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第一章
【八話】追憶と傷心。(2)
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この山にうちの墓があるというのは聞いていたが、実際に墓参りに来たことはなかった。
行こうとしても、祖父は「一人で行く」と言ってきかなかった。さっきの話から察するに、父さんが一緒に来るのが良くないのかもしれない。
その理由は知らないが……。
「さあ、着いたぞ」
「うわ、結構でっかいんだね」
想像していたより大きめの墓石。周辺のものと比べても、ひときわ目立つ。
「まずは……そうだな、墓石を掃除しようか。コケまみれだ。」
「了解」
もう何年も来てないって言ってたっけ。
確かに、遠目でもわかるほどコケがむしている。
金属のヘラみたいなものでそれを剥がし、そのあと濡れた雑巾で綺麗に拭く。
「あ、高いところは俺がやるよ。危ないし。」
「そうかい。助かるよ。」
やっているうちに、墓石掃除にのめり込んでいることに気づいた。
部屋の掃除なんかでもこの現象が発生する。
普段は最低限の片付けしかしないくせに、一回掃除を始めると、本格的に綺麗にし始める。
おかげで、俺の部屋は定期的に快適空間になる。
まあそれは良いとして。
「さあ、綺麗になったな」
「見違えたね」
「ああ。あとは花だな」
祖父は荷物から花束を取り出し、墓石の左右にお供え。
「あとは手を合わせて終わり?」
「いや、もう一工程ある。」
「……?」
これ以上何をするんだろう……?
見ていると、祖父は墓石の下の……引き出し?のような所を開け、首にかけていたカギを使った。
すると、床の一部が観音扉のように開いた。何が起きるのかと注目していると、その扉の中から小さな箱を取り出した。
「ユウ。これは大切なものだから、よく覚えておいてほしい。」
「……分かった。」
頭の中で、祖父がやった行動を何度かなぞる。
次に祖父は、懐から真紅の輝きを放つ宝玉を取り出した。
それを例の箱に入れ、元の位置に戻し、引き出しや観音扉も戻した。
……、さっきの石は何なのか。その疑問はもちろんある。
だけど何だか、訊いてはいけない気がした。だから何も言わず、俺たちは二人のもとに戻った。
「お待たせしました」
「おお、戻られましたか。魔物は大丈夫でしたか?」
「ええ、平和に終わりましたよ。帰りましょうか。」
「ですね。」
「アイシャ、ブルーダーさんにセクハラされなかった?」
「うん、大丈夫。」
「ユウ。帰ったらお前は素振り千回な。」
「千⁈」
——口は災いのもと。
馬車まで戻ってきた。あとはストロングホールドに帰るだけ。
そう思っていた。だが、ここが「危険な山」と呼ばれるようになった所以は、サル型の魔物だけではないのだ、と。
それだけなら、騎士が常駐していれば「危険な山」と呼ばれるまでもない。
なのに、ここに騎士も誰もいないのには、理由があったのだと。
そう示すかのように現れたそれ。
サル型がサルに似ているなら、こいつは「クモ」だ。
「クソっ、帰り際に魔物かよ」
「やっちゃおう」
「二人とも、気を抜くなよ。こいつは……っ!」
——速い⁈
これまで、何種類かの魔物を見てきた。
だけど、こんなに素早い奴は見たことがなかった。目で追うのが精いっぱいだ。
「なんだ⁈」
「ユウ!」
「無事か?」
「うん、大丈夫!」
いきなり糸を出したと思うと、それを固めて飛ばしてきた。
遠距離攻撃をしてくる魔物は滅多にいないと聞いていた手前、かなり驚いた。
——それにしてもこいつは……。
「こ、こいつっ!」
「手も足も出せない……。」
「みんな、大丈夫か?」
馬車から様子を見ていた祖父が、心配そうに問いかけてきた。
「いや、正直厳しいかも……。」
「そりゃそうさ。なんたってこのクモ型は——」
……まさか。
「——接触危惧種だからな。」
……やはりそうか。だからこの山には霊園があるのに常駐の騎士が一人もいないんだ。
コイツが出るから……!
