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第二章
【十二話】扶翼と反抗。(2)
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二年生の夏。
毎年夏に開催される学年別模擬戦闘大会。
ルールは簡単。あの時の模擬戦とまったく同じ。
ただし、能力の使用は禁止。あくまでも剣術の大会だからね。
いくつかのブロックに分かれて、トーナメント形式で優勝者を決める。
「次、決勝か~。頑張ってね、ノエル!」
「うん。絶対勝ってくるよ。アタシは、こんなところで負けてらんないから」
「ふふっ、いい顔。」
「じゃあ、行ってくるね」
マイに背中を押され、アタシは決勝戦の舞台に出た。
「さあ、対戦者がそろいました!」
拍手、歓声、指笛。色んな音がアタシを出迎えた。
こんなに注目される人間になれたんだ。
「選手を紹介します!昨年度の技能成績学年三位!無尽蔵にも思えるスタミナで相手をじわじわと追い詰める!シン!」
一時静かになっていた音たちが、再び会場を揺さぶる。
「対するは!昨年度の技能成績はなんと一位!スピード、パワー、スタミナ、動体視力。それら全てが高水準!見た目に反して優等生!ノエル!」
また会場が騒がしくなる。さっきまでの声に加えて「フゥ~」なんて声も聞こえる。
それが静まると、司会者がまじめなトーンになった。
「それでは、そろそろ決勝戦を始めたいと思います。」
会場は静寂につつまれる。
「これより模擬戦、シン対ノエルを開始します。」
兜を着けて、剣を構える。
「第一試合、始め!」
二年生の全試合が終わった。
アタシはどこを歩いても優勝者として祝いの言葉を浴びせられた。
「やば、ノエル有名人だね」
「なんか恥ずかしいなぁ……」
「堂々としなって。」
毎日のように歩いていた中庭への道。こんなにも華やかなのは初めて。
ふと先の方を見ると、男の人が一人立っていた。同学年で、決勝戦の相手だったシンくんだった。
「ノエルさん、おめでとう」
「ありがとう、シンくん」
「すごかったね。完敗だよ。まさかストレート負けするなんて思わなかったよ」
「えっへん!私の親友ノエルの力、恐れ入ったか」
「ちょっと、マイ」
「ああ、恐れ入ったよ。きっとすさまじい努力をしたんだろうね」
「まあ、それなりに」
アイシャ先輩に大敗したアタシは考えた。どうしてあんなにも圧倒されてしまうのか。
答えはすぐに出た。
アタシが剣を習い、先生と呼んで手本にしていたのは、騎士でも何でもない人。
そんなんじゃ先輩には手も足も出ない。
そう思ったアタシは、ユウ先輩の訓練や模擬戦をひたすら見た。
何度か講義をサボっちゃったけど。自主トレの量も増やした。
そんなことをしてたら、戦闘技能の点はうなぎ登り。失いかけてた自身も取り戻せた。
「また今度、リベンジさせてほしい」
「えっ……うん、待ってるね」
驚いた。
アタシがアイシャ先輩に言えなかった言葉を、こんなに簡単に……。
心の中で感心しながら、マイといつものベンチに向かった。
——第二訓練場。
三年生の準決勝が大盛り上がりって聞いたアタシとマイは、観戦しにここへ。
得点板は……
「ユウ対ケニー。一対一、だって」
思った通り、ユウ先輩はここまで勝ち上がっている。
でもまさか、一本取られてるなんて……。
「第三試合、始め!」
模造剣同士が激しくぶつかり合う。すさまじい音を鳴らす。
そんな光景を見逃さないように目に焼き付ける。
数分間のぶつかり合いの末——
「一本!勝者、ユウ!」
ユウ先輩が決勝に進出した。
「あ~、今年も決勝はユウとアイシャか」
「まあ、そうだろうと思ったよ」
「ケニーの奴もかなり惜しかったけどな」
「ああ。まさか一本取るとはな」
……なんて三年生の声が聞こえてくる。
「すごいね、ユウ先輩」
「うん。さすが、アタシの想い人ね」
「あんた、そっち方面は一切恥ずかしがらなくなったね」
