明敏犀利の蒸気歯車機関(めいびんさいりのスチーム・ギア)Ⅱ シャーウッド・ローズと萌木のロビンフッド

野村だんだら

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1その4

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「結局、思念歯車の他に異常ヶ所は見つけられなかったわ」
 ブルーワー街のフェアリーズ・シェルフに再び姿を見せたコレット女史は、開口一番に淡々とそう報告した。一方、マギエラは不機嫌な様子でパイプを咥えていて、女史と目を合わせようともしない。
「一週間ぶりに娘の顔を見ておいて、出てくる言葉が『それ』なのって、酷いと思わないの?」
「あら、蒸気歯車に未知の異常が確認されたとなれば、あなたの身体にも関係のあることなのよ。もう少し喜んでも良いのではなくって、マギエラ?」
マギー魔術エラー欠陥も嫌だ、って言ったはずだわ。エリー、って呼んでよ」
「あなたはマギエラよ。わたしの可愛いかわいいマギエラ。無知蒙昧な連中の悪口なんて気にしてはダメ」
「……髪に触らないで」
 頭を撫でようとしたコレット女史の手を、煩わしそうに振り払ったマギエラはいかにもな仏頂面だ。
 そこへ、ふと咳払いが届いた。グラント警部である。
「そろそろ、入ってもよろしいかね?」
「あら、親子水入らずに水を注すだなんて無粋な警部さんだこと」
「ちょうど良かったわ。グレン、聞かせなさい。新聞に顛末の載る様子もないし、気になっていたのよ」
 もう少し仲良くできないものだろうか。これではまるで――、
「ふむ、反抗期のようだな……」
「……グレンまで」
 むす、っと脹れている。「子供扱いしないでちょうだい」
「いやはや。これは失礼しました、お嬢さん」
 ピッケルハウベを脱ぎつつニコリと一礼して、強面のグラント警部も今は紳士然たる好々爺である。おかげですっかり調子を崩されたらしいマギエラが、目をパチクリさせては赤面して、こちらを向く。
 お鉢が回って来たらしい。気の利いた台詞が浮かばないのもあって、あえて黙っていたのだが。
「なんて言うべきか……まあ、エリーはキュート・レディだよね」
 ……うん? あ、言葉選びを間違えた気がする。
 額にパイプが飛んで来た。
「チハヤまで! もう、信じられないわ!」
「ま、待って。違うんだよ、これは――」
 ああ、部屋を出て行ってしまった。階下へと降りていく乱暴な足音までもが聞こえる。
「あらあら、褒めるのは良いけどタイミングが悪かったわね」
「いえ、その……そんなつもりはなかったんですけど」
 ノーブル・レディという言葉が出て来なかっただけなのである。
「ちと、揶揄い過ぎたな。先週の事件が未解決とあって意見を貰いたかったのだが……」
「未解決……ですか」
 それは千早としても気になっていた点である。先週にはマギエラが「どうせすぐに解決する」と断言していただけに、続報が無いことを少々意外に思っていたのだ。警部を前にした際の態度こそあれだが、存外に彼女は、グラント警部を他の警官よりずっと高く買っている節がある。
「蒸気歯車に新たな異常が無かったということは、車体の何処かに欠陥が見つかったということですよね? 何が問題で解決に手間取っているんですか?」
 口から出た素直な疑問だ。するとグラント警部はかぶりを振った。
「それがだな、少年。技術者を交えた上でどれだけ車体を調べても、事故につながりそうな欠陥や故障個所などは、何ひとつ見つからなかったのだよ」

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