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第2章:破壊
四班の観取
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◇◇◇
──怪しい二人を監視せよ。
彼ら、ニューラグーン国騎士団第四班に課せられた任務はそんな内容だった。
班長のブラントを始め、班長代理のケスラー、新人のユリアに至るまで、誰しもが眉間に皺を寄せた。
──なぜ我が四班が、お守りなどしなければなないのだ?
王の命令と言えど、納得できない部分があった。それなら、鎖へ行ってバケモノを殲滅せよなんて命令の方が何倍も良かった。
「しかも、一人はクライヤマの人間だって言うじゃないっすか」
王城作戦室にて愚痴をこぼすケスラー。邪神の統べる地からやって来た子供を、どうして守る必要があるのかと、そう言う疑問からくる文句である。
「そのようだな。だが、我々の目的は監視だ。怪しい行動をすれば、正当な理由をもってクライヤマの刺客を処罰できる。良い機会ではないか」
「まぁ、そりゃそうっすけど……」
「で、でも……子供、なんですよね?」
クライヤマへの疑念を躊躇いもなく撒き散らす班長と班長代理に、ユリアが訊いた。
「子供を処罰するって言うのも、なんか……」
「ユリア、君は優しすぎるよ。いくら子供って言ったって、あの場所から来てるんだよ?」
そう語るは、彼女の二年先輩であるヒルデだ。ユリアが四班に入って間も無く教育係として任命された彼女は、純粋な性格のユリアが騙されてしまうのではないかと心配する事が多かった。
「それに、ゆーほど子供でもないみたいだよ」
「そう、なんですか?」
ケスラーの言葉を聞いたユリアの視線は、班長のブラントへ。
「俺が言ってるのに……」
「ケスラーさんは普段の言動を省みると良いかと」
新人からぞんさいな扱いを受けるケスラーに、付き合いの長い後輩であるアレクが言い放つ。
彼の言葉の通り、ケスラーはよくユリアを食事に誘う。最初は丁寧に断っていたユリアだが、数ヶ月誘われ続けた結果……こうなった。
「ああ、聞いた話では十八歳くらいとの事だ。ケスラーの言った通り、それほど子供と言うわけではないようだぞ」
◇◇◇
──翌日。
伝えられた集合時間の少し前に王国城前へ集合した四班。ブライトヒルの騎士とクライヤマの少年はいったいどんな風貌なのか、特に後者については全く想像がつかなかった。
「あれ、あの二人ですかね?」
人混みをかき分けて真っ直ぐ城へ向かう、二名の騎士。見慣れない鎧に身を包んだその人物らは、女性と少年。話に聞いていた特徴がピタリと当てはまる。
──という事は、後ろの男の子が例のクライヤマの子か?
