そのΩ売りました。オークションで。

塒 七巳

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そのΩ、売りました。オークションで。
ep.4 4 予約中
掲載日:2024年05月19日 21時00分
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 契約書に合意すれば、次は用意されたホテルの一室へ呼び出され、αと面会になる。
 
 渚にも一応契約書を見せて、瑞稀も判を押した。
 渚の指示通り、控えもきちんと保管する。
 
  
 悩んだが、当日はそれなりに小綺麗な格好をしようと瑞稀は髪を下ろし、入念にヘアオイルを塗った。嫌味の無い水色の長いワンピースに、白いカーディガン、そして薄く化粧をして家を出る。
 
 荷物、と渚が持たせてくれたのは例
のポーチや着替えなどが入った、少し大きめのトートバックだ。
 
 これって…と瑞稀が徐にトートバックから取り出したのは、スタンガンだ。
 
 
「一応、念のため。ラット状態のαの怖さ、知らないでしょ?」
 渚は、穏やかだがハッキリと瑞稀にそう言った。
 瑞稀はゴクリと唾を飲む。
 
 物騒な話だ…たかだがセックスするだけで…
 
 目的地に向かう道中、瑞稀は何度溜め息を吐き、何度緊張で目眩がしたか分からない。


 だが、これが済めば、少なくとも経済的な不安からは暫く解放される…

 瑞稀は何度もそう自分に言い聞かせ、呼吸を落ち着かせた。
 
 
 目的地のホテルは一目で最高級と分かる所だった。

 フロントは通さず、国から送られてきたカードキーと部屋番号の部屋へ足早に向かう。
 
 
 いよいよだ…だが、なんだか現実感が湧かない
 
 瑞稀は意を決して、重い動作で部屋の扉を開けた。
 
 その部屋は、玄関からしてかなり広かった。
 既に、男性ものの靴がある。
 
 
「失礼します…」とだけ言って部屋に入るが、相手の姿は無い。
 
 大きなリビングとダイニングを前に、瑞稀は目をぱちぱちさせて立ちすくんだ。
 
 するとガチャっと音がして奥の扉が開く。
 恐らく寝室だろう。
 
 
「あーびっくりした…」
 そう言って現れたのは、予想に反して若い男だった。
 
 少し長めの前髪を真ん中で分けた黒髪に、耳にはリングピアスをして、シンプルだが質の良い白い長袖のTシャツと黒いパンツを身に付けた男は、αらしく随分と綺麗な男だった。
 
 
「インターホン押してよ。フロントから電話が来ると思ってたのに」
 そう言ってその男は瑞稀の前に来る。
 瑞稀は体が震えそうになるのを必死で抑えた。
 
「よろしく、Ωさん」
 にこっと適当な笑みを浮かべるこの男に、瑞稀は独特の圧を感じて圧倒される。
 
 
「何か飲む?ていうか…ヒート、じゃないよね、今。匂い全然しないし。
 するならヒートの時が良いんだよね。 Ωがヒート状態で迎える初めてって快感が桁違いなんだって。
 父さんからの早めの誕生日プレゼントなんだよね、君って」
 男はそう言いながら冷蔵庫に向かい、適当な炭酸水を取り出すと、それを何口か飲みこんだ。
 
 
 誕生日プレゼント…
 
 そんなものだ、所詮、Ωなんて…
 
 瑞稀は思わず目を伏せた。
 
 
 
