宣誓のその先へ

ねこかもめ

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第一章

【八話】追憶と傷心。(1)

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 心に傷を作り、未来に至ってもなお嫌悪感を抱かせる出来事。トラウマ。

幼いころに階段から落ちたとか、馬に踏まれたとか。
お化けを見たとか、魔物に襲われたとか。

そんなトラウマを、俺もいくつか抱えている。一番大きなものはもう一人の幼馴染の件だ。
リーフさんに聞いてもらうことで少しは解放された気分だが、それでもあの絶望を拭い去ることは出来ていない。
そんなしぶとい、悪夢のような記憶だ。


 ゲルプ砂漠での戦闘から一週間弱。
今日の任務は、アルプトラオムの戦線に参加すること。
この前のような大規模な作戦ではなく、とにかく参加して魔物を掃討する目的だ。

「——と、言うのが今日の任務よ。」

現地の基地で軽くミーティング。今日は、エリナさんは参加せず四人での参戦となっている。
五人での仕事に慣れてきていたころだし、なんだか寂しく感じる。

「それと、ここら辺は接触危惧が多いから一応気を付けること。じゃ、各個遊撃にあたってちょうだい。」
「「「了解」」」

その返事と共に、お姉ちゃんとリーフさんが別の方向へと駆け出した。

さて俺も——

「いてっ」

何者かに襟をつかまれ、姿勢が崩れる。

「待って」
「ん、どうした?」

犯人はアイシャだった。

……こういうのって裾でやるんじゃないのか?

「ねえ、ここって……あいつ居るよね、きっと」
「あいつ?」

おそらく、アイシャのトラウマになっているクモ型魔物の事だろう。

「一緒に動きたい……。」
「……だな。それがいい。」
「ありがと……。ごめん。」
「気にしなさんな」

繰り返しになるが、アイシャはクモ型を苦手としている。
それには過去のある事件が関係している。
もっとも、俺にとってもあれは思い出したくもない出来事だが……。




……朝だ。見慣れた天井。聞き慣れた鳥の声。
だが、一階から聞こえてくる揉め事の気配とは初めましてだ。

「おは……。何事?」

居間へ行くと、外出の準備をしている祖父を、両親が引き留めていた。

「ユウ。お前も引き留めてくれ。親父、先祖代々のお墓に行くって言ってきかないんだ。」
「お墓って……ああ、あの山の中にある?」

ストロングホールドから西に行ったところに山がある。
その山には霊園があり、先祖代々の墓が建てられている。
しかし、その山では近年、魔物の目撃が相次いでおり、非常に危険なエリアになってしまっている。

「お義父さん、どうか思いとどまってください。」
「いや、止めないでくれ。もう何年も行ってなくて申し訳が立たん。」
「だけど親父、あそこには魔物がたくさん居やがるんだぞ?」
「そうですよ。危険です。」
「だが——」

……聞く限り、永久に収束しなさそうな言い合い。
喧嘩されても面倒だと思い、俺からある提案をした。

「——じゃあ、俺とアイシャが同行する。それなら大丈夫でしょ?」

あれから約五年。俺たちは騎士になると心に誓い、ある程度の力をつけてきた。
件の山に出るというサル型魔物くらいであれば、なんてことはない。

「ユウとアイシャちゃんが来てくれるなら心配はないだろう?」
「けど二人はまだ……」

……騎士になったわけじゃない。
あくまで修行中の身だ。騎士校に入れるのは十六歳になる年からだ。

「……はぁ、仕方ない。」
「あなた、行かせる気なの?」
「たしかにユウとアイシャが居れば心配はないだろ。」
「でも!」
「わかってる。」

母さんを落ち着かせ、父さんは俺の方を向いて言った。

「ユウ。お前たちの腕前は信頼してる。それに、親父も多少は剣の心得があるしな。けどな、父さんも母さんも、家族としては心配で仕方ないんだ。だから、ブルーダーさんにも同行してもらう。」

ブルーダーさんはストロングホールド所属の騎士で、俺やアイシャに剣を教えてくれている人だ。
公園にいる野蛮な奴らとは違って、とても信頼できる人だ。俺たちは兄のように慕っている。

「いいな?ユウ。」
「うん、わかった。」
「お前も。」
「……ええ。」
母さんも渋々納得し、俺、アイシャ、祖父、ブルーダーさんの四人で霊園のある山に行くことに。
その事を頼みに行くと、二人は快く引き受けてくれた。


 ブルーダーさんに馬車を出してもらい、霊園に向けて走る。

「付き合わせてしまってしまって申し訳ないね、ブルーダーさん。」
「いえ、お気になさらず。お墓参りでしたっけ?家系を大切にされているんですね」
「年を取ると、そういう事を重んじたくなるんですよ。昔の人に感謝なんて、私も若いころは考えてませんでした。」

馭者をしながら、ブルーダーさんと祖父が世間話をしている。
一方で、座席車に乗り込んだ俺とアイシャはあまり会話が弾んでいない。

「悪いね、アイシャまで付き合わせちゃって」
「ううん。貴重な実戦の機会だし。それに……」
「それに?」
「二人でお出かけするのも久しぶりだし」

そう、小声でささやく。

「保護者同伴で、な。」

俺も小声で返す。
祖父もブルーダーさんもいる中で、普段のように会話をするのは……というためらいがあり、なんだかぎこちなくなってしまう。

「ところでさ」
「ん?」

出発から数時間。
今になって疑問に感じるのは遅すぎるのだが、どうしても訊きたいことがあった。

「四人乗りの座席車で、何で隣?」
「ダメ……?」

俺の左腕に抱き着きながら言う。コアラのよう。

「いや、いいけど……」
「じゃあ問題なし」

……最近、アイシャはこういった行動をするようになった。
男勝りなところはめっきり見えなくなり……その……なんだ……女の子らしさが目立つように。
嫌ってわけじゃない。ただその……ねぇ?俺も一応男性なもんですから。