「くっ!」
「アイシャ!」
「何とか……大丈夫……!」
その表情は、あまり大丈夫そうには見えなかった。
相手の攻撃が速く、防御が遅れて腕を痛めているかもしれない。
「ユウ、アイシャ。」
「なに?」
「おじいさんと三人でストロングホールドに帰れ。」
「え⁈」
「そんな!ブルーダーさんを置いて行けっての?」
「出来ないよ、そんなこと!」
「いいから早く行け!このままじゃ全員殺される!」
「でも……!」
「早くしろ!」
「ユウ、アイシャちゃん!ここは引き返して助けを呼ぼう!」
「くっ……!急ごう、アイシャ!今の俺たちじゃあの魔物には勝てっこないよ!」
「だからってブルーダーさんを……!」
「心配するな、アイシャ!俺は大丈夫だ。俺はお前たちの師範だぞ?」
「そうだけど……。」
数秒うつむいたアイシャ。
やがて再び顔を上げていった。
「絶対、帰ってきてよね?まだ教わってないことがたくさんあるんだから」
「ああ。任せろ!」
そのセリフを聞き、アイシャと共に馬車に乗り込んだ。
ブルーダーさんは安心したような顔をしている。
「じいちゃん!大急ぎでストロングホールドに!」
「ああ!」
馬車が走り出した。
来た時よりも早い周期で揺れる。
窓から様子を眺める。
希望のある出発とは裏腹に、見えてきた光景はしかし、絶望そのものだった。
「——二人とも。見ない方がいい……」
馭者の祖父は既に見ていたようだ。
——見ない方がいいと言われても
——時はすでに遅い
「いや……」
「……」
——自分の無力さを恨んだ。
「うそ、だよね……そんな……」
「くそ……」
——また、何もできなかった。
「いやだよ……」
——二度とそうならないように剣を握ったのに。
大粒の涙を流す幼馴染をそっと抱きしめる。
——二度とこんな顔をさせないように剣を握ったのに。
「アイシャ……」
——俺たちはまた、大切な人を失った。
行こうとしても、祖父は「一人で行く」と言ってきかなかった。さっきの話から察するに、父さんが一緒に来るのが良くないのかもしれない。
その理由は知らないが……。
「さあ、着いたぞ」
「うわ、結構でっかいんだね」
想像していたより大きめの墓石。周辺のものと比べても、ひときわ目立つ。
「まずは……そうだな、墓石を掃除しようか。コケまみれだ。」
「了解」
もう何年も来てないって言ってたっけ。
確かに、遠目でもわかるほどコケがむしている。
金属のヘラみたいなものでそれを剥がし、そのあと濡れた雑巾で綺麗に拭く。
「あ、高いところは俺がやるよ。危ないし。」
「そうかい。助かるよ。」
やっているうちに、墓石掃除にのめり込んでいることに気づいた。
部屋の掃除なんかでもこの現象が発生する。
普段は最低限の片付けしかしないくせに、一回掃除を始めると、本格的に綺麗にし始める。
おかげで、俺の部屋は定期的に快適空間になる。
まあそれは良いとして。
「さあ、綺麗になったな」
「見違えたね」
「ああ。あとは花だな」
祖父は荷物から花束を取り出し、墓石の左右にお供え。
「あとは手を合わせて終わり?」
「いや、もう一工程ある。」
「……?」
これ以上何をするんだろう……?
