天ノ恋慕(改稿版)

ねこかもめ

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第2章:破壊

鎖の守護者・カマイタチ

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 爪は異様に鋭く、立っているユウキと目線の高さが揃う。身体は全体的に黒く、部分的に赤い斑点が見られる。

 特異なバケモノを観察していた、その時。

《キィィィィィィィィィィィィィッ!》

 先ほどまでの知性が消え去ったかのような爆音でもって空間を震わせる。

「うわっ⁈」

「う、うるさいわね、いきなり!」

 不協和音とは異なり、今度の咆哮は明らかに獣の喉から鳴っていた。精神的にでは無く、物理的に耳を劈く高音だ。

「悪いけど、鎖の守護者だって言うなら容赦しないわよ。ブリッツ・ピアス!」

 獣の顔面に目掛けて突きを繰り出す。しかし彼女の攻撃は空を突いた。

「速い? どこに──」

「アインズさん! すぐ左に!」

「え……?」

 ユウキの言葉に従って目線を左へ向けると──

《シャァァァァァァッ!》

 威嚇をしながら爪を振り上げるカマイタチの姿が見えた。

「ブリッツ──い、居ない⁈」

「右です!」

──おかしい

 カマイタチとアインズの攻防を観ていたユウキは、大きな違和感を覚えていた。

──僕でも追えるような敵を、アインズさんが見失うはずない

 力を覚醒させ装備を身につけているとは言え、ユウキはただの少年だ。

 そんな彼が捉えられる動きを、ブライトヒル王国騎士団第一部隊長アインズが捉えられないなどと言う現象は、普通に考えたら起こりえない。

「これは厄介ね……っ!」

 自分の攻撃が当たらない事を理解し、次は左に来ると勘を頼りに剣を振るう。無論、再び空を斬る。

「──そこ!」

 敵はアインズの背後に。爪を振り上げ牙をむき、彼女への攻撃に神経を向けている。ならば、と。少年から攻撃を仕掛けた。

《ギググッ!》

──かすった!

 首元を狙った縦切りが、ほんの少し皮膚を掠めた。しかし追撃は叶わず、カマイタチは一歩退く。

「大丈夫ですか、アインズさん」

「ええ……ユウキくん? どこに居るの?」

「え……? アインズさんのすぐ右に居ますよ」

「……? あら、本当だわ……」

 完全にユウキと向き合って始めて存在に気付いた様子のアインズ。彼はその様子にも違和感を覚えた。

「……」

 不意に、ワンステップ踏んでアインズの横に動いた。

「ユウキくん……?」

──やっぱり、見失ってる

「もしかして、視野が狭く?」

「視野……? あれ、確かに言われてみれば──」

《グギャァァァ!》

「くそ、サン・フラメン!」

 アインズを襲った状態異常について話す暇もなく、カマイタチが攻撃を仕掛ける。

 五本の長い爪を用いて、槍のように突き刺してくる。アインズから見て左側へ来た攻撃だが、やはり彼女には見えていない。

「うおおおおお!」

《ググ!》

 その攻撃に合わせてサン・フラメンを発動し、爪を薙ぎ払う。焔を纏った剣は簡単に爪を破壊した。

「そっちね! ブリッツ・ピアス!」

 視野狭窄という状態異常を受けた彼女だが、敵が正面に居ればなんら問題なくブリッツ・ピアスを使える。

 今回は、ユウキの攻撃によって怯んでいる。これならば──

「なっ⁈」

「風⁈」

──それでも突きは当たらず、カマイタチは風となって実体を消した。やがて敵は暴風となり、ユウキに襲いかかる。

「ううっ⁈」

「ユ、ユウキくん!」

 つむじ風の如く渦を巻き、それが少年を包む。

《グギャギャギャギャ!》

 笑い声ともとれる奇声を上げる。つむじ風が複数個に分身し、それぞれが小型のカマイタチとなり、回転刃のようにアインズへ襲いかかる。

「くっ、近付けない……!」

「ぐわぁ⁈」

 ユウキを包んでいたつむじ風は突如として解散。その際に弾けるように散ったため、彼はあらゆる方向へ張力を受けた。

 風は流れ、小さなカマイタチが集まって再び実体化。獣が姿を現した。

「無事?」

「はい、なんとか……」

──ひょっとして、マズいかも?

 今の一撃で致命傷になる大ダメージを負った訳ではない。しかし、対峙するは普通のバケモノとは一線を画する存在。

 ブライトヒルに出た氷纏いのバケモノにユウキが勝てたのは、覚醒した太陽の力と偶然相性が良かったからに過ぎない。

──くそ、どうすれば……

 勝ち筋が見えないことほど、絶望的なことは無い。相手は風に姿を変えて一方的に攻撃できる。

 実体が消える以上、ユウキらにカマイタチを攻撃する手段は無い。

《グギャギャギャア!》

「うっ!」

 爪による急襲。とっさに回避行動をとることはかなわず、剣を横にして頭上からの攻撃を受けとめた。

 しかし、巨体から受ける振り下ろし力は大きく、ユウキはあっという間に押し込まれていく。

「隙あり!」

 このピンチをチャンスと捉え、アインズがカマイタチの脇腹を狙う。その足で確実に走り込み、斬り上げ攻撃を見舞う。

 視野を絞られている以上、自身の得意技である亜光速の突きは盲点を増やすため逆効果。速度が得られずとも、確実に相手を捉え、動き方を伺える方法を選んだのだ。

《ギャググギガ!》

 作戦は巧いこと機能し、カマイタチは大きく怯む。しかしやはり、致命傷を与えるには至っていない。

「結構硬い皮膚をしてるのね」

「そうなんですよね……」

 アインズの斬った部分には、細かい切り傷が付いているのみであった。

「あれ……?」

 何か攻撃手段はないか。そう探っていた彼女は、ふとカマイタチの手を見る。右手には鋭い爪が指の数だけ備わっているが、左手は違った。

 先ほどユウキが行った爪攻撃の迎撃——サン・フラメンによって、そちらの爪が大きく欠損していたのだ。

——なるほどね

「ユウキくん。どうやら、斬撃は君の仕事みたいよ」

 彼の熱を伴う攻撃であれば、硬い皮膚でも突破できるであろう。現に、皮膚よりも硬い爪を破壊している。

「その太陽の力なら、きっと斬れるはずよ」

「わかりました、やってみます」

  対して、アインズの斬撃ではかすり傷程度にしかならない。ならば、切先にすべての力が集約する突き攻撃の方が、彼女に適していると言える。

「チャンスが出来たら、私が一気に貫くからね」

「了解っ!」
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