……確かに。
三十分後。ついに三年生の決勝が始まった。
「紹介します!昨年度の技能成績一位!魔特班候補生、アイシャ!」
会場の盛り上がりは、二年生決勝の比じゃなかった。
でもアタシはそれどころじゃない。
驚愕の事実を今ここで知らされちゃったから……。
「えっ? アイシャ先輩が一位? ユウ先輩じゃないの?」
あの日からずっと勘違いしてた。とてつもなく強いアイシャ先輩。
でも、ユウ先輩はもっと強い。そう思ってた。
「対するは!技能成績二位!同じく魔特班候補生、ユウ!」
頭が真っ白になった。
「ノエル、大丈夫?」
口をパクパクさせるアタシに、マイが心配そうに声をかけてくれる。
「う、うん。大丈夫。ありがとね」
「……始まるよ」
「だね」
会場が静まり、司会者が合図をする。
「これより模擬戦、アイシャ対ユウを開始します。」
——緊張が走る。
「第一試合、始め!」
合図から一秒も経たないうちに、模造剣がぶつかり合う。
「頑張って、ユウ先輩。」
アタシの応援とは裏腹に、ユウ先輩が押されていく。
そして——
「一本!」
アイシャ先輩の得点が、ゼロから一に変わる。
アイシャ先輩への歓声が上がる——。
その後の第二試合はユウ先輩の一本。
けど、第三試合でアイシャ先輩が一本とって、三年生の優勝はアイシャ先輩になった。
意外な事実を知って驚いたアタシだけど、一つ、希望を持っていた。
「いや~、凄かったね、先輩たち」
「ねえ、マイ」
「ん?」
あの日から、アタシは成長できたのかな?なんて疑問は、確信に変わっていた。
アタシは間違いなく成長してた。
だって——
「見えたよ。目で追えた」
「……?」
「アイシャ先輩の動き、見えたよ」
「え、マジ?」
何も見えずに敗北したアタシは、努力の末、先輩の動きを見ることが出来るようになった。
ユウ先輩の訓練を見学してたのは、大正解だったかもしれない。
あの時の覚悟が、またアタシの中で燃え始めた。
どうしても我慢できなくて、行動に出た。
「マイ」
「どしたの?」
「先輩たちの所に行こう」
——控室前。出てきたおしどり夫婦に声をかけた。
「優勝おめでとうございます、アイシャ先輩」
「ノエルちゃん……?うん、ありがとう。」
「先輩」
「うん?」
「もう一度——」
アイシャ先輩は笑顔。
「もう一度、アタシと勝負してください!」
アタシの覚悟を見てもらうために!
決勝が終わり、静かになった訓練場。そこに、騎士校生が四人立っている。
「待ってたよ、ノエルちゃん」
先輩の意外な言葉に、耳を疑った。
「えっ……? アタシを、ですか?」
「うん。前回の勝負の前、ノエルちゃんの目には、確かに覚悟があったから。」
「先輩……」
「だから、一回負けたくらいじゃへこたれないだろうなって。」
去り際に言われた「これでいいの?」という言葉を思い出した。
「先輩。アタシ、必死に努力したんです。先輩に追い付くために。」
「うん」
「アタシの成長、見てください!」
アタシと先輩は、防具を付けて剣を構えた。マイが審判をやってくれることに。
「模擬戦、アイシャ先輩対ノエル。第一試合、始め!」
前は既に一本取られてた。でも今は違う。見える。先輩がどう攻めてくるのか!
「っ!」
すさまじいスピードの突き攻撃。
左に回避し、勢い余る先輩の背後へ。
——もらいましたよ‼
「……い、一本!アイシャ先輩!」
先輩は、勢いそのまま体を回転させて、アタシの右わき腹を捉えていた。
「第二試合」
でも、今ので分かった。今の試合も。ユウ先輩との決勝戦も。きっと、前の模擬戦でも。
アイシャ先輩は初手、左右に振りながら低姿勢で短期決着を狙ってくる。
「始め!」
——やっぱり、来た!
さっきと同じ突き。アタシも同じように左に回避して背後に回る。
——今!
あえて同じ行動で先輩を誘った。
また同じように、勢いそのまま回転するんでしょ⁈
そう分かっていたアタシは、アイシャ先輩と同じ方向に走り——
——上なら!
