大君の辺にこそ死なめ大丈夫

志波中佐

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第一話 北川郷の光次

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  中岡家には、頻繁に人が出入りした。

小伝次が一帯にある庄屋の長を務めていたためである。要するに、村長のような役割を果たしていた。

 光次が少し成長すると小伝次は、以前よりもさらに教育熱心、かつ厳しさが加わった。
ここでいう教育は教養の意味も含まれる。

 しかし、母があまり甘やかしすぎないよう接していたお陰か、光次は前とは違う父にも柔軟に対応できた。多少の混乱があったことについて、周りに気付かれなかったようだ。


 「中岡さんとこの息子はいつでも背筋を伸ばし、受け答えもしっかりしちょる」


というのが当時の評判で、これは生涯変わらなかったのだから凄い。



  光次自身、向学心が強く、暇さえあれば家にある書物を読み漁った。読めないところがあるものの、眺めているだけでも楽しかったらしい。

  また気になることがあれば、庄屋の主人たちによく聞いていた。そういうところはまだ幼い。
 そんなある日、一人の主人が、

「これだけ優秀なら、島村さんのとこでも十分やっていけるだろう」


と仲間内に話していた。そこを光次が偶然通りかかった。

 彼は家の書物はほとんど読み終えてしまい、本に変わる新たな師が欲しいと思っていた。

  早速父のもとへ行き、

「島村さんのとこで学んでみたいやき」

と目を輝かせながら頼み込んだ。


 小伝次は一瞬顔をしかめた。それには、

――あそこまで半刻以上かかるが、こいつは行けるだろうか

という一抹の不安があったからである。

 普通なら勉学についていけるだろうか、などと考えるのだが、小伝次は違った。その点については親からみても問題なかった。

 
 むしろ、是非いかせてやりたいし、通わせなければならない年頃であると思っていた。

 小伝次はしばらく悩んだ後、


「何を学びたい」


と、問うた。
すると光次の顔がぱぁと明るくなって、すぐさま


「儒学を詳しく」
――と出来るなら武術

そう付け加えて答えた。

 
 最後の言葉には小伝次も少々驚いた。

 父として勿論、いつか剣術を教えなければならないと思ってはいた。だが、まさか本の虫である息子の口からその言葉がでるとは意外である。

 しかし、島村は漢方医であって武士ではない。

通わせるにせよ、塾とは別に行かせなければならない。

――この子の体力ではまだ無理だ

それに何より若すぎる。

 結局、
「島村塾には通わせるけんど、武術は塾の行き帰りがしんどぉなくなってからにせい。そうしたら考えとく」

とした。

 光次も

――それなら

と納得がいったので、まずは島村塾へ通うことにした。



 実際に行くとなると、彼の想像よりはるかに大変であった。

 北川郷柏木にある中岡家から野友村(隣村)の島村塾まで九十分かかる上に、道無き道を進むのである。

山の中を進み、川を一つ越してやっと辿り着けるのだ。

 当然、毎朝汗だくで塾に着く。べっとり汗で張り付いた着物を身につけて授業を受けた。


 光次の通った道は現在、向学の道と呼ばれ、地元の人々に親しまれている。 
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