少年の姿を見たブラントは驚いた。一体どんな人間が来るのかと考えていたが、想像などするまでもなかった。
出身がクライヤマというだけで、それ以外は至って普通の少年であるからだ。
ブライトヒルの鎧を身につけているが、ぎこちない風体を見れば分かる。これまで、戦いの中に身を置いてこなかった存在である。
「……えっと、ユウキです」
少年が名乗った。眼差しにも声にも、悪意など微塵も感じられなかった。
この時点で既に、王の言うような邪神像はブラントの中でひび割れていたのであった。
◇◇◇
──蔓延る疑念は誤りである。
そう確信に変わったのは、鎖の調査に向かって暫くした頃。彼ら四班の防衛により、なんとか鎖へ到達した二人。何かしらの怪しい行動を起こすなら絶好の機会だ。
「ブラントさん、二人、普通に壊そうとしてますよ」
様子を伺っていたケスラー。意外な行動に困惑しながら、班長へ声をかける。
「ああ……そのようだな……」
「やっぱり、悪意なんてないんじゃないですか?」
そこへ、周囲のバケモノを一掃したユリアも合流。
「もう少し様子を見よう」
「お、少年が剣を──」
ユウキが剣を構えた、その数秒後のこと。
「なに、これ……?」
「あ……あったけえ……」
「これは……少年から放たれているようだが」
巫女が遺した日長石は、太陽の恩恵を戦う力としてユウキに与えた。
彼が鎖を破壊する目的で繰り出した「サン・フラメン」は、離れた位置にて見守る四班をも暖めたのであった。
「ブラント班長、なにが起きたんです? 何だか、急に暖かくなりましたけど……?」
異常事態に際し、ヒルデらも集合した。現象は確認したが、原因が何かまでは気付いていない様子である。
「あの少年だ」
「え?」
班長の言葉を少し疑いながら、彼の指さす方向を見る。
ヒルデの視界に入ったのは巨大な鎖と、それをなんとか破壊しようと試みる二人である。
「ふっ」
ブラントは、己の愚かさを鼻で嘲笑した。
──早計だったか
広がったヒビは、遂にブラントの幻想を崩壊させるに至ったのである。
「よく考えたら、変っすよね」
「……確かに。クライヤマについては何も知らないのに、悪者だって決めつけてた」
「お! ユリアちゃんが俺に返事してくれた」
「そういう所ですよ、ケスラーさん」
「とほほ」
ヒルデの真っ当な指摘にヘンテコな反応をした後、彼は続けた。
「俺、あの人らを信じてみますよ」
「……ああ、そうだな」
畏怖が解けた。少年と巫女の意思とが織り成す暖かさによって、少なくとも四班所属騎士の心に変革がもたらされたのだ。
──丁度、その時である。
「ん、何だ、この感覚は?!」
「班長、あれ!」
「……っ?!」
再び鎖の方向を見ると、鎖周辺が歪んで見えた。蜃気楼などでない事は明らかである。
「まずいっすよ、二人が!」
──と、事の重大さに気付いた時にはもう遅い。歪みが解消された頃、そこに二人の姿は無かった。
──怪しい二人を監視せよ。
彼ら、ニューラグーン国騎士団第四班に課せられた任務はそんな内容だった。
班長のブラントを始め、班長代理のケスラー、新人のユリアに至るまで、誰しもが眉間に皺を寄せた。
──なぜ我が四班が、お守りなどしなければなないのだ?
王の命令と言えど、納得できない部分があった。それなら、鎖へ行ってバケモノを殲滅せよなんて命令の方が何倍も良かった。
「しかも、一人はクライヤマの人間だって言うじゃないっすか」
王城作戦室にて愚痴をこぼすケスラー。邪神の統べる地からやって来た子供を、どうして守る必要があるのかと、そう言う疑問からくる文句である。
「そのようだな。だが、我々の目的は監視だ。怪しい行動をすれば、正当な理由をもってクライヤマの刺客を処罰できる。良い機会ではないか」
「まぁ、そりゃそうっすけど……」
「で、でも……子供、なんですよね?」
クライヤマへの疑念を躊躇いもなく撒き散らす班長と班長代理に、ユリアが訊いた。
「子供を処罰するって言うのも、なんか……」
「ユリア、君は優しすぎるよ。いくら子供って言ったって、あの場所から来てるんだよ?」
そう語るは、彼女の二年先輩であるヒルデだ。ユリアが四班に入って間も無く教育係として任命された彼女は、純粋な性格のユリアが騙されてしまうのではないかと心配する事が多かった。
「それに、ゆーほど子供でもないみたいだよ」
「そう、なんですか?」
ケスラーの言葉を聞いたユリアの視線は、班長のブラントへ。
「俺が言ってるのに……」
「ケスラーさんは普段の言動を省みると良いかと」
新人からぞんさいな扱いを受けるケスラーに、付き合いの長い後輩であるアレクが言い放つ。
彼の言葉の通り、ケスラーはよくユリアを食事に誘う。最初は丁寧に断っていたユリアだが、数ヶ月誘われ続けた結果……こうなった。
「ああ、聞いた話では十八歳くらいとの事だ。ケスラーの言った通り、それほど子供と言うわけではないようだぞ」
◇◇◇
──翌日。
伝えられた集合時間の少し前に王国城前へ集合した四班。ブライトヒルの騎士とクライヤマの少年はいったいどんな風貌なのか、特に後者については全く想像がつかなかった。
「あれ、あの二人ですかね?」
人混みをかき分けて真っ直ぐ城へ向かう、二名の騎士。見慣れない鎧に身を包んだその人物らは、女性と少年。話に聞いていた特徴がピタリと当てはまる。
──という事は、後ろの男の子が例のクライヤマの子か?
