大君の辺にこそ死なめ大丈夫

志波中佐

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第三話 眠れる一丁目の龍

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 ――夜が明けたら奉行所へ届け出るか

光次は倒れこんだ男をずるずると引きずって、柱に括り付けていた。猿ぐつわをして、元の作業に戻る。


 先ほど柱に頭をぶつけたせいで光次は頭痛に悩まされていた。


 「だいたい、こいつは何しにうちに来たんじゃ」

盗っ人にしては間抜けであり、かといって村の者が助けを求めに来たというわけでもなさそうだった。
そもそも光次は村の者の顔と名前をすべて覚えている。


 着物を洗い終え、竿につるす。光次はその足で男のもとに向かった。


 ――大柄で年は俺と同じくらい。なまりからして同じ土佐者。
腰に二本差していたから武士に違いないが、身に着けている物からして裕福な生まれ。少なくともやはり盗っ人ではなさそうじゃ。

……夜這い?いや、うちの姉妹の好みじゃあない。旅道具を持っていないから旅人の線もないか?それじゃ、何なんだ……


 「ふむぅ」

光次が頭を抱えていると、男が目を覚ました。

――聞いた方が早いかの

慎重に猿ぐつわを外して、 

「目が覚めて早々悪いが、おまん、なにしにうちに来ゆうが。名前は?どこから来た」

と責め立てた。


 男は一つあくびをうって言った。

「腹がすいた。何か持ってきてくれ。話はそれからぜよ」

「何故おまんのために飯をもってこなきゃいかん」

「……さあ、強いて言うなら口止め料じゃけん」

光次の動きが止まる。光次にとってこれほど衝撃的な言葉は無かったであろう。


 しかし、光次はあくまで平素を装った。

「何のじゃ」

「屍を葬る時は周りを警戒したほうがええ。帰るまでが旅ってな」

にたり、と男は口角を上げて光次を真っ直ぐと見つめている。その瞳の奥からは底知れないものが、光次でなくとも感じ取れた。鳥肌がたったらしい。緊張で先ほどまで感じていなかった冬の寒さが、今では光次の体を貫通している。


 黙って立ち上がった光次はそのまま台所へと向かった。


 台所まで向かうと彼はため息をもらし、壁に寄りかかりながらへたり込んでしまった。

無理もない。

初めて人を殺めたその日に、またもや事件である。


 だが、彼はしばらくしてよろりと立ち上がった。もう一度大きく息を吐いて、頬を両手で挟み込む様にして叩き上げる。


 ――甘えるな。己で決めた道じゃ……責任はとるぜよ


 棚から適当な皿を出して、夕餉で余っていた米とのり、塩を用意する。握り飯を作ってやるつもりではあるものの、あいにく光次には中に具を入れるという技術を持ち合わせていない。


 出来上がったものは到底にぎり飯、つまりには見えないとなっていた。

――どうしたものかな

皿に盛り付けたあとも暫時(土佐弁の方ではなく現在の標準語の方の意味)悩んでから、

――考えても仕方がないかぁ

と立ち直る。


 男の所まで戻ってくると、男は空を見つめていた。

「何を見ちょる」

「月じゃ」

「……?今日は新月じゃけん、見えんぞね」

「そう……新月。新月でさえなけれりゃ、わしゃぁ――」

男はそこで言葉を切った。

「無ければ……どうなっていた」

光次はその先の話の先を催促するようにして問いかける。


 男は一瞬悩んだが、すぐに満面の笑みを浮かべ、

「まあ、この話はあとじゃ後じゃ。ささっ、飯をくれ」

と言って、口を大きく開いた。
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