りて俺今ここに居るんだよ。情けないけど––––……
 ずっと会いたかった。でもこれ以上甘えるわけにいかないし、ちゃんと桜庭さんに見合う人間になりたくて…––」
 

 それは、まるで……––––
 
 
「急に消えて、ごめん。でもそばに居たら多分俺ダメになりそうだったから……––––」
 悠は唯の膝に顔を擦り付けて、そう言う。
 唯の中で必死に抑え込もうとしていた感情が、溢れ出てきてしまう。
 
 
 
「こんなのっ卑怯––…」
 唯は、自分の顔を両手で覆い隠す。
 息が詰まって、喉が灼ける––
 

「––––卑怯なΩだよ、俺。αを掌で転がすタイプ」
 悠はそう言うと、腰を上げて立ち上がる。
 
 
 そして、悠は唯をそっと、きつく抱きしめた。離れていた時間を埋める様に、長い長い時間、二人はお互いの体温を確かめ合う様にして抱きしめ合った。
 
 
 


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

つかまえた 〜ヤンデレからは逃げられない〜

りん
恋愛
狩谷和兎には、三年前に別れた恋人がいる。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

密会~合コン相手はドS社長~

日下奈緒
恋愛
デザイナーとして働く冬佳は、社長である綾斗にこっぴどくしばかれる毎日。そんな中、合コンに行った冬佳の前の席に座ったのは、誰でもない綾斗。誰かどうにかして。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...