25 / 49
第一章
【八話】追憶と傷心。(1)
しおりを挟む
心に傷を作り、未来に至ってもなお嫌悪感を抱かせる出来事。トラウマ。
幼いころに階段から落ちたとか、馬に踏まれたとか。
お化けを見たとか、魔物に襲われたとか。
そんなトラウマを、俺もいくつか抱えている。一番大きなものはもう一人の幼馴染の件だ。
リーフさんに聞いてもらうことで少しは解放された気分だが、それでもあの絶望を拭い去ることは出来ていない。
そんなしぶとい、悪夢のような記憶だ。
ゲルプ砂漠での戦闘から一週間弱。
今日の任務は、アルプトラオムの戦線に参加すること。
この前のような大規模な作戦ではなく、とにかく参加して魔物を掃討する目的だ。
「——と、言うのが今日の任務よ。」
現地の基地で軽くミーティング。今日は、エリナさんは参加せず四人での参戦となっている。
五人での仕事に慣れてきていたころだし、なんだか寂しく感じる。
「それと、ここら辺は接触危惧が多いから一応気を付けること。じゃ、各個遊撃にあたってちょうだい。」
「「「了解」」」
その返事と共に、お姉ちゃんとリーフさんが別の方向へと駆け出した。
さて俺も——
「いてっ」
何者かに襟をつかまれ、姿勢が崩れる。
「待って」
「ん、どうした?」
犯人はアイシャだった。
……こういうのって裾でやるんじゃないのか?
「ねえ、ここって……あいつ居るよね、きっと」
「あいつ?」
おそらく、アイシャのトラウマになっているクモ型魔物の事だろう。
「一緒に動きたい……。」
「……だな。それがいい。」
「ありがと……。ごめん。」
「気にしなさんな」
繰り返しになるが、アイシャはクモ型を苦手としている。
それには過去のある事件が関係している。
もっとも、俺にとってもあれは思い出したくもない出来事だが……。
……朝だ。見慣れた天井。聞き慣れた鳥の声。
だが、一階から聞こえてくる揉め事の気配とは初めましてだ。
「おは……。何事?」
居間へ行くと、外出の準備をしている祖父を、両親が引き留めていた。
「ユウ。お前も引き留めてくれ。親父、先祖代々のお墓に行くって言ってきかないんだ。」
「お墓って……ああ、あの山の中にある?」
ストロングホールドから西に行ったところに山がある。
その山には霊園があり、先祖代々の墓が建てられている。
しかし、その山では近年、魔物の目撃が相次いでおり、非常に危険なエリアになってしまっている。
「お義父さん、どうか思いとどまってください。」
「いや、止めないでくれ。もう何年も行ってなくて申し訳が立たん。」
「だけど親父、あそこには魔物がたくさん居やがるんだぞ?」
「そうですよ。危険です。」
「だが——」
……聞く限り、永久に収束しなさそうな言い合い。
喧嘩されても面倒だと思い、俺からある提案をした。
「——じゃあ、俺とアイシャが同行する。それなら大丈夫でしょ?」
あれから約五年。俺たちは騎士になると心に誓い、ある程度の力をつけてきた。
件の山に出るというサル型魔物くらいであれば、なんてことはない。
「ユウとアイシャちゃんが来てくれるなら心配はないだろう?」
「けど二人はまだ……」
……騎士になったわけじゃない。
あくまで修行中の身だ。騎士校に入れるのは十六歳になる年からだ。
「……はぁ、仕方ない。」
「あなた、行かせる気なの?」
「たしかにユウとアイシャが居れば心配はないだろ。」
「でも!」
「わかってる。」
母さんを落ち着かせ、父さんは俺の方を向いて言った。
「ユウ。お前たちの腕前は信頼してる。それに、親父も多少は剣の心得があるしな。けどな、父さんも母さんも、家族としては心配で仕方ないんだ。だから、ブルーダーさんにも同行してもらう。」
ブルーダーさんはストロングホールド所属の騎士で、俺やアイシャに剣を教えてくれている人だ。
公園にいる野蛮な奴らとは違って、とても信頼できる人だ。俺たちは兄のように慕っている。
「いいな?ユウ。」
「うん、わかった。」
「お前も。」
「……ええ。」
