マスタードラッグⅠ〜アルター・エゴ〜

本城遊斗

文字の大きさ
4 / 10
第一章 モルモットに利尿薬を与える

3

しおりを挟む
 メビウスは俺たちに向かって一通り話を済ませると、最後に自分の肩書きを「臨床試験コーディネーター」と名乗った。
「英語にするとClinical Research Coordinatorクリニカルリサーチコーディネーターです。その頭文字を取ってCRCと呼んでください」
 くっくと肩を揺らしているが、どこに笑うポイントがあるのかわからなかった。そもそも目の前で四人が壮絶な死に方をした直後だ。現実を上手く飲み込めず、はぁ、と曖昧な返事を返すので精一杯だった。
 メビウスの話をシンプルに要約すると、俺はこれから五日もの間、ここで新薬の臨床試験に参加しなければならないそうだ。
 メビウスが所属しているのはとある財団で、その使命は主に薬の研究、開発。その組織は、内資、外資を問わず製薬企業と強いパイプで繋がっており、利益の少ないオーファンドラッグの開発に出資したり、病院や薬局などの現場に出回ることのない薬も扱っているとのことだ。きな臭さがぷんぷんして鼻がひん曲がりそうだった。 
 被験者は首輪の着用を義務付けられており、許可なく外すことは禁じられている。その理由はこれで脈拍や血圧などの様々なバイタルサインを測定しており、自己判断で外してしまうと正確なデータが採れないためとのことだが、毒殺現場を見せられては方便にしか聞こえないし、そもそも隙間なく首に密着しているため自分では外せそうにもない。この首輪がある限り、俺たちは従順なモルモットだというわけだ。
 外出禁止、外部との連絡禁止のためスマホ没収、CRCへの暴力禁止など、いくつかのルールが提示されたが、常識的に行動すれば破ることはなさそうなものばかりだった。その点は安心したが、ルールを破れば即死と明言されているのだ。転ばぬ先の杖を装備した上、それで石橋を叩いて渡るくらいの用心深さが求められるわけだ。
 しかし、俺が選ばれた理由や、自由意志ではなく誘拐という手法で連れてこられたこと、その財団の名前、家族や通っている大学などの関係者へ説明はしたのか、などについての言及はなく、質問しても回答はなかった。
 正直うんざりするようなネガティブニュースばかりだったが、最後にとってつけたように結構な額の報酬を出しますから、と彼は言った。報酬の出所は製薬企業か、それとも自身の財団なのだろうか。
「それにしても、当初は六人の予定でしたが、急遽二名になってしまいましたね」
 あんたがやったことだろーに。そう思ったが口には出さなかった。まあ、四人の自業自得とも言えるしな。
「ともかくこれから五日間一緒に暮らしていく仲間です。お互いに自己紹介をしてもらいましょうか。まずはあなたから」
 と、メビウスは俺を見た。
 俺はもう一人の被験者の顔をまじまじと見つめた。ずっと気になってはいたが、かなりの美少女であることを再確認した。背は成人女性の平均ほどだが、小顔で手足がすらっと長い。腕を組んでいるだけでも絵になるその様は、まるで芸能人のようにオーラがあった。
 とにかく第一印象は大切だ。俺は軽く咳払いをすると、いつもより少し高めの声のトーンを意識した。
「えー、俺は双海紅葉ふたみくれは中部薬科大学ちゅうぶやっかだいがくに通う二年生。この前二十一歳になりました。趣味は植物を育てることと、動画の撮影です。一人暮らしなので料理や家事全般も――」
水晶みあきよ。よろしく」
 俺の自己紹介を遮るようにして、水晶みあきはそっけなくそう言った。
「まだ言い終わってね――ってか短かっ」
「はい、とてもいい自己紹介でしたね」
 メビウスはパンと両手を打った。え、どこが?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

不思議なショートストーリーたち

フジーニー
ミステリー
さくっと読める短編集 電車内の暇つぶしに、寝る前のお供に、毎日の楽しみに。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...