【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月

文字の大きさ
5 / 75
本編1

4話

しおりを挟む



 本人と周りの言どおり、仕事の効率が上がったらしいルカは、本日中に処理しなければならない仕事をすべて終えたうえで、昼前で退勤した。昼からは有給休暇を取ったらしい。
 さくさくと仕事を済ませるルカを、ガレッディ副団長が持ってきてくれたクッキーと紅茶をいただきながら眺めていたフィオラはしかし、その様を見て特別何か思うところはなかった。何せフィオラがいるときのルカの仕事の速さはいつもこんなものである。普段との違いがわからないので、何を思うこともない。

 「またぜひ来てくださいね~!」などとガレッディ副団長に笑顔で見送られて、今度も根負けしてルカに抱えられたフィオラは、「それで、どこに行くんだ」とだいぶ間近にある秀麗な顔を見上げて訊ねた。


「とりあえず、一緒にお昼を食べよう。いいだろう?」

「このじょうきょうで、私にことわるせんたくしがあると思うのか?」

「君がどうしてもいやだと言うなら、俺だって諦めるよ……」


 「そんな捨てられた犬のような顔をしておいてか?」という感想は心の中にしまっておいた。この姿になってから、ただでさえ世間一般に聞いていたのと違う面ばかり見せてきていた友人の像が、さらにめちゃくちゃになっていっているのだが、果たしてこれは自分のせいなのだろうか。


「フィーと行きたいと思ってた店があるんだ。ちょうどよかった」

「おまえのその『フィーと行きたい店』はいったいなんけんあるんだ。さそわれるたび聞いている気がするぞ」

「フィーが誘いになかなか乗ってくれないせいで、増えるばかりなんだよ」


(これは遠回しに責められているんだろうか……?)


 ちょっとばかり考えてしまったが、どっちかというと良心をつついて誘いに乗る頻度を高めようとしてきているだけのような気がする。まぁつまり責めていることは責めているのだろうが、そんなに真面目にとるようなものでもなさそうだ。

 楽しみだな、と喜色を隠さず歩むルカは、さっきから人の視線をやたら奪っていることに気付いているのかどうか。
 まずルカの顔を見てほう……となり、次に抱えられたフィオラを認識して「!?」となり、さらにもう一度ルカの顔を見て驚愕する――そんな一連の流れがあちこちで起きているのだが、美形の影響力、こわい。

 こんな傷だらけの子どもを連れていても通報される様子がないところもすごい。単純に、ルカの顔が騎士団長として知れ渡っているからかもしれないし、フィオラが抵抗を無駄と悟って大人しく身を預けているからかもしれないが。


 そうして連れてこられたのは、魔法使いの宿舎の程近くにある、フィオラでもそういえば誰かから名前を聞いた記憶のある、ちょっと洒落た軽食屋だった。
 献立表(メニュー)を見ても、定番を抑えつつ、流行りものからあまり聞かない料理もあって、独自色を出している。甘味類が豊富なところと、洒落た外観で女性にも人気が高そうだ、とフィオラは分析した。
 

「ここで食べるのか?」

「いや、ここは持ち帰りもやってるから、持ち帰りで。フィーもさすがにその姿で外で食べるのは落ち着かないだろう?」

「まあ、そうだな」


 それを言うなら宿舎でも騎士団区域でもないところまで連れてこないでほしかったが、かといって人目が気になって仕方がないような性質でもない。ただ、本来ならば同年代である男に抱えられて運ばれるのがちょっとどうなんだろうと思うだけだ。

 どちらにせよ宿舎の自分の部屋にも食事の蓄えはそれほどなかったので、今日の昼は外に食べに出る予定だった。手間を省いてくれた――というのとはまた違うが、恨む筋合いでもないだろう。


 フィーの選んだものを聞き出して如才なく注文し恙なく品物を受け取ったルカは、片手がふさがれたというのにそれでもフィオラを下ろそうとしない。
 確かにフィオラの足の長さを考えると、ルカと並んで歩くのは難しいし、さらにいえばルカはフィオラが足にケガをしていることを知っている。下ろしてはくれないだろうな、と思い、ならば、と思いついた。


「ルカ。おまえ、私を下ろす気はないんだろう?」

「もちろん」

「だったらせめて、そのしなものを私にもたせろ。きしのりょううでをふさぐのはよくない」


 言うと、ルカは驚いたように一度瞬いて、まるで感極まったかのようにフィオラを抱える腕に力を込めてきた。


「フィーが、俺を気遣ってくれるなんて……!」

「まて。私がふだんおまえをぞんざいにあつかってるかのようなごかいを生むはつげんはよせ」

「でも、『騎士として』の俺を気遣ってくれるのが嬉しくて」

「うれしくても何でもいいが、力をゆるめろ。あとしなものを渡せ」


 絶妙に力を加減しているのだろう、痛くはないが、居心地が悪い。
 訴えに素直に力加減を戻したルカは、そっと品物をフィオラに渡してきた。「膝の上にでも乗せるといいよ」と言われ、確かに安定性が高いな、と思ったのでそうする。

 と、何故かルカが微笑ましそうに見つめてくるのに気づき、怪訝な顔になるフィオラ。
 なんとなくいやな予感を抱きつつ、放置するのも気持ちが悪いので首を傾げて問うた。


「……どうかしたか?」

「いや、お人形さんみたいでかわいいなと思って」


(やっぱりこいつの目節穴なんじゃないだろうか……)


 真面目に心配になったフィオラだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです

珂里
ファンタジー
ある日、5歳の彩菜は突然神隠しに遭い異世界へ迷い込んでしまう。 そんな迷子の彩菜を助けてくれたのは王国の騎士団長だった。元の世界に帰れない彩菜を、子供のいない団長夫婦は自分の娘として育ててくれることに……。 日本のお父さんお母さん、会えなくて寂しいけれど、彩菜は優しい大人の人達に助けられて毎日元気に暮らしてます!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

【完結】嫌われ公女が継母になった結果

三矢さくら
恋愛
王国で権勢を誇る大公家の次女アデールは、母である女大公から嫌われて育った。いつか温かい家族を持つことを夢見るアデールに母が命じたのは、悪名高い辺地の子爵家への政略結婚。 わずかな希望を胸に、華やかな王都を後に北の辺境へと向かうアデールを待っていたのは、戦乱と過去の愛憎に囚われ、すれ違いを重ねる冷徹な夫と心を閉ざした継子だった。

無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する

タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。 社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。 孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。 そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。 追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

処理中です...