 
 馬車が停まった。目的地に着いたのだろう。

「ユウ、アイシャ、着いたぞ。」

ブルーダーさんが座席車の扉を開く。

「……なんで四人乗りの座席車で隣に?」
「え、あ、まあ、ちょっと。」
「うん、ちょっと。」
「……そうか。」
「若いのう」

ブルーダーさんはともかく、身内の祖父にそれを言われたのはなかなか効いた。


さて、霊園は馬車を降りてから三十分弱歩いたところにある。
なぜそんな面倒な場所に作るんだと文句を垂れたくなる。

「ところで、じいちゃん。」
「どうした?」
「今日じゃなきゃ、ダメだったの?今朝になって突然言い出したみたいな感じだったし。」
「うーむ、ユウに話すのは早い気もするが……。そうだな、今日は節目の日でな。」
「節目?」
「そう。何のかは今度話そう。とにかく、一家にとって大事な日なんだ。」
「へえ。あれ、でも」

そう、一家にとって大事なら……。

「父さんは知らないの?」

今日の墓参りを止めていた父さん。
山が危険だと知っているからだろうか……。

「お父さんには、まだ伝えてないんだ。代々、いろいろと面倒があっての。」
「そうなんだ。」
「ユウにもいつか、きちんと話さないといかん。」
「うん。」

俺に話したということは、俺は代々の面倒というやつに巻き込まれるってことか。
何だか将来が不安になった。


歩き始めて十分弱。

やはり、着いてきてよかった。

「ユウ、アイシャ!」
「うん」
「わかってる」

——魔物だ。

腰に下げていて剣を抜き、周辺に気を配る。
小さな物音も聞き逃さないよう、全神経を尖らせた。

……静寂が続く。敵も警戒しているのだろう。

……風に舞う木の葉だけが騒がしい。

「そこ!」

アイシャが茂みに向かって石を投げると、驚いたサル型が飛び出してきた。

「はあっ!」

すかさず剣撃を浴びせ、そいつを葬った。

「ナイス!」

——瞬間。何匹ものサル型が一斉に飛び出てきた。

「群れだ!二人とも、訓練通りに落ち着いて対処しろ!」
「「了解!」」

——右から一匹っ!

鋭い爪を光らせながら助走をつけて攻撃してきた。
が、これを難なくかわして——

——くらえっ!

頭頂部から剣をお見舞い。敵は断末魔を上げて地面に倒れ込む。

——向かってくる足音……。後ろか!

振り向くと、タックルをしようと突っ込んでくる奴が二匹。一匹は斬れば防げるが……。

——来たっ!

ジャンプタックルしてきたところを、剣で斬り落とす。
続いてもう一匹。今、剣を振った勢いが生きているため、これを斬るのは難しい。
だが落ち着け、俺には能力がある。

「来い!」

俺の体とサル型が衝突する刹那、力を反射する能力を発動。
サル型は軽く飛び、しりもちをついた。
その隙に胸辺りに剣を刺してトドメ。

安心したのも束の間。今度は——

「……っ!じいちゃん!逃げ……」

魔物が一匹、祖父を狙って腕を振り上げていた。ここでケガをされたら……っ!

——間に合ってくれ!

全速力で祖父の方へ向かうが——

——くそ、間に合わな……

——一瞬、目を瞑ってしまった。

——しかし、聞こえてきたのは祖父の声だった。

「死んでなるものか!」

祖父は立っていた。太い枝を拾い、サル型の攻撃を何とか防御していた。
そういえば父さんは「親父も多少は剣の心得がある」って言ってたっけ。
たまたま太めの枝が落ちていてよかった。

うってかわって、俺は冷静にその魔物を斬り裂いた。

「おお、ユウ。助かったよ。」
「うん。良かった。ケガはない?」
「ああ、大丈夫だ。若いころに競技剣術をやっていてよかったよ。」
「役に立ったね。」

祖父の無事を喜んでいると、アイシャとブルーダーさんが合流。二人とも無事そうだ。

「よくやったな、二人とも」
「ううん。サルくらいじゃ、ねえ」
「まあ、うん。」

ちょっとピンチだったくせに、そんな調子のいい返事をしてしまう。

「いやあ、正直驚いた。お前たちがここまでやるなんてな。もう俺なんて要らないんじゃないか?」
「えへへ」
「そんな」
「事実、一人でサル型を何匹も相手したんだ。それも無傷でな。もうそこらの騎士なんかより強いと思うぞ。お前たちなら魔特班まで行けるかもしれないな。」
「魔特班?」
「ああ。魔族討伐特別作戦班。騎士の中でも特別優秀な奴だけが入れる班だ。」
「へえ。ユウ、一緒に目指そうよ」
「だな。」

……魔特班、か。それはいいことを聞いた。
アイシャと共に頑張ってみよう。そう決めた。

その時の祖父の顔は笑顔。

頑張れよ。

そう、応援してくれている気がした。
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