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第3章 : 乖離
蛇は助ける側に
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◇◇◇
──ウルスリーヴル国城、指導者の間
戦いの成果報告をしに、三人は再び天舞音の前へ。
「……という訳で、ユウキ殿、アインズ殿のご協力により鎖の破壊に成功致しました」
「そうか、そうか。本当にご苦労じゃったな。これでバケモノ問題も少しは落ち着き、防人も休むことが出来よう。お二人にも感謝申し上げます」
「いえ。私共も防人の皆様へは頭が上がりません」
「ありがとうこざいます。本当に助かりました」
「なんの。では、こんなところかのう? 皆、ゆっくり休むと良い」
報告会は終った。しかし、別れの挨拶が口にされることは無く、桜華が話題をもう一つ提供する。
「あの、ユウキ殿」
「はい?」
「ユウキ殿の旅の目的……私にしてくれたあの話を、天舞音様にも話して貰うことは出来る?」
「え? はい、構いませんが……」
「ありがとう。じゃあ、お願いします」
──クライヤマ。日の巫女。自分。そして、何が起きて今に至り、巫女がどう認識されているのか。それらを全て、天舞音に話した。
「なるほどのう……」
思ったよりも悲惨な事実を明かされ、彼女はどう反応すべきかを探していた。そこへ、桜華が言葉を繋げる。
「ユウキ殿もアインズ殿も聞いてね。私はユウキ殿からこの話を聞いて、最初は『まずい』と思ったんです。彼は復讐を目的としてるんじゃないかって」
「……ほう」
「このままじゃ、蛇が生まれてしまう。ご覧の通り、ユウキ殿は他人に優しい性格をしています。そんな彼が、誰かさんのように復讐の為に生きる蛇になってしまうんじゃないかって」
「それで」
「でも、違いました。彼は巫女の仇討ちなんて考えてないんです。亡くなった巫女が悪く言われない様にと、もっと……純粋な心持ちなんです」
天舞音は相槌を打つだけで何も言わず、桜華の言葉に耳を傾けた。話す彼女自身の脳裏は半分はユウキ、もう半分は過去の己の事で一杯になっていた。
盗賊に家族を殺され、その仇討ちだけのために生きた己との対比をしていたのである。
「だから私は……」
「桜華さん……」
「……助ける側になりたい」
いつの間にやら敬語が消失していたが天舞音は何も咎める事はせず、また桜華の言葉を待つ。
「ユウキ殿の旅を、手伝いたい!」
主人に対して願望を顕にした桜華は視線を落とした。
「桜華や、こちらを見よ」
「……?」
「……ふふっ、ふはははは」
桜華の目を見て数秒後、天舞音は嬉しそうに笑い始めた。
「天舞音様……?」
「いやぁ、すまぬ。そんなに真っ直ぐなお主の目を見たのは久し振りじゃったからな。そうか、やりたい事を見つけたか。妾もようやく一安心じゃ」
「じゃあ──」
「ああ。桜華が行きたいと言うなら、妾は構わぬぞ。あとは、お二人に聞いてみるんじゃな」
天舞音の目線は桜華からユウキへ。それを察知し、彼は桜華に言った。
「はい。これからよろしくお願いします、桜華さん」
「うん、ありがとうユウキ殿」
「私も良いと思うわ。これから先、きっとバケモノとの戦いは厳しくなるだろうから。よろしくね」
「よろしく、アインズ殿!」
ポリアに続いて二人目の参加が決まった。桜華ほどの剣士であれば、彼らの戦力はかなり上昇する。
残りの鎖や、最後に待ち受けるであろうクライヤマでの戦いを考えれば、非常に強力な助っ人である。
「不束な部下ではございますが、どうぞよろしくお願い申し上げます」
「え、私、不束じゃないですよ」
「客と罪人を間違えるのは不束でしょ」
「うわ、しつこ! あんたホントしつこ!」
──あはは……
──大丈夫かこれ?