振り返るアイシャ先輩の上を跳んで通り、回転して着地しながら攻撃に転じる。
「しまっ——」
カンッ
鎧に模造剣が当たる音。
「一本……一本!ノエル!」
「取っ……た……?」
「ノエル!ノエルの一本だよ!」
「アタシの……?」
「そうよ!」
アタシの模造剣は、アイシャ先輩の肩に背後からあたっていた。
「おお、マジか」
「一本……取られた」
「油断してた?」
「……ううん。結構本気だったよ」
「……じゃ、ノエルちゃんの力だな」
悔しそうな先輩をよそに、アタシとマイは両手を繋いで飛び跳ねた。
「やった!アタシやったよ、マイ!」
「うん!すごいよ、ノエル!」
今の一本は、偶然かもしれない。それでも嬉しかった。
目視することすらできなかった先輩の動きを見て作戦を立てて、実行に移して一本取った。
その成長が。そして何より、パパやママから言われるがままだったアタシが、自分で決めた事の達成に一歩近づけたことが。
第三試合は、アタシが一本取られて負け。二対一でアタシの敗北。
結局、ユウ先輩の彼女になることは出来なかった。
「あ~あ、結局先輩には勝てませんでした」
「でもほら、アイシャから一本取ったろ?すげえ悔しがって——いでででででっ!」
……アイシャ先輩がユウ先輩の耳を引っ張る。
「でもまあ、実力で一本取られたのは事実だし……。」
アイシャ先輩は数秒考えこんで言った。
「じゃあ、もしノエルちゃんが騎士校から直に魔特班に行けたら、二人で散歩くらいならしてもいいよ」
「い、いいんですか⁈」
「あの、俺の意志は?」
「……断る気?」
「いや、そう言う訳じゃないけど……」
「よかったね、ノエル」
「うん!」
「直接配属になったら、だよ?」
「はい!アタシ、頑張ります!せめて先輩の左に居られるように!」
「……残念。ユウの両腕はもう埋まってるの。」
神妙な面持ちのアイシャ先輩。
「後ろならいいよ」
「後ろとかあるんですか……?」
ま、いっか。先輩に勝つことは出来なかったけど、
こうしてまた一つ、アタシ自身の意志でやりたいことができた。
今日から夏休み。寮から数日間、実家に帰る。
多くの生徒にとっては楽しいイベントだろうけど、アタシにとっては違う。
緊張するなぁ……。
なぜなら今年の夏、初めてパパとママに反抗するから——。
「ところでノエル」
三人で懐かしい貧相な食卓を囲みながら話をする。
「なぁに?」
「もう二年生の夏休みだろう?公務の勉強は進んでるか?」
「そうよ、そろそろ本腰入れないと」
「あのね、パパ、ママ。」
「「?」」
今しかない。言い出せなくて困ってた。
これを逃したらもうチャンスは無い。
「あのね、アタシ……魔特班に入って戦いたい」
二人は驚いた表情で顔を見合わせている。
「ノエル、何を言っているの!」
「そうだぞ。公務をして、たくさんお金を貰うんだろ?」
「……嫌だ」
「ノエル!」
「嫌だ!アタシは、パパとママの人形じゃない!」
「いったいどうしたんだい、ノエル⁈」
「悪い友達にでも——」
「初めてっ!……初めてアタシが、自分でやりたいことを見つけたのっ!」
——先輩の傍にいたい!
