【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月

文字の大きさ
7 / 75
本編1

6話

しおりを挟む



「フィーが気にしてないのはわかるけれど、やっぱりそのケガは治した方がいいと思うんだ」


 食事を終えた後、ルカはそんなことを言い出した。仕事をさっさと終わらせて有給休暇を取ったのもそのためだったらしい。


(まったく、人がいいというか、お節介というか……。確かにすべての傷とはいかずとも、足のケガだけでも治しておきたい。そうすればルカに抱えられることもなくなるはずだ)


 ケガを治すことに同意したら、例によって抱えられる羽目になったフィオラは、心からそう思った。



 魔法使いの宿舎を迷いなく歩くルカに違和感を覚えつつ、どこに向かっているのかと訊いてみる。
 魔法士長が言っていたこと――「自然治癒能力を加速させる治癒ができる魔法使いに治してもらえれば一番いいが、それができる魔法使いは出払ってるか、魔法を使いたがらない者しか残っていないらしい」というのは伝えてある。その上でケガを治せる人間に心当たりがあるというので任せていたのだが。


「フィーは、ベリト・サヴィーノという魔法士を知っている?」


 言われて、記憶を探ってみる。すぐに思いつかない時点で、親しい知り合いではないのは確定だ。


「確か……1ヶ月ほど前に所属した魔法士じゃなかったか? やたら顔がいいと噂になっていた」


 何せ、「ルカ=セト騎士団長と張る顔面の魔法士が来た!」とか言われていたのだ。まともに出会ったことがないのに名前を知っているのはそのおかげである。


「ははっ、『顔がいい』か。たぶん、フィーでも驚くと思うよ」

「驚く?」

「あとは見てのお楽しみ、ってね――もうすぐ着くよ」


 そう言われては、追及するのは無粋だ。大人しく目的地に着くのを待つことにするフィオラ。

 ある部屋の前で立ち止まったルカは、コンコンコン、コンコン、と不思議な節をつけて扉を叩いた。
 しばらくの間の後、ガチャリと鍵の開く音がする。


「――早速来たんですか? 暇人ですね。いや、厄介ごとが起こったっていうんなら、疫病神かな」


 第一声から毒舌だ。挨拶をしようという気が欠片も感じられない。
 まがりなりにも騎士団長に対する態度としてもどうだろう――と考えたフィオラだったが、扉の隙間から覗いた顔を見て固まった。


 芸術品があった。
 否応なく呼吸が止まるような、職人が丹精込めて長年をかけて作り上げた美の結晶のような造形がそこにあった。

 ルカは誰もが認める美形だが、これは美形とかそういう段階にない。圧倒的な美だった。
 闇夜を写したような漆黒の髪、力を持った宝石のような美しすぎる赤い目、肌は見入るほどに白いのに不健康そうには決して見えない。

 フィオラの人生史上もっとも美しい、と断言できてしまう人間が、そこにいた。


「……ほら、驚いただろう?」


 ルカが耳打ちしてきて、やっと意識が正常に働きだした。そして圧倒的な美を振りまいている人物が、――美しさを台無しにするようなくたびれたローブを纏っているのにも気付いた。


(もったいない……が、個人の自由か。なんというか、これはこれでバランスがとれている)


 顔だけ先に出てきたために見惚れてしまったが、全身が一度に視界に入ればあそこまで見惚れることはなかっただろうな、というほどの、率直に言って襤褸なローブだった。顔のおかげで乞食のような印象は受けないのがすごい。世捨て人っぽさだけがある。


「で、『貸し』を返せということみたいですが、何ですか? その抱えてる被虐待児みたいな、フィオラ・クローチェ魔法士によくよく似た子どもについてでしょうけど、何をしろと? 言っておきますけど、犯罪の証拠隠滅はやりませんよ」


 いちいち一言多い人物だな、とフィオラは思った。
 しかし、相手がフィオラを認識していたのは意外だ。フィオラはここの古株ではあるが、取り立てて功績もない、平の平の魔法士なのだが。


「意外そうな顔してますね。何がですか? さっき僕に見惚れてたところからしてほぼ初対面でしょうし、僕も子どもに知り合いはいませんが、仮にフィオラ・クローチェ魔法士が何らかの要因で子どもの姿になったと仮定して、フィオラ・クローチェ魔法士を知っているのが意外というなら、そこの騎士団長とかいう役職についている腹黒と知り合った時点で知らないでいることなんてできないでしょうよ」


(いろいろな方面でつっこみを入れたい発言だったが……腹黒?)


 結構失礼なことばかり言われている割に、まったく気分を害した様子のない友人を見上げる。この男を『腹黒』と称した人間は初めて見た。
 「うちの団長、クローチェさんがいるときといないときの差、激しすぎると思うんっすよねー。実は二重人格?」とか言っていた副団長なら記憶にあるが。


(『貸し』がどうこう言っていたし……いったい何をやったんだ?)


 「犯罪の証拠隠滅はやらない」という発言が出るようなことをやったのだとしたら、友人関係を続けるか考えなくてはならない。
 ……まぁ、この短い間で何となく察した目前の人物――ベリト・サヴィーノ魔法士の性格というか発言傾向からして、ただの嫌味のようなものだろうが。


 じっと見上げるフィオラに何を感じたのか、ルカは少しばかり早口で弁明してきた。


「彼がここに来たばかりの頃、街で人に囲まれてるのを助けたことがあってね。それを彼が『貸し』だと言って、返さないと気分が悪いというから、機会があったらということにしていたんだ。彼はたいていのことはできる魔法使いだというし、それならちょうどいいと思って」


 こんな顔が街に現れたら、そりゃあ囲まれもするだろう。それを助けたというのがよくわからないが、ともかくそういう『貸し』をフィオラのケガを治してもらうことで返してもらうらしい。

 納得したフィオラは「そうなのか」とだけ返したのだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

大自然を司る聖女、王宮を見捨て辺境で楽しく生きていく!

向原 行人
ファンタジー
旧題:聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。 土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。 とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。 こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。 土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど! 一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?

向原 行人
ファンタジー
第三王子が趣味で行っている冒険のパーティに所属するマッパー兼食事係の私、アニエスは突然パーティを追放されてしまった。 というのも、新しい食事係の少女をスカウトしたそうで、水魔法しか使えない私とは違い、複数の魔法が使えるのだとか。 私も、好きでもない王子から勝手に婚約者呼ばわりされていたし、追放されたのはありがたいかも。 だけど私が唯一使える水魔法が、実は「飲むと数時間の間、能力を倍増する」効果が得られる神水だったらしく、その効果を失った王子のパーティは、一気に転落していく。 戻ってきて欲しいって言われても、既にモフモフ妖狐や、新しい仲間たちと幸せな日々を過ごしてますから。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...