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4その3
しおりを挟む「グラント警部。あの木は……マズいですよね」
いつまでも植物画に見惚れているわけにもいかない。本来の職務であるアーサー氏の警護に戻った千早は、サロンの出窓から見えている、三本あるメープルの並木が気になっていた。
左右にあるフィールド・メープルはもちろんのこと、中央のイロハモミジが特に危険に思える。なにせ、相手は森の住人たるロビンフッドに例えられる軽業師が如き身のこなしの持ち主だ。木に登ることなど容易かろう。すると、今いるサロンが二階だからとて安心はできない。
「左右のメープルはともかく、中央のジャパニーズ・メープルは枝も太いし、安定して弓を構えることが出来そうだ。用心した方が良いだろうな……」
グラント警部も千早と同様のことを感じているらしい。頷いて、窓を背にして立つ。すると大柄なグラント警部だが、窓の中央に立ったとて左右に広いスペースが空いてしまう。これでは、身を挺して護るのも困難だろう。
「でかい窓だなぁ」
通常の窓二つ分を優に超える大きさをした、立派な出窓を前に、忌々しげに呟くグラント警部である。
テーブルを囲む椅子にしても、ラタンの背もたれは洒落てこそいるものの弓矢には脆弱だろうし、盾の代わりには使えそうもない。
「報告に向かった巡査は、まだ戻りませんか?」
もう一人の警備要員たるインメルマン巡査は、犯人像に関するマギエラの推察を、倫敦警視庁に伝達しに出て以来、まだ戻って来ていない。
「おそらく……屋敷の警護に人員を割くべきか、議論が行われておるのだろう。そこで、現場の意見を伝えるために残っているはずだ」
なるほど。犯人の容貌がある程度目立つと分かったとなれば、警護を増やす価値も増すということだろうか。少なくとも、グラント警部は警護の人員を増やしたいと考えているだろうし、インメルマン巡査に要求の言伝を頼んだようだった。
「正直な処を言えば……屋内だけでなく、外にも欲しいですよね」
「その通りだ。商会の敷地外――柵の外をぐるりと巡回警備する人員くらいは割いてもらわねば、もしロビンフッドが現れても逃げられてしまうだろうよ」
「あら、男二人で悪だくみかしら?」
ふとした声に振り向けば、マギエラである。「わたしも警備要員なのだし、混ぜて欲しいものだわ」
「頑丈な身体をしているとはいえ、少女の姿をしたお前さんを盾に使うのは……正直、気が進まんのだ」
「あら、優しいのね」
「ふん、揶揄うな」
「そんなつもりは無いわ。本心を言っただけよ。どうした心境の変化かしら?」
「変化だと? お前さんを頼ったのは、人員が少ないからであって最初から本望ではないわい。誰が好き好んで少女を盾に使おうなどと考えるものか」
マギエラが、目をパチクリさせた。
「わたしを、少女だと思ってくれるの?」
「機械だろうと心があることくらい、これまでの付き合いがあるのだ。だから……まあ、分かっておる」
そう、と呟いてマギエラはパイプを取り出した。
「グレン、あなた思っていたより優しいのね」
フンと鼻で笑って、グラント警部は煙草をくわえる。
「……それで、神出鬼没のロビンフッドを相手に何か策はあるのか?」
「弓矢を使う森の民を相手に、三人で何ができるのよ。拳銃でないだけましとはいえ、警備の人数が足りないわ」
「だよなぁ……」
グラント警部のため息は深い。マギエラにしてもパイプを手元で弄んでいて、考える気すらないようだった。
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