母さんも渋々納得し、俺、アイシャ、祖父、ブルーダーさんの四人で霊園のある山に行くことに。
その事を頼みに行くと、二人は快く引き受けてくれた。
ブルーダーさんに馬車を出してもらい、霊園に向けて走る。
「付き合わせてしまってしまって申し訳ないね、ブルーダーさん。」
「いえ、お気になさらず。お墓参りでしたっけ?家系を大切にされているんですね」
「年を取ると、そういう事を重んじたくなるんですよ。昔の人に感謝なんて、私も若いころは考えてませんでした。」
馭者をしながら、ブルーダーさんと祖父が世間話をしている。
一方で、座席車に乗り込んだ俺とアイシャはあまり会話が弾んでいない。
「悪いね、アイシャまで付き合わせちゃって」
「ううん。貴重な実戦の機会だし。それに……」
「それに?」
「二人でお出かけするのも久しぶりだし」
そう、小声でささやく。
「保護者同伴で、な。」
俺も小声で返す。
祖父もブルーダーさんもいる中で、普段のように会話をするのは……というためらいがあり、なんだかぎこちなくなってしまう。
「ところでさ」
「ん?」
出発から数時間。
今になって疑問に感じるのは遅すぎるのだが、どうしても訊きたいことがあった。
「四人乗りの座席車で、何で隣?」
「ダメ……?」
俺の左腕に抱き着きながら言う。コアラのよう。
「いや、いいけど……」
「じゃあ問題なし」
……最近、アイシャはこういった行動をするようになった。
男勝りなところはめっきり見えなくなり……その……なんだ……女の子らしさが目立つように。
嫌ってわけじゃない。ただその……ねぇ?俺も一応男性なもんですから。
馬車が停まった。目的地に着いたのだろう。
「ユウ、アイシャ、着いたぞ。」
ブルーダーさんが座席車の扉を開く。
「……なんで四人乗りの座席車で隣に?」
「え、あ、まあ、ちょっと。」
「うん、ちょっと。」
「……そうか。」
「若いのう」
ブルーダーさんはともかく、身内の祖父にそれを言われたのはなかなか効いた。
さて、霊園は馬車を降りてから三十分弱歩いたところにある。
なぜそんな面倒な場所に作るんだと文句を垂れたくなる。
「ところで、じいちゃん。」
「どうした?」
「今日じゃなきゃ、ダメだったの?今朝になって突然言い出したみたいな感じだったし。」
「うーむ、ユウに話すのは早い気もするが……。そうだな、今日は節目の日でな。」
「節目?」
「そう。何のかは今度話そう。とにかく、一家にとって大事な日なんだ。」
「へえ。あれ、でも」
そう、一家にとって大事なら……。
「父さんは知らないの?」
今日の墓参りを止めていた父さん。
山が危険だと知っているからだろうか……。
「お父さんには、まだ伝えてないんだ。代々、いろいろと面倒があっての。」
「そうなんだ。」
「ユウにもいつか、きちんと話さないといかん。」
「うん。」
俺に話したということは、俺は代々の面倒というやつに巻き込まれるってことか。
何だか将来が不安になった。
歩き始めて十分弱。
やはり、着いてきてよかった。
「ユウ、アイシャ!」
「うん」
「わかってる」
——魔物だ。
腰に下げていて剣を抜き、周辺に気を配る。
小さな物音も聞き逃さないよう、全神経を尖らせた。
……静寂が続く。敵も警戒しているのだろう。
……風に舞う木の葉だけが騒がしい。
「そこ!」
アイシャが茂みに向かって石を投げると、驚いたサル型が飛び出してきた。
「はあっ!」
すかさず剣撃を浴びせ、そいつを葬った。
「ナイス!」
——瞬間。何匹ものサル型が一斉に飛び出てきた。
「群れだ!二人とも、訓練通りに落ち着いて対処しろ!」
「「了解!」」
——右から一匹っ!
鋭い爪を光らせながら助走をつけて攻撃してきた。
が、これを難なくかわして——
——くらえっ!
頭頂部から剣をお見舞い。敵は断末魔を上げて地面に倒れ込む。
——向かってくる足音……。後ろか!
振り向くと、タックルをしようと突っ込んでくる奴が二匹。一匹は斬れば防げるが……。
——来たっ!