「だから、邪魔をしないで!」
「いい加減にしろ!魔特班だって?無理に決まっているだろ!」
「無理なんかじゃない!決めつけないでよ!アタシはやる!やるったらやるの!」
パパは怒ってるし、ママは気の抜けた顔をしてる。
その雰囲気に耐えられなくて、アタシは自分の部屋に逃げ込んだ。
「こら、ノエル!待ちなさい!」
「あなた!」
「なんだ、お前まで⁉」
「もう、いいのよ」
「何を言って——」
「あなたも見たでしょう?ノエルの目。」
「目?」
「ええ。今まで一度も見せたことない、本気の目。」
「……」
「私たち、間違っていたのかもしれないわ。あの子の言う通り、ノエルは私たちのお人形さんじゃあないのよ。魔特班に行きたいというなら、あの子がやりたいなら、私はそれを応援したい。」
「お前……」
「あの子いい子だから。言われたことに、文句ひとつ言わずにはいはいと従って。」
「……」
「私も、あなたも。そんなノエルに甘えていたんじゃないかしら。……なんて、さっきのあの子を見て気付いたのよ。今更遅いかもしれないけれど……。」
「そうか……そうかも、しれないな……」
結局、険悪なままアタシは寮に戻った。
いい気分じゃないけど、後悔はしてない。言いたいことは言えたし。
それから、アタシはさらに努力を重ねた。
先輩たちに稽古をつけてもらうこともあった。
もちろん、普通に遊んでもらったりもね。
おかげで力もついたし、二人との交友も深まった。
秋ごろになると「ノエル」って呼んでもらえるようになった。
アタシが三年生になると、当然先輩たちは卒業。
魔特班で騎士として戦い始める。
応援してたけど、やっぱり寂しかった。
そんなアタシを支えてくれたのは、親友のマイ。
上級試験も、魔特班試験も、簡単じゃない。
それでもアタシが無事に合格できたのはマイのおかげだと思う。
……なんて、過去を思い出しながら馬車に揺られて数時間。
外は真っ暗だけど、たぶんもう王都に入ったんじゃないかな?
「もうすぐかな……」
アタシ一人を乗せるために用意されたとは思えない豪華な座席車。
けど、いくら豪華って言ったって、こう何時間も座ってるのはさすがにキツイよ。
「到着で~す」
「はーい」
馭者さんに言われて外へ。これまた綺麗なホテルがある。
「お部屋は予約してあります。お荷物は先に届いてると思うんで、今日はゆっくりお休みください。」
「はい」
「それと、こちらを」
一枚の紙を手渡された。
「明日以降のスケジュールです。王城で配属式みたいですね。僕からは以上です。」
「今日はありがとうございました。」
「いえ、それでは。」
馭者さんを見送って、アタシは一歩踏み出した。
「アタシ、成し遂げたんだ……。」
配属式と言う言葉を聞いて、今更実感がわいてきた。
アタシも魔特班の仲間入り。
「ふふっ」
——待っててね、ユウ先輩♡
毎年夏に開催される学年別模擬戦闘大会。
ルールは簡単。あの時の模擬戦とまったく同じ。
ただし、能力の使用は禁止。あくまでも剣術の大会だからね。
いくつかのブロックに分かれて、トーナメント形式で優勝者を決める。
「次、決勝か~。頑張ってね、ノエル!」
「うん。絶対勝ってくるよ。アタシは、こんなところで負けてらんないから」
「ふふっ、いい顔。」
「じゃあ、行ってくるね」
マイに背中を押され、アタシは決勝戦の舞台に出た。
「さあ、対戦者がそろいました!」
拍手、歓声、指笛。色んな音がアタシを出迎えた。
こんなに注目される人間になれたんだ。
「選手を紹介します!昨年度の技能成績学年三位!無尽蔵にも思えるスタミナで相手をじわじわと追い詰める!シン!」
一時静かになっていた音たちが、再び会場を揺さぶる。
「対するは!昨年度の技能成績はなんと一位!スピード、パワー、スタミナ、動体視力。それら全てが高水準!見た目に反して優等生!ノエル!」
また会場が騒がしくなる。さっきまでの声に加えて「フゥ~」なんて声も聞こえる。
それが静まると、司会者がまじめなトーンになった。
「それでは、そろそろ決勝戦を始めたいと思います。」
会場は静寂につつまれる。
「これより模擬戦、シン対ノエルを開始します。」
兜を着けて、剣を構える。
「第一試合、始め!」
二年生の全試合が終わった。
アタシはどこを歩いても優勝者として祝いの言葉を浴びせられた。
「やば、ノエル有名人だね」
「なんか恥ずかしいなぁ……」
「堂々としなって。」
毎日のように歩いていた中庭への道。こんなにも華やかなのは初めて。
