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しおりを挟む「いい?本当にいい?噛むよ、私っ噛むよ……?」
唯は緊張した面持ちで悠の後ろに座る。
再会後、話は面白い程とんとん拍子に進み、二人は直ぐに同棲する事になった。
付き合う事自体、歳を理由に渋る唯を、悠が強烈に押し切った形だ。
「二十二っ!?今年二十三……十歳下じゃんっ!?若いと思ってたけど……
––やっぱりもうちょっと考えよ?悠は若いし、まだいろんな出逢いがある……。ヒートの時は勿論支えたいって思うけど……」
唯の言葉に、悠が何度歯痒い思いをした事か……
唯が自分を思ってそう言っているとは理解できても、悠は全く納得出来なかった。悠の立場がもじ逆だったら、悠はとっくに唯の項を噛んでいる自信がある。
貯金を叩いて買った控えめな石の付いた指輪は、確かに悠の抱えるコンプレックスを全て象徴している。
だが、何も求婚して欲しいと贈る指輪は、生涯で一つでなくとも良い。
何個増えても良いもので、余裕ができれば幾らでも記念日に贈ろうと悠は自分を励ました。
自らを奮い立たせて、形だけでも整え、それなりにロマンチックにプロポーズをしようと悠は考えていたのに、唯の様子では一向に話は進見そうに無い……
「……唯は俺の事どう思ってるの?」
悠は唯の荷物もなんとか詰め込み終わった悠の部屋で、唯を壁際まで追い込んでそう詰める。
一緒に住むなら、せめてちゃんとご両親に挨拶させて、と悠が何度言っても唯がのらりくらりとかわしたからだ。
唯さん、と呼んでいた悠が、急に自身を呼び捨てにして真剣な顔で見下ろすので、唯はなす術なく悠を見上げるしか出来ない。
「俺の事好き?」
悠は妖しい笑みを浮かべてそう尋ねる。
唯はみるみる顔を真っ赤にさせて、顔を隠した。
「本当、分かりやすい」
悠は体を屈めて、唯の耳元や首に唇を触れさせる。
わざとゆっくりと、そして音を立てて舌を這わせた。
「でも、ちゃんと聞きたいな。好きって––––」
勢いに任せる以外、方法が無いと知った悠は強硬手段に出た。
「噛んで、お願いっ……」
ベッドの中で、そう悠が懇願すれば唯は絶対に断れない。
「……他の人に噛まれても良いの?もう来週にはヒート来ちゃうよ?」
はぁ––と荒い息で頬を染め、悠は唯の指を自らの口に含む。
「––っそれは嫌だけど……番になっちゃうよ?私で、いいのっ?」
唯は荒い息を抑え体中を真っ赤にして、悠から目を逸らす。
「唯が良い。唯しか要らない」
唯は悠の哀願に堪らなくなって、ギュッと目を瞑る。少しウンウンと唸ると、遂に唯は折れた。
してやったり––––、悠は唯に見えない所でニヤリと笑みを浮かべる。
そして、唯が悠の後ろに回り、膝立ちになって悠の項を噛もうとするが、あれだけ欲情していたのが嘘の様に唯はあわあわとして躊躇し始める。
「けっ結構痛いと思うっ……しっかり噛まないといけないらしいからっ––––消毒液とか絆創膏用意しておこう?一応うがいもした方が良いよね?傷口から何かばい菌が入ったらっ––––」
「……なんで噛む方がそんな慌ててんの」
悠が後ろを振り返ると、唯は今にも泣きそうな顔で悠を見る。
「早く噛んで。正直、その顔も結構くる……我慢出来なくなっちゃう」
悠は余裕の無い顔で頬を染め、情欲燻る視線を唯へ送った。
「……っ行くよ?じゃあ行くからね?」
悠の様子と自分が噛まなければ何も終わらないこの不安に唯も堪えきれなくなり、唯は小さな口を目一杯開けると、悠の白く綺麗な項へ歯を立てた。
途端に脳内が真っ白になり、お互いが溶け合うような一体感と、強い電流が身体中に駆け巡る。それは指一本一本にまで凄まじい速さで流れ渡り、身体中の隅々をビリビリと痺れさせた。
そして次には何とも言い難い幸福感に包まれ、体が浮いているような感覚が押し寄せてくる。
唯が本能のまま、ギュッと歯へ力を込めると血の味が唯の口内へ広がった。
ハッとした唯は、顔色を変えてすぐに項から口を離す。
「痛く無いっ––!?っ痛く無い!?大丈夫!?」
唯が慌てて悠の前まで回り込み、その様子を窺う。
「今消毒液と絆創膏持ってくるから!」
乱れた下着姿でベッドから離れようとする唯を、悠はその手を掴んで胸の中に引き寄せた。
「……俺より危機迫る顔しないでよ。萎えたんですけど、お姉さん…」
そう言って悠は苦笑いを浮かべる。
「余韻にも浸れなかったじゃん……。
唯は、噛まれる方が好きだもんね」
悠はイタズラっぽくそう言って、唯の項を指で撫でた。
その指の感触に、唯の体がピクンッと反応してしまう。
「これで、俺は唯のもの。唯も、俺のもの。でも俺まだ処女なんだけど……」
悠の言葉に、唯はみるみる顔を赤くした。そのレベルにまでまだ唯の経験は達していない。
「まぁいっか。楽しむ時間はいっぱいあるし、期待してるよ、お姉さん」
そう言って、悠は唯に口付けた。
〝時間はいっぱいある〟
その言葉が嬉しくて、唯はギュッと悠を抱きしめる。
二度と逃さない、そうお互い心に決めて。
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