ジャンプタックルしてきたところを、剣で斬り落とす。
続いてもう一匹。今、剣を振った勢いが生きているため、これを斬るのは難しい。
だが落ち着け、俺には能力がある。
「来い!」
俺の体とサル型が衝突する刹那、力を反射する能力を発動。
サル型は軽く飛び、しりもちをついた。
その隙に胸辺りに剣を刺してトドメ。
安心したのも束の間。今度は——
「……っ!じいちゃん!逃げ……」
魔物が一匹、祖父を狙って腕を振り上げていた。ここでケガをされたら……っ!
——間に合ってくれ!
全速力で祖父の方へ向かうが——
——くそ、間に合わな……
——一瞬、目を瞑ってしまった。
——しかし、聞こえてきたのは祖父の声だった。
「死んでなるものか!」
祖父は立っていた。太い枝を拾い、サル型の攻撃を何とか防御していた。
そういえば父さんは「親父も多少は剣の心得がある」って言ってたっけ。
たまたま太めの枝が落ちていてよかった。
うってかわって、俺は冷静にその魔物を斬り裂いた。
「おお、ユウ。助かったよ。」
「うん。良かった。ケガはない?」
「ああ、大丈夫だ。若いころに競技剣術をやっていてよかったよ。」
「役に立ったね。」
祖父の無事を喜んでいると、アイシャとブルーダーさんが合流。二人とも無事そうだ。
「よくやったな、二人とも」
「ううん。サルくらいじゃ、ねえ」
「まあ、うん。」
ちょっとピンチだったくせに、そんな調子のいい返事をしてしまう。
「いやあ、正直驚いた。お前たちがここまでやるなんてな。もう俺なんて要らないんじゃないか?」
「えへへ」
「そんな」
「事実、一人でサル型を何匹も相手したんだ。それも無傷でな。もうそこらの騎士なんかより強いと思うぞ。お前たちなら魔特班まで行けるかもしれないな。」
「魔特班?」
「ああ。魔族討伐特別作戦班。騎士の中でも特別優秀な奴だけが入れる班だ。」
「へえ。ユウ、一緒に目指そうよ」
「だな。」
……魔特班、か。それはいいことを聞いた。
アイシャと共に頑張ってみよう。そう決めた。
その時の祖父の顔は笑顔。
頑張れよ。
そう、応援してくれている気がした。
幼いころに階段から落ちたとか、馬に踏まれたとか。
お化けを見たとか、魔物に襲われたとか。
そんなトラウマを、俺もいくつか抱えている。一番大きなものはもう一人の幼馴染の件だ。
リーフさんに聞いてもらうことで少しは解放された気分だが、それでもあの絶望を拭い去ることは出来ていない。
そんなしぶとい、悪夢のような記憶だ。
ゲルプ砂漠での戦闘から一週間弱。
今日の任務は、アルプトラオムの戦線に参加すること。
この前のような大規模な作戦ではなく、とにかく参加して魔物を掃討する目的だ。
「——と、言うのが今日の任務よ。」
現地の基地で軽くミーティング。今日は、エリナさんは参加せず四人での参戦となっている。
五人での仕事に慣れてきていたころだし、なんだか寂しく感じる。
「それと、ここら辺は接触危惧が多いから一応気を付けること。じゃ、各個遊撃にあたってちょうだい。」
「「「了解」」」
その返事と共に、お姉ちゃんとリーフさんが別の方向へと駆け出した。
さて俺も——
「いてっ」
何者かに襟をつかまれ、姿勢が崩れる。
「待って」
「ん、どうした?」
犯人はアイシャだった。
……こういうのって裾でやるんじゃないのか?