「俺、喬一きょういち。なんて呼べばいい?Ωさん。Ωさんでいっか。ヒート、いつ?」
 
「…まだ、ありません」
 瑞稀は震える声でそう答える。
 
「は?まじ?そんな事あんの?うわー…」
 そう言いながら、喬一はソファにドカっと座り込んだ。
 
「えー…彼氏とかいないの?処女は貰うとしても、刺激してもらって誘発とか…居ないか。居なさそうだもん」
 喬一はさらっと瑞稀を見てそう言う。
 
「面倒そうだなぁ…パパッと済ませようと思ってたんだけど」
 喬一から発される言葉に、瑞稀は最早反応する気も起こらない。
 
 何も言えない、買われた側だから。
 
 
「君もヒートの時の方が絶対良いと思うよ。力も抜けるし。…ヒート迎えた後って契約し直そう、そうしよ。でもヒートが来るか、分かんないしなぁ…」
 
 喬一は瑞稀の前にもう一度立つ。
 さも飲み物でも決める位の雰囲気で、顎に手をあてて喬一は考えていた。
 
「ヒートが来てから、でいい?契約し直し。あと面倒だけど、その間少し慣らそう。刺激してれば早めに来るかもしれないし。Ωさん、君、結構高かったらしいよ。でもヒートが来てないとはこっちも知らなかったし…いい?それで?」
 
 瑞稀はその話を聞いてその日はすぐに帰された。
 契約違反はΩ保護の法律に則って厳罰に処されるらしい。
 ヒートが来ていない、というのも申告するかは微妙なラインだったようだ。
 
 ほっとしたような拍子抜けのような…嫌な緊張感は残ったままだった。
 
 
 
 契約書はすぐに郵送されてきた。
 だが、そこにはヒートがいつ来るか不明のため、Ωの安全配慮から指定の場所に居住をして欲しい、との旨があり、迅速な契約履行にお互い努めるとの宣誓書まで付いてきた。
 
 つまりは早くヒートが起こるようにお互い努力するから、その間は指定の場所に住んでさっさと契約終わらせましょう、という内容だ。
 勿論、その分の報酬も弾むらしい。

 喬一、α側とお国側でいろいろなやり取りもあったのだろう。
 
 
 幸か不幸か、指定場所は大学のすぐ近くにある高級タワーマンションだった。
 
 プライバシーが心配だなぁと契約書を眺めていたが、瑞稀としてもさっさと終わらせて縁を切りたい。
 
 まさかヒートが良いと言われると思わなかったが、渚はそりゃそうだろうねと返した。
 
 恐らく、他の連中も同じだと思うよ、とも。じゃなきゃ意味無いし、と。

 娯楽の1つなのか、それを知っているという優越感、αに箔が付くとでも言うのか…
 瑞稀は心の底から、その感覚に虫唾が走る。そして、そうやって生きるしか無いΩの自分にも…
 
 
 契約書の不安な箇所だけ渚が訂正し直して、契約は結び直された。
 
 
 瑞稀はタワーマンションに住まう事となったが、この家賃や光熱費、家具全ての備品は相手のα持ちだそうで…
 服や下着まであったが、これを着て好みに合わせることが努力なのだろうか… 明らかに瑞稀は身につけないであろう品物ばかりだった。
 
 少し露出が多めで、下着は勿論言うまでも無い形の物が多い…
 
 だが…やり切らねばならない。
 
 奨学金が無くなるだけで、随分気持ちも財布も楽になるのだから。

 
 3日後、喬一はふらりとやってきた。
 インターホンも鳴らさず、扉が開かれる。合鍵を持っているらしい。
 
「まだそんな格好してんの?」
 家に入って早々、いつも通りの伊達メガネに地味な格好のままの瑞稀に、喬一はうんざりした顔をした。
 
「眼鏡禁止ね。度も入ってないじゃん」
 と眼鏡を外され、ポイっとその辺に放り投げられる。
 
「はぁ…。でも」
 喬一は溜め息を吐いた後、瑞稀の着ているTシャツの首元から臍上までをツーっと人差し指でなぞった。
 
「下は、ちゃんと着てるよね?お互い努力しないといけないんだから…」
 喬一はそう言って美しく微笑む。
 瑞稀は咄嗟に体を硬くした。
 
 
「野暮ったいけど、素材は良さそうだね。とりあえず、脱ごっか」
 
 喬一に連れられるまま、とりあえずシャワー浴びておいでと浴室に押し込まれる。
 
 これが…刺激を与えてというものなら…今からする事は決まっている。




 
 ヒートがない故に、苦痛が逆に長引いてしまったようだ…



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