ふと先の方を見ると、男の人が一人立っていた。同学年で、決勝戦の相手だったシンくんだった。
「ノエルさん、おめでとう」
「ありがとう、シンくん」
「すごかったね。完敗だよ。まさかストレート負けするなんて思わなかったよ」
「えっへん!私の親友ノエルの力、恐れ入ったか」
「ちょっと、マイ」
「ああ、恐れ入ったよ。きっとすさまじい努力をしたんだろうね」
「まあ、それなりに」
アイシャ先輩に大敗したアタシは考えた。どうしてあんなにも圧倒されてしまうのか。
答えはすぐに出た。
アタシが剣を習い、先生と呼んで手本にしていたのは、騎士でも何でもない人。
そんなんじゃ先輩には手も足も出ない。
そう思ったアタシは、ユウ先輩の訓練や模擬戦をひたすら見た。
何度か講義をサボっちゃったけど。自主トレの量も増やした。
そんなことをしてたら、戦闘技能の点はうなぎ登り。失いかけてた自身も取り戻せた。
「また今度、リベンジさせてほしい」
「えっ……うん、待ってるね」
驚いた。
アタシがアイシャ先輩に言えなかった言葉を、こんなに簡単に……。
心の中で感心しながら、マイといつものベンチに向かった。
——第二訓練場。
三年生の準決勝が大盛り上がりって聞いたアタシとマイは、観戦しにここへ。
得点板は……
「ユウ対ケニー。一対一、だって」
思った通り、ユウ先輩はここまで勝ち上がっている。
でもまさか、一本取られてるなんて……。
「第三試合、始め!」
模造剣同士が激しくぶつかり合う。すさまじい音を鳴らす。
そんな光景を見逃さないように目に焼き付ける。
数分間のぶつかり合いの末——
「一本!勝者、ユウ!」
ユウ先輩が決勝に進出した。
「あ~、今年も決勝はユウとアイシャか」
「まあ、そうだろうと思ったよ」
「ケニーの奴もかなり惜しかったけどな」
「ああ。まさか一本取るとはな」
……なんて三年生の声が聞こえてくる。
「すごいね、ユウ先輩」
「うん。さすが、アタシの想い人ね」
「あんた、そっち方面は一切恥ずかしがらなくなったね」
……確かに。
三十分後。ついに三年生の決勝が始まった。
「紹介します!昨年度の技能成績一位!魔特班候補生、アイシャ!」
会場の盛り上がりは、二年生決勝の比じゃなかった。
でもアタシはそれどころじゃない。
驚愕の事実を今ここで知らされちゃったから……。
「えっ? アイシャ先輩が一位? ユウ先輩じゃないの?」
あの日からずっと勘違いしてた。とてつもなく強いアイシャ先輩。
でも、ユウ先輩はもっと強い。そう思ってた。
「対するは!技能成績二位!同じく魔特班候補生、ユウ!」
頭が真っ白になった。
「ノエル、大丈夫?」
口をパクパクさせるアタシに、マイが心配そうに声をかけてくれる。
「う、うん。大丈夫。ありがとね」
「……始まるよ」
「だね」
会場が静まり、司会者が合図をする。
「これより模擬戦、アイシャ対ユウを開始します。」
——緊張が走る。
「第一試合、始め!」
合図から一秒も経たないうちに、模造剣がぶつかり合う。
「頑張って、ユウ先輩。」
アタシの応援とは裏腹に、ユウ先輩が押されていく。
そして——
「一本!」
アイシャ先輩の得点が、ゼロから一に変わる。
アイシャ先輩への歓声が上がる——。
その後の第二試合はユウ先輩の一本。
けど、第三試合でアイシャ先輩が一本とって、三年生の優勝はアイシャ先輩になった。
意外な事実を知って驚いたアタシだけど、一つ、希望を持っていた。
「いや~、凄かったね、先輩たち」
「ねえ、マイ」
「ん?」
あの日から、アタシは成長できたのかな?なんて疑問は、確信に変わっていた。
アタシは間違いなく成長してた。
だって——
「見えたよ。目で追えた」
「……?」
「アイシャ先輩の動き、見えたよ」
「え、マジ?」
何も見えずに敗北したアタシは、努力の末、先輩の動きを見ることが出来るようになった。
ユウ先輩の訓練を見学してたのは、大正解だったかもしれない。
あの時の覚悟が、またアタシの中で燃え始めた。
どうしても我慢できなくて、行動に出た。
「マイ」
「どしたの?」
「先輩たちの所に行こう」
——控室前。出てきたおしどり夫婦に声をかけた。
「優勝おめでとうございます、アイシャ先輩」
「ノエルちゃん……?うん、ありがとう。」
「先輩」
「うん?」
「もう一度——」
アイシャ先輩は笑顔。
「もう一度、アタシと勝負してください!」
アタシの覚悟を見てもらうために!