「ねえ、ここって……あいつ居るよね、きっと」
「あいつ?」
おそらく、アイシャのトラウマになっているクモ型魔物の事だろう。
「一緒に動きたい……。」
「……だな。それがいい。」
「ありがと……。ごめん。」
「気にしなさんな」
繰り返しになるが、アイシャはクモ型を苦手としている。
それには過去のある事件が関係している。
もっとも、俺にとってもあれは思い出したくもない出来事だが……。
……朝だ。見慣れた天井。聞き慣れた鳥の声。
だが、一階から聞こえてくる揉め事の気配とは初めましてだ。
「おは……。何事?」
居間へ行くと、外出の準備をしている祖父を、両親が引き留めていた。
「ユウ。お前も引き留めてくれ。親父、先祖代々のお墓に行くって言ってきかないんだ。」
「お墓って……ああ、あの山の中にある?」
ストロングホールドから西に行ったところに山がある。
その山には霊園があり、先祖代々の墓が建てられている。
しかし、その山では近年、魔物の目撃が相次いでおり、非常に危険なエリアになってしまっている。
「お義父さん、どうか思いとどまってください。」
「いや、止めないでくれ。もう何年も行ってなくて申し訳が立たん。」
「だけど親父、あそこには魔物がたくさん居やがるんだぞ?」
「そうですよ。危険です。」
「だが——」
……聞く限り、永久に収束しなさそうな言い合い。
喧嘩されても面倒だと思い、俺からある提案をした。
「——じゃあ、俺とアイシャが同行する。それなら大丈夫でしょ?」
あれから約五年。俺たちは騎士になると心に誓い、ある程度の力をつけてきた。
件の山に出るというサル型魔物くらいであれば、なんてことはない。
「ユウとアイシャちゃんが来てくれるなら心配はないだろう?」
「けど二人はまだ……」
……騎士になったわけじゃない。
あくまで修行中の身だ。騎士校に入れるのは十六歳になる年からだ。
「……はぁ、仕方ない。」
「あなた、行かせる気なの?」
「たしかにユウとアイシャが居れば心配はないだろ。」
「でも!」
「わかってる。」
母さんを落ち着かせ、父さんは俺の方を向いて言った。
「ユウ。お前たちの腕前は信頼してる。それに、親父も多少は剣の心得があるしな。けどな、父さんも母さんも、家族としては心配で仕方ないんだ。だから、ブルーダーさんにも同行してもらう。」
ブルーダーさんはストロングホールド所属の騎士で、俺やアイシャに剣を教えてくれている人だ。
公園にいる野蛮な奴らとは違って、とても信頼できる人だ。俺たちは兄のように慕っている。
「いいな?ユウ。」
「うん、わかった。」
「お前も。」
「……ええ。」
母さんも渋々納得し、俺、アイシャ、祖父、ブルーダーさんの四人で霊園のある山に行くことに。
その事を頼みに行くと、二人は快く引き受けてくれた。
ブルーダーさんに馬車を出してもらい、霊園に向けて走る。
「付き合わせてしまってしまって申し訳ないね、ブルーダーさん。」
「いえ、お気になさらず。お墓参りでしたっけ?家系を大切にされているんですね」
「年を取ると、そういう事を重んじたくなるんですよ。昔の人に感謝なんて、私も若いころは考えてませんでした。」
馭者をしながら、ブルーダーさんと祖父が世間話をしている。
一方で、座席車に乗り込んだ俺とアイシャはあまり会話が弾んでいない。
「悪いね、アイシャまで付き合わせちゃって」
「ううん。貴重な実戦の機会だし。それに……」
「それに?」
「二人でお出かけするのも久しぶりだし」
そう、小声でささやく。
「保護者同伴で、な。」
俺も小声で返す。
祖父もブルーダーさんもいる中で、普段のように会話をするのは……というためらいがあり、なんだかぎこちなくなってしまう。
「ところでさ」
「ん?」
出発から数時間。
今になって疑問に感じるのは遅すぎるのだが、どうしても訊きたいことがあった。
「四人乗りの座席車で、何で隣?」
「ダメ……?」
俺の左腕に抱き着きながら言う。コアラのよう。
「いや、いいけど……」
「じゃあ問題なし」
……最近、アイシャはこういった行動をするようになった。
男勝りなところはめっきり見えなくなり……その……なんだ……女の子らしさが目立つように。
嫌ってわけじゃない。ただその……ねぇ?俺も一応男性なもんですから。
馬車が停まった。目的地に着いたのだろう。
「ユウ、アイシャ、着いたぞ。」
ブルーダーさんが座席車の扉を開く。
「……なんで四人乗りの座席車で隣に?」