少年の姿を見たブラントは驚いた。一体どんな人間が来るのかと考えていたが、想像などするまでもなかった。
出身がクライヤマというだけで、それ以外は至って普通の少年であるからだ。
ブライトヒルの鎧を身につけているが、ぎこちない風体を見れば分かる。これまで、戦いの中に身を置いてこなかった存在である。
「……えっと、ユウキです」
少年が名乗った。眼差しにも声にも、悪意など微塵も感じられなかった。
この時点で既に、王の言うような邪神像はブラントの中でひび割れていたのであった。
◇◇◇
──蔓延る疑念は誤りである。
そう確信に変わったのは、鎖の調査に向かって暫くした頃。彼ら四班の防衛により、なんとか鎖へ到達した二人。何かしらの怪しい行動を起こすなら絶好の機会だ。
「ブラントさん、二人、普通に壊そうとしてますよ」
様子を伺っていたケスラー。意外な行動に困惑しながら、班長へ声をかける。
「ああ……そのようだな……」
「やっぱり、悪意なんてないんじゃないですか?」
そこへ、周囲のバケモノを一掃したユリアも合流。
「もう少し様子を見よう」
「お、少年が剣を──」
ユウキが剣を構えた、その数秒後のこと。
「なに、これ……?」
「あ……あったけえ……」
「これは……少年から放たれているようだが」
巫女が遺した日長石は、太陽の恩恵を戦う力としてユウキに与えた。
彼が鎖を破壊する目的で繰り出した「サン・フラメン」は、離れた位置にて見守る四班をも暖めたのであった。
「ブラント班長、なにが起きたんです? 何だか、急に暖かくなりましたけど……?」
異常事態に際し、ヒルデらも集合した。現象は確認したが、原因が何かまでは気付いていない様子である。
「あの少年だ」
「え?」
班長の言葉を少し疑いながら、彼の指さす方向を見る。
ヒルデの視界に入ったのは巨大な鎖と、それをなんとか破壊しようと試みる二人である。
「ふっ」
ブラントは、己の愚かさを鼻で嘲笑した。
──早計だったか
広がったヒビは、遂にブラントの幻想を崩壊させるに至ったのである。
「よく考えたら、変っすよね」
「……確かに。クライヤマについては何も知らないのに、悪者だって決めつけてた」
「お! ユリアちゃんが俺に返事してくれた」
「そういう所ですよ、ケスラーさん」
「とほほ」
ヒルデの真っ当な指摘にヘンテコな反応をした後、彼は続けた。
「俺、あの人らを信じてみますよ」
「……ああ、そうだな」
畏怖が解けた。少年と巫女の意思とが織り成す暖かさによって、少なくとも四班所属騎士の心に変革がもたらされたのだ。
──丁度、その時である。
「ん、何だ、この感覚は?!」
「班長、あれ!」
「……っ?!」
再び鎖の方向を見ると、鎖周辺が歪んで見えた。蜃気楼などでない事は明らかである。
「まずいっすよ、二人が!」
──と、事の重大さに気付いた時にはもう遅い。歪みが解消された頃、そこに二人の姿は無かった。
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