見ていると、祖父は墓石の下の……引き出し?のような所を開け、首にかけていたカギを使った。
すると、床の一部が観音扉のように開いた。何が起きるのかと注目していると、その扉の中から小さな箱を取り出した。
「ユウ。これは大切なものだから、よく覚えておいてほしい。」
「……分かった。」
頭の中で、祖父がやった行動を何度かなぞる。
次に祖父は、懐から真紅の輝きを放つ宝玉を取り出した。
それを例の箱に入れ、元の位置に戻し、引き出しや観音扉も戻した。
……、さっきの石は何なのか。その疑問はもちろんある。
だけど何だか、訊いてはいけない気がした。だから何も言わず、俺たちは二人のもとに戻った。
「お待たせしました」
「おお、戻られましたか。魔物は大丈夫でしたか?」
「ええ、平和に終わりましたよ。帰りましょうか。」
「ですね。」
「アイシャ、ブルーダーさんにセクハラされなかった?」
「うん、大丈夫。」
「ユウ。帰ったらお前は素振り千回な。」
「千⁈」
——口は災いのもと。
馬車まで戻ってきた。あとはストロングホールドに帰るだけ。
そう思っていた。だが、ここが「危険な山」と呼ばれるようになった所以は、サル型の魔物だけではないのだ、と。
それだけなら、騎士が常駐していれば「危険な山」と呼ばれるまでもない。
なのに、ここに騎士も誰もいないのには、理由があったのだと。
そう示すかのように現れたそれ。
サル型がサルに似ているなら、こいつは「クモ」だ。
「クソっ、帰り際に魔物かよ」
「やっちゃおう」
「二人とも、気を抜くなよ。こいつは……っ!」
——速い⁈
これまで、何種類かの魔物を見てきた。
だけど、こんなに素早い奴は見たことがなかった。目で追うのが精いっぱいだ。
「なんだ⁈」
「ユウ!」
「無事か?」
「うん、大丈夫!」
いきなり糸を出したと思うと、それを固めて飛ばしてきた。
遠距離攻撃をしてくる魔物は滅多にいないと聞いていた手前、かなり驚いた。
——それにしてもこいつは……。
「こ、こいつっ!」
「手も足も出せない……。」
「みんな、大丈夫か?」
馬車から様子を見ていた祖父が、心配そうに問いかけてきた。
「いや、正直厳しいかも……。」
「そりゃそうさ。なんたってこのクモ型は——」
……まさか。
「——接触危惧種だからな。」
……やはりそうか。だからこの山には霊園があるのに常駐の騎士が一人もいないんだ。
コイツが出るから……!
「くっ!」
「アイシャ!」
「何とか……大丈夫……!」
その表情は、あまり大丈夫そうには見えなかった。
相手の攻撃が速く、防御が遅れて腕を痛めているかもしれない。
「ユウ、アイシャ。」
「なに?」
「おじいさんと三人でストロングホールドに帰れ。」
「え⁈」
「そんな!ブルーダーさんを置いて行けっての?」
「出来ないよ、そんなこと!」
「いいから早く行け!このままじゃ全員殺される!」
「でも……!」
「早くしろ!」
「ユウ、アイシャちゃん!ここは引き返して助けを呼ぼう!」
「くっ……!急ごう、アイシャ!今の俺たちじゃあの魔物には勝てっこないよ!」
「だからってブルーダーさんを……!」
「心配するな、アイシャ!俺は大丈夫だ。俺はお前たちの師範だぞ?」
「そうだけど……。」
数秒うつむいたアイシャ。
やがて再び顔を上げていった。
「絶対、帰ってきてよね?まだ教わってないことがたくさんあるんだから」
「ああ。任せろ!」
そのセリフを聞き、アイシャと共に馬車に乗り込んだ。
ブルーダーさんは安心したような顔をしている。
「じいちゃん!大急ぎでストロングホールドに!」
「ああ!」
馬車が走り出した。
来た時よりも早い周期で揺れる。
窓から様子を眺める。
希望のある出発とは裏腹に、見えてきた光景はしかし、絶望そのものだった。
「——二人とも。見ない方がいい……」
馭者の祖父は既に見ていたようだ。
——見ない方がいいと言われても
——時はすでに遅い
「いや……」
「……」
——自分の無力さを恨んだ。
「うそ、だよね……そんな……」
「くそ……」
——また、何もできなかった。
「いやだよ……」
——二度とそうならないように剣を握ったのに。
大粒の涙を流す幼馴染をそっと抱きしめる。
——二度とこんな顔をさせないように剣を握ったのに。
「アイシャ……」
——俺たちはまた、大切な人を失った。
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