決勝が終わり、静かになった訓練場。そこに、騎士校生が四人立っている。
「待ってたよ、ノエルちゃん」
先輩の意外な言葉に、耳を疑った。
「えっ……? アタシを、ですか?」
「うん。前回の勝負の前、ノエルちゃんの目には、確かに覚悟があったから。」
「先輩……」
「だから、一回負けたくらいじゃへこたれないだろうなって。」
去り際に言われた「これでいいの?」という言葉を思い出した。
「先輩。アタシ、必死に努力したんです。先輩に追い付くために。」
「うん」
「アタシの成長、見てください!」
アタシと先輩は、防具を付けて剣を構えた。マイが審判をやってくれることに。
「模擬戦、アイシャ先輩対ノエル。第一試合、始め!」
前は既に一本取られてた。でも今は違う。見える。先輩がどう攻めてくるのか!
「っ!」
すさまじいスピードの突き攻撃。
左に回避し、勢い余る先輩の背後へ。
——もらいましたよ‼
「……い、一本!アイシャ先輩!」
先輩は、勢いそのまま体を回転させて、アタシの右わき腹を捉えていた。
「第二試合」
でも、今ので分かった。今の試合も。ユウ先輩との決勝戦も。きっと、前の模擬戦でも。
アイシャ先輩は初手、左右に振りながら低姿勢で短期決着を狙ってくる。
「始め!」
——やっぱり、来た!
さっきと同じ突き。アタシも同じように左に回避して背後に回る。
——今!
あえて同じ行動で先輩を誘った。
また同じように、勢いそのまま回転するんでしょ⁈
そう分かっていたアタシは、アイシャ先輩と同じ方向に走り——
——上なら!
振り返るアイシャ先輩の上を跳んで通り、回転して着地しながら攻撃に転じる。
「しまっ——」
カンッ
鎧に模造剣が当たる音。
「一本……一本!ノエル!」
「取っ……た……?」
「ノエル!ノエルの一本だよ!」
「アタシの……?」
「そうよ!」
アタシの模造剣は、アイシャ先輩の肩に背後からあたっていた。
「おお、マジか」
「一本……取られた」
「油断してた?」
「……ううん。結構本気だったよ」
「……じゃ、ノエルちゃんの力だな」
悔しそうな先輩をよそに、アタシとマイは両手を繋いで飛び跳ねた。
「やった!アタシやったよ、マイ!」
「うん!すごいよ、ノエル!」
今の一本は、偶然かもしれない。それでも嬉しかった。
目視することすらできなかった先輩の動きを見て作戦を立てて、実行に移して一本取った。
その成長が。そして何より、パパやママから言われるがままだったアタシが、自分で決めた事の達成に一歩近づけたことが。
第三試合は、アタシが一本取られて負け。二対一でアタシの敗北。
結局、ユウ先輩の彼女になることは出来なかった。
「あ~あ、結局先輩には勝てませんでした」
「でもほら、アイシャから一本取ったろ?すげえ悔しがって——いでででででっ!」
……アイシャ先輩がユウ先輩の耳を引っ張る。
「でもまあ、実力で一本取られたのは事実だし……。」
アイシャ先輩は数秒考えこんで言った。
「じゃあ、もしノエルちゃんが騎士校から直に魔特班に行けたら、二人で散歩くらいならしてもいいよ」
「い、いいんですか⁈」
「あの、俺の意志は?」
「……断る気?」
「いや、そう言う訳じゃないけど……」
「よかったね、ノエル」
「うん!」
「直接配属になったら、だよ?」
「はい!アタシ、頑張ります!せめて先輩の左に居られるように!」
「……残念。ユウの両腕はもう埋まってるの。」
神妙な面持ちのアイシャ先輩。
「後ろならいいよ」
「後ろとかあるんですか……?」
ま、いっか。先輩に勝つことは出来なかったけど、
こうしてまた一つ、アタシ自身の意志でやりたいことができた。
今日から夏休み。寮から数日間、実家に帰る。
多くの生徒にとっては楽しいイベントだろうけど、アタシにとっては違う。
緊張するなぁ……。
なぜなら今年の夏、初めてパパとママに反抗するから——。
「ところでノエル」
三人で懐かしい貧相な食卓を囲みながら話をする。
「なぁに?」
「もう二年生の夏休みだろう?公務の勉強は進んでるか?」
「そうよ、そろそろ本腰入れないと」
「あのね、パパ、ママ。」
「「?」」
今しかない。言い出せなくて困ってた。
これを逃したらもうチャンスは無い。
「あのね、アタシ……魔特班に入って戦いたい」
二人は驚いた表情で顔を見合わせている。
「ノエル、何を言っているの!」
「そうだぞ。公務をして、たくさんお金を貰うんだろ?」
「……嫌だ」
「ノエル!」
「嫌だ!アタシは、パパとママの人形じゃない!」
「いったいどうしたんだい、ノエル⁈」
「悪い友達にでも——」
「初めてっ!……初めてアタシが、自分でやりたいことを見つけたのっ!」
——先輩の傍にいたい!
