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しおりを挟む少しだけ歩くと、古い家屋が並ぶ一角へ着く。まるでそこだけ置いていかれたように、建物は古かった。
唯が興味津々に辺りを見ると、悠は鍵を取り出した。
「この辺り持ってる地主さんが、芸術家に住んで欲しいって古いけど広い部屋貸してくれるんだ。一軒家丸ごと借りてる人も居る。俺はアパートだけど、それでも広くて家賃も相場より安いんだよ。中もリノベーション自由だから、こう見えて人気物件なんだよ」
悠の言葉通り、見た目よりも中は綺麗にリノベーションされていた。
「どうぞ」
悠が電気をつけた部屋は、綺麗に整えられ掃除も行き届いている。
「シャワー使って。嫌じゃなければ、服も乾燥機に入れちゃうから。服が乾くまでは……ゆっくりしていって」
悠はそう言って唯にタオルと適当な着替えを渡して、浴室に案内した。
––––これがデジャヴ……
やり直してるみたい……
そう苦笑しながらも、唯も存分にシャワーを借りる。
濡れて気持ちが悪かったので、温かいシャワーはとてもサッパリした。
シャワーを浴び終えて浴室を出れば、洗濯ネットに入れておいた唯の服は確かに乾燥機で回っていて、相変わらず悠はテキパキと動いていた。
「お茶入れたから、座って」
そう促され、唯は小さなダイニングテーブルに腰掛ける。
悠はキッチンで何かしているが、既に着替えて、部屋着になっていた。
「シャワーありがとう。それに乾燥機も……。ユッ、香坂さんはシャワーいいの?」
唯が尋ねると、悠は一瞬唯に目を遣り、軽く頷く。
部屋を見渡すと、そこはキッチンと小さなダイニングテーブル、そして仕事机も置いてある。壁にある本棚には、みっちりと専門的な本が並んでいた。
「相変わらず部屋も綺麗だね。香坂さん器用で羨ましい。若いのに、気も利くし。 デザイン事務所の社長が採用したのも分かる。私なんて部屋は相変わらずだし、料理も出来無いし、歳だけ取っちゃってさ……」
唯はそう言って出されたコーヒーに口を付けた。
「さっきから、若いとか歳だって言うけど、わざと言ってる?」
悠はそう言って、椅子に座る唯の前にやって来た。
「いや、本当の事だよ。私、もう三十二だもん」
唯はなんだか気まずい空気になりそうなのを、愛想笑いで誤魔化す。
年齢を告げたのは初めてだ。
「……俺が歳下だから、牽制してる?女として見られないように」
悠はハッキリとした口調でそう唯に尋ねる。唯は、悠を見上げる事が出来ない。
「牽制とか、そんな……––––」
そう言う唯の唇を、悠は両手で唯の頬を挟み、自らの唇で塞いだ。
「本当に分かりやすいよね……。
俺は、桜庭さんに欲情してるよ。女として見てる。歳とか関係無い。いや嘘、俺が子供に見えないように、とかは気にしてた。
まさか会うなんて思わなかったけど、桜庭さんを見つけた時の俺の気持ち、分かる––––?言っても、どうせ若いってまた笑うでしょ?
その次はαとかΩだからって逃げるのは無しね。俺は、ずっと桜庭さんに会いたかった……」
そう悠は矢継ぎ早に言い終えると、両膝をつき、唯の膝に頭を預ける。
唯は状況が飲み込めず、固まってしまった。
「あれ、見える?」
悠は上目遣いで唯を見て、壁に貼られた小さな長方形の紙を指差す。
唯がその先を見ると、それは初めて二人で行った美術館の半券だった。
「捨てられなかった……。初めて桜庭さんに会った時、散々生意気なこと言っちゃったしさ。結局、桜庭さんの力借りて俺今ここに居るんだよ。情けないけど––––……
ずっと会いたかった。でもこれ以上甘えるわけにいかないし、ちゃんと桜庭さんに見合う人間になりたくて…––」
それは、まるで……––––
「急に消えて、ごめん。でもそばに居たら多分俺ダメになりそうだったから……––––」
悠は唯の膝に顔を擦り付けて、そう言う。
唯の中で必死に抑え込もうとしていた感情が、溢れ出てきてしまう。
「こんなのっ卑怯––…」
唯は、自分の顔を両手で覆い隠す。
息が詰まって、喉が灼ける––
「––––卑怯なΩだよ、俺。αを掌で転がすタイプ」
悠はそう言うと、腰を上げて立ち上がる。
そして、悠は唯をそっと、きつく抱きしめた。離れていた時間を埋める様に、長い長い時間、二人はお互いの体温を確かめ合う様にして抱きしめ合った。
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