◇◇◇
──出発日。ポリアの観光と桜華の準備の為に一日置いた。再び指導者の間に集まり、幾つか話を受けた。
「……よし、話は以上じゃ」
「それでは……行って参ります!」
挨拶などを済ませ、立ち上がって部屋を後にする。アインズ、ポリア、ユウキに続いて桜華も──
「ああ、桜華や」
「はい?」
「すまぬ、一つ忘れておった。港へ行く前に寄ってもらいたい所があってな。頼まれてくれるか?」
「はい。何処ですか?」
「南側の河川敷は分かるな?」
場所を聞いた彼女は、一瞬顔をしかめる。
「……え?」
「そこで怪しげな集会が開かれていると報告が上がっていてな。特に害があるわけではないのじゃが、一応、見るだけ見てくれ」
「えっと……どうして私に?」
「なに、ついでじゃ」
──なんだろう。ついでにしては遠いなって、僕でも分かるくらいだけど……
天舞音の言葉に違和感があったのは、ユウキもアインズも同様だ。
それもそのはず、ここウルスリーヴル城から港へ行くのに、南側は通らない。ついでと言うには余りにも余計な寄り道である。
「城門にもう一人待たせてある。その者と共に行っておくれ。頼んだぞ」
「……分かりました」
◇◇◇
部屋を出て廊下を進み、城門へ。
──あの人かな?
防人の女性が一人、門の横に寄りかかっている。天舞音の言っていた『もう一人』だろうと、その人物の元へ向かう。
「あれ、小町? 何してんの?」
桜華のかつての盟友、小町であった。共に防人となった二人だが、仕事の都合上、以前ほどの頻度では会えていない。
「ん? 桜華じゃん。なんか天舞音様にここで待ってろって言われたんだよね。……誰かと一緒に河川敷を見に行けってさ」
「じゃあ、もう一人って小町のこと? 同じこと言われてるから、それ私だよ」
「……私らにあそこを見に行けって? なんのつもりなんだろう」
ふとユウキらに目がいった。
「あ、その人達が旅の相方?」
「旅のこと聞いてたんだ。そう、ユウキ殿にアインズ殿、ポリア殿だよ」
「こんにちは」
ポリアに続き、ユウキとアインズも軽く挨拶をする。
「この子は私の部下、小町だよ」
「おい」
「わわっ! 嘘嘘! 刀抜かないで!」
──ウルスリーヴル国城、指導者の間
戦いの成果報告をしに、三人は再び天舞音の前へ。
「……という訳で、ユウキ殿、アインズ殿のご協力により鎖の破壊に成功致しました」
「そうか、そうか。本当にご苦労じゃったな。これでバケモノ問題も少しは落ち着き、防人も休むことが出来よう。お二人にも感謝申し上げます」
「いえ。私共も防人の皆様へは頭が上がりません」
「ありがとうこざいます。本当に助かりました」
「なんの。では、こんなところかのう? 皆、ゆっくり休むと良い」
報告会は終った。しかし、別れの挨拶が口にされることは無く、桜華が話題をもう一つ提供する。
「あの、ユウキ殿」
「はい?」
「ユウキ殿の旅の目的……私にしてくれたあの話を、天舞音様にも話して貰うことは出来る?」
「え? はい、構いませんが……」
「ありがとう。じゃあ、お願いします」
──クライヤマ。日の巫女。自分。そして、何が起きて今に至り、巫女がどう認識されているのか。それらを全て、天舞音に話した。
「なるほどのう……」
思ったよりも悲惨な事実を明かされ、彼女はどう反応すべきかを探していた。そこへ、桜華が言葉を繋げる。
「ユウキ殿もアインズ殿も聞いてね。私はユウキ殿からこの話を聞いて、最初は『まずい』と思ったんです。彼は復讐を目的としてるんじゃないかって」
「……ほう」
「このままじゃ、蛇が生まれてしまう。ご覧の通り、ユウキ殿は他人に優しい性格をしています。そんな彼が、誰かさんのように復讐の為に生きる蛇になってしまうんじゃないかって」
「それで」
「でも、違いました。彼は巫女の仇討ちなんて考えてないんです。亡くなった巫女が悪く言われない様にと、もっと……純粋な心持ちなんです」