「だから、邪魔をしないで!」
「いい加減にしろ!魔特班だって?無理に決まっているだろ!」
「無理なんかじゃない!決めつけないでよ!アタシはやる!やるったらやるの!」
パパは怒ってるし、ママは気の抜けた顔をしてる。
その雰囲気に耐えられなくて、アタシは自分の部屋に逃げ込んだ。
「こら、ノエル!待ちなさい!」
「あなた!」
「なんだ、お前まで⁉」
「もう、いいのよ」
「何を言って——」
「あなたも見たでしょう?ノエルの目。」
「目?」
「ええ。今まで一度も見せたことない、本気の目。」
「……」
「私たち、間違っていたのかもしれないわ。あの子の言う通り、ノエルは私たちのお人形さんじゃあないのよ。魔特班に行きたいというなら、あの子がやりたいなら、私はそれを応援したい。」
「お前……」
「あの子いい子だから。言われたことに、文句ひとつ言わずにはいはいと従って。」
「……」
「私も、あなたも。そんなノエルに甘えていたんじゃないかしら。……なんて、さっきのあの子を見て気付いたのよ。今更遅いかもしれないけれど……。」
「そうか……そうかも、しれないな……」
結局、険悪なままアタシは寮に戻った。
いい気分じゃないけど、後悔はしてない。言いたいことは言えたし。
それから、アタシはさらに努力を重ねた。
先輩たちに稽古をつけてもらうこともあった。
もちろん、普通に遊んでもらったりもね。
おかげで力もついたし、二人との交友も深まった。
秋ごろになると「ノエル」って呼んでもらえるようになった。
アタシが三年生になると、当然先輩たちは卒業。
魔特班で騎士として戦い始める。
応援してたけど、やっぱり寂しかった。
そんなアタシを支えてくれたのは、親友のマイ。
上級試験も、魔特班試験も、簡単じゃない。
それでもアタシが無事に合格できたのはマイのおかげだと思う。
……なんて、過去を思い出しながら馬車に揺られて数時間。
外は真っ暗だけど、たぶんもう王都に入ったんじゃないかな?
「もうすぐかな……」
アタシ一人を乗せるために用意されたとは思えない豪華な座席車。
けど、いくら豪華って言ったって、こう何時間も座ってるのはさすがにキツイよ。
「到着で~す」
「はーい」
馭者さんに言われて外へ。これまた綺麗なホテルがある。
「お部屋は予約してあります。お荷物は先に届いてると思うんで、今日はゆっくりお休みください。」
「はい」
「それと、こちらを」
一枚の紙を手渡された。
「明日以降のスケジュールです。王城で配属式みたいですね。僕からは以上です。」
「今日はありがとうございました。」
「いえ、それでは。」
馭者さんを見送って、アタシは一歩踏み出した。
「アタシ、成し遂げたんだ……。」
配属式と言う言葉を聞いて、今更実感がわいてきた。
アタシも魔特班の仲間入り。
「ふふっ」
——待っててね、ユウ先輩♡
応援ありがとうございます!
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