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7 終章。エピローグ
しおりを挟む「ところで、聞きたいことがあるんだけれど」
コレット女史がミス・キャロリンを連れて出掛けた――エドウィンストーに送り届けるのだそうだ――ところで、千早は、気になっていたことをマギエラに訊くことにした。
「グラント警部が来た時、エリーは何をしていたんだい? コレット女史が来るまでの時間稼ぎをしながら、ミス・キャロリンを匿うために、何をかしていただろうことは分かるんだけれど、何をしていたのかがさっぱりで。ミリアの錠前破りの腕前を頼って鍵のかかった部屋に匿うにしても、ミリアが呼びに行った時にグラント警部までついてきたらマズいだろうし――」
「チハヤ、少しは黙りなさい」
千早の饒舌を人差し指で止め、マギエラが口にする。「……説明してもよろしいかしら?」
もちろん、千早は頷いた。
「ぜひ、お願いしたいね」
マギエラは肩をすくめて、それにため息が続いた。
「紅茶よ」
紅茶?
「……ええと、それで?」
「分からない? 仕方が無いわねぇ……」
またぞろため息をついてマギエラが続ける。「窓を出た後、下でしばらく待機して、ミリアが降りて来たタイミングで紅茶とお菓子とを用意するよう頼んだのよ。キャリーを匿うためにミリアに錠前破りも頼みたかったのだけれど、これを頼めそうなタイミングといえば、グレンがキャリーを訪ねるタイミングしかなさそうだったでしょう? でも、それでは困るわ。
出来れば、ミリアだけでキャリーを呼びに来てもらいたい。そこで、ティーセットを用意するよう頼んだの。いかなグレンとて、女の子を問い質すのは抵抗があるでしょうからね。部屋にお茶とお菓子があれば、お菓子で場を和ませることを考えるでしょうから、当然そこにキャリーを呼ぼう、という流れになるでしょう?
ミリアは、グレンのことは好いているようだけれど、警察その物はあまり良く思っていないわ。警察に引き渡すことには抵抗があるみたいだったから、鍵を開けてくれるよう頼んだら二つ返事で引き受けてくれたわ。鍵を開けてもらった部屋でキャリーと一緒に待機をして、お母様が来たら部屋に呼びに来てもらう。施錠だけなら内側から出来たから、グレンがドアノブを触ったところで特に困ることはなかった。――以上よ」
聞いてみれば、特に大したことはしていない、というわけだ。しかしながら……、
「よく、そこまで人の動きを予測できるものだね」
「知り合って随分と経つからね。これくらいは当然よ」
当然。……そうなのだろうか。少なくとも、千早はマギエラの行動がまるで読めない。もちろん思考もだ。
「……もし、僕がミリアの特技をグラント警部に話したら、とは考えなかったのかい?」
「あなたが? それはないでしょう。グレンの前でミリアのこれまでの罪を開陳するだなんて、そんな意地の悪い事をするとは思えないわ。あなたは優しいもの」
優しい、ね……。
ふと窓外を見やれば、煤けた倫敦の街並みが見える。シャーウッド・フォレストを含む森林を切り拓いて採掘した、石炭を焚いて出た煤煙の霧は、今日も倫敦を包み込んでいる。
「ミス・キャロリンは、シャーウッド・ローズを作れると思うかい?」
「さあ、どうかしらね。少なくとも……間に合わないでしょうね」
何に、とは言わなかったが、これくらいのことは千早にも分かる。ミス・キャロリンの母親の病気――その死期には間に合わないだろう、とマギエラは言ったのだ。残酷だが、おそらくその通りになるだろうことは、千早にも理解はできた。できたが、しかし千早ならば、それを口にするのははばかられる。けれど、マギエラにとっては、そうではないらしい。
マギエラは優しいが、どこか冷徹と言うか冷めているところがある気がする。あるいは、冷静と言うべきなのかもしれない。
そう思った時、ふと千早は、ロビンフッドについて語るミリアをマギエラが「ロマンチスト」と称しては怒らせていたことを思い出した。
心の機微が読めない。ただ、それだけの事なのかもしれない。
彼女が――マギエラが機械だからなのだろうか。
けれど、それを言うのもまた、千早には躊躇われたのである。
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