天舞音は相槌を打つだけで何も言わず、桜華の言葉に耳を傾けた。話す彼女自身の脳裏は半分はユウキ、もう半分は過去の己の事で一杯になっていた。
盗賊に家族を殺され、その仇討ちだけのために生きた己との対比をしていたのである。
「だから私は……」
「桜華さん……」
「……助ける側になりたい」
いつの間にやら敬語が消失していたが天舞音は何も咎める事はせず、また桜華の言葉を待つ。
「ユウキ殿の旅を、手伝いたい!」
主人に対して願望を顕にした桜華は視線を落とした。
「桜華や、こちらを見よ」
「……?」
「……ふふっ、ふはははは」
桜華の目を見て数秒後、天舞音は嬉しそうに笑い始めた。
「天舞音様……?」
「いやぁ、すまぬ。そんなに真っ直ぐなお主の目を見たのは久し振りじゃったからな。そうか、やりたい事を見つけたか。妾もようやく一安心じゃ」
「じゃあ──」
「ああ。桜華が行きたいと言うなら、妾は構わぬぞ。あとは、お二人に聞いてみるんじゃな」
天舞音の目線は桜華からユウキへ。それを察知し、彼は桜華に言った。
「はい。これからよろしくお願いします、桜華さん」
「うん、ありがとうユウキ殿」
「私も良いと思うわ。これから先、きっとバケモノとの戦いは厳しくなるだろうから。よろしくね」
「よろしく、アインズ殿!」
ポリアに続いて二人目の参加が決まった。桜華ほどの剣士であれば、彼らの戦力はかなり上昇する。
残りの鎖や、最後に待ち受けるであろうクライヤマでの戦いを考えれば、非常に強力な助っ人である。
「不束な部下ではございますが、どうぞよろしくお願い申し上げます」
「え、私、不束じゃないですよ」
「客と罪人を間違えるのは不束でしょ」
「うわ、しつこ! あんたホントしつこ!」
──あはは……
──大丈夫かこれ?
◇◇◇
──出発日。ポリアの観光と桜華の準備の為に一日置いた。再び指導者の間に集まり、幾つか話を受けた。
「……よし、話は以上じゃ」
「それでは……行って参ります!」
挨拶などを済ませ、立ち上がって部屋を後にする。アインズ、ポリア、ユウキに続いて桜華も──
「ああ、桜華や」
「はい?」
「すまぬ、一つ忘れておった。港へ行く前に寄ってもらいたい所があってな。頼まれてくれるか?」
「はい。何処ですか?」
「南側の河川敷は分かるな?」
場所を聞いた彼女は、一瞬顔をしかめる。
「……え?」
「そこで怪しげな集会が開かれていると報告が上がっていてな。特に害があるわけではないのじゃが、一応、見るだけ見てくれ」
「えっと……どうして私に?」
「なに、ついでじゃ」
──なんだろう。ついでにしては遠いなって、僕でも分かるくらいだけど……
天舞音の言葉に違和感があったのは、ユウキもアインズも同様だ。
それもそのはず、ここウルスリーヴル城から港へ行くのに、南側は通らない。ついでと言うには余りにも余計な寄り道である。
「城門にもう一人待たせてある。その者と共に行っておくれ。頼んだぞ」
「……分かりました」
◇◇◇
部屋を出て廊下を進み、城門へ。
──あの人かな?
防人の女性が一人、門の横に寄りかかっている。天舞音の言っていた『もう一人』だろうと、その人物の元へ向かう。
「あれ、小町? 何してんの?」
桜華のかつての盟友、小町であった。共に防人となった二人だが、仕事の都合上、以前ほどの頻度では会えていない。
「ん? 桜華じゃん。なんか天舞音様にここで待ってろって言われたんだよね。……誰かと一緒に河川敷を見に行けってさ」
「じゃあ、もう一人って小町のこと? 同じこと言われてるから、それ私だよ」
「……私らにあそこを見に行けって? なんのつもりなんだろう」
ふとユウキらに目がいった。
「あ、その人達が旅の相方?」
「旅のこと聞いてたんだ。そう、ユウキ殿にアインズ殿、ポリア殿だよ」
「こんにちは」
ポリアに続き、ユウキとアインズも軽く挨拶をする。
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