「え、あ、まあ、ちょっと。」
「うん、ちょっと。」
「……そうか。」
「若いのう」
ブルーダーさんはともかく、身内の祖父にそれを言われたのはなかなか効いた。
さて、霊園は馬車を降りてから三十分弱歩いたところにある。
なぜそんな面倒な場所に作るんだと文句を垂れたくなる。
「ところで、じいちゃん。」
「どうした?」
「今日じゃなきゃ、ダメだったの?今朝になって突然言い出したみたいな感じだったし。」
「うーむ、ユウに話すのは早い気もするが……。そうだな、今日は節目の日でな。」
「節目?」
「そう。何のかは今度話そう。とにかく、一家にとって大事な日なんだ。」
「へえ。あれ、でも」
そう、一家にとって大事なら……。
「父さんは知らないの?」
今日の墓参りを止めていた父さん。
山が危険だと知っているからだろうか……。
「お父さんには、まだ伝えてないんだ。代々、いろいろと面倒があっての。」
「そうなんだ。」
「ユウにもいつか、きちんと話さないといかん。」
「うん。」
俺に話したということは、俺は代々の面倒というやつに巻き込まれるってことか。
何だか将来が不安になった。
歩き始めて十分弱。
やはり、着いてきてよかった。
「ユウ、アイシャ!」
「うん」
「わかってる」
——魔物だ。
腰に下げていて剣を抜き、周辺に気を配る。
小さな物音も聞き逃さないよう、全神経を尖らせた。
……静寂が続く。敵も警戒しているのだろう。
……風に舞う木の葉だけが騒がしい。
「そこ!」
アイシャが茂みに向かって石を投げると、驚いたサル型が飛び出してきた。
「はあっ!」
すかさず剣撃を浴びせ、そいつを葬った。
「ナイス!」
——瞬間。何匹ものサル型が一斉に飛び出てきた。
「群れだ!二人とも、訓練通りに落ち着いて対処しろ!」
「「了解!」」
——右から一匹っ!
鋭い爪を光らせながら助走をつけて攻撃してきた。
が、これを難なくかわして——
——くらえっ!
頭頂部から剣をお見舞い。敵は断末魔を上げて地面に倒れ込む。
——向かってくる足音……。後ろか!
振り向くと、タックルをしようと突っ込んでくる奴が二匹。一匹は斬れば防げるが……。
——来たっ!
ジャンプタックルしてきたところを、剣で斬り落とす。
続いてもう一匹。今、剣を振った勢いが生きているため、これを斬るのは難しい。
だが落ち着け、俺には能力がある。
「来い!」
俺の体とサル型が衝突する刹那、力を反射する能力を発動。
サル型は軽く飛び、しりもちをついた。
その隙に胸辺りに剣を刺してトドメ。
安心したのも束の間。今度は——
「……っ!じいちゃん!逃げ……」
魔物が一匹、祖父を狙って腕を振り上げていた。ここでケガをされたら……っ!
——間に合ってくれ!
全速力で祖父の方へ向かうが——
——くそ、間に合わな……
——一瞬、目を瞑ってしまった。
——しかし、聞こえてきたのは祖父の声だった。
「死んでなるものか!」
祖父は立っていた。太い枝を拾い、サル型の攻撃を何とか防御していた。
そういえば父さんは「親父も多少は剣の心得がある」って言ってたっけ。
たまたま太めの枝が落ちていてよかった。
うってかわって、俺は冷静にその魔物を斬り裂いた。
「おお、ユウ。助かったよ。」
「うん。良かった。ケガはない?」
「ああ、大丈夫だ。若いころに競技剣術をやっていてよかったよ。」
「役に立ったね。」
祖父の無事を喜んでいると、アイシャとブルーダーさんが合流。二人とも無事そうだ。
「よくやったな、二人とも」
「ううん。サルくらいじゃ、ねえ」
「まあ、うん。」
ちょっとピンチだったくせに、そんな調子のいい返事をしてしまう。
「いやあ、正直驚いた。お前たちがここまでやるなんてな。もう俺なんて要らないんじゃないか?」
「えへへ」
「そんな」
「事実、一人でサル型を何匹も相手したんだ。それも無傷でな。もうそこらの騎士なんかより強いと思うぞ。お前たちなら魔特班まで行けるかもしれないな。」
「魔特班?」
「ああ。魔族討伐特別作戦班。騎士の中でも特別優秀な奴だけが入れる班だ。」
「へえ。ユウ、一緒に目指そうよ」
「だな。」
……魔特班、か。それはいいことを聞いた。
アイシャと共に頑張ってみよう。そう決めた。
その時の祖父の顔は笑顔。
頑張れよ。
そう、応援してくれている気がした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる