10 / 75
本編1
9話
しおりを挟む夢を見た。
痛い、こわい、なんで、痛いイタイいたい、笑い声がする、痛みにうめく声がする、叫んでいるのは私の喉だろうか、痛みを、もっと痛みを、泣き叫べ、悲鳴をあげろ、ああそうすればこの苦痛から解放される?
そんなはずはない、『痛み』を与えそれに泣き叫ばせることが目的なのだから、ああ、ああ、だったらもうどこにも希望なんて――ない。
『だいじょうぶ、だいじょうぶだ、フィー』
『生きてかえれる。生きてかえす。きっと、きっと、おまえだけは――』
――目が、覚めた。
見えた見慣れた天井に混乱する。視界に入った傷のない腕にそれが深まる。
けれど周りは見慣れた魔法使いの宿舎の自室だ。すぐに混乱は収まった。
(久々に、見たな……)
体に精神が引きずられたのだろうか。ちょうどこの体の頃の記憶を夢に見た。
(ああ、そういえば――ルカに傷のことを話すんだった)
おそらく、昨日は気遣って言い出さなかったのだろう。だが、気にはなっているはずだ。
(そうだ、あの発言も)
『フィーに関することは俺の担当になってるんだ』などと意味不明なことを言っていた。あれについても追及すべきだ。
昨日、夕食を買い込んできたルカと食事をしながら、今日は街でしばらくひきこもっても問題ない程度の買い出しをするということで話は決まった。今日は昼までの有給休暇をとったらしい。
「今は大きな案件もないからね、俺が多少いなくても問題ないんだ。万が一の時の代理決裁も、他の団長に頼んでおいたし」とかなんとか言っていたので、心苦しくはあるが、頼らせてもらうことにした。この体躯では一日分の食料を持てるかも怪しい。
時計を見ると、ちょうど身支度をしてルカを待つのにいいくらいの時間だった。
顔を洗う、まではいつも通りに行えたが、問題は服だ。
昨日は『時が巻き戻った』影響でその頃着ていた服があったが、もちろん部屋にある服が一緒に幼少時の物に変わるわけはない。
ではどうするかと言えば、気の利きすぎる友人が食事と一緒に持ってきたものを着るしかない。
しかし。
(これを……私が?)
別にド派手だとか奇抜だとかいうのではない。ごく一般的な子ども用の服だとは思われる。
しかし、フィオラが好んで着るようなものでもない――というか、実年齢からするとちょっと抵抗があるというか。
上は、まあいい。ちょっと高そうなのが気になるが、普通のシャツだ。
下は半ズボンのようだが、裾に向かって広がっていて、一見スカートにも見える。こちらがフィオラの抵抗感の源だった。
合わせるための長めの靴下もあるし、ベルトもある。生足をさらすことにはならないとはいえ、なぜ長ズボンにしてくれなかったのか。
とはいえ、替わりに着られるものがあるわけでもない。意を決して、その衣服に腕を通した。
だが、時間になってやってきたルカに「やっぱり思ったとおりだ。似合うな!」などと言われて半眼になってしまったのは仕方ないことだった。
今日も抱え上げようとするルカと、歩みを合わせさせる心苦しさよりも恥ずかしさをとったフィオラの、自分で歩くとの主張がぶつかった結果、昨日の再現のように手を繋いで歩くことになってしまった。
(これはこれで恥ずかしい……が、実際、街を歩くとなると、この方が効率的なのは確かだな)
魔法使いは大抵人嫌いか人が怖いか無気力か仕事中毒のため、宿舎内を歩くような人間には会わなかったが、街は違う。時間帯もあるのだろうが、人であふれているといっても過言ではない様子だ。手を離していて、ちょっと歩みの速度が違えばはぐれるのは容易だろう。
「フィー、食料は買うって言ってたけど、服はいいのか? 2着だけだと心もとないと思うんだけど……」
「本物の子どもでもあるまいし、労働で外に出るわけでもない。汚すことはないだろう。魔法使いの宿舎なら、頼んでおけばどんな天気でも次の日には乾いた状態で返ってくるから問題ない」
「それ、うらやましいなぁ。騎士宿舎の方が絶対そういうの必要だと思うんだよ……」
「予算組んで相談すれば、ローシェ魔法士長ならどうにかしてくれると思うが」
「それもそうか。今度団長会議で議題に挙げてみよう」
そんな他愛ない話をしつつ、いくつかの店を回る。基本はまあまあ日持ちがして、皮をむくだけなどひと手間だけで食べられるものを選んでいく。
たまに、ルカが「最低限以外にも買った方がいいと思うよ」と甘味類を足してきたりしつつ、恙なく買い物は進んでいった。
「……これくらいでいいだろう。買い物はもういい」
「うん? お昼にはもう少しあるけど、どこか食べに行く?」
「それより、昨日後回しにした話をしたい。どこか落ち着ける場所に行こう」
「……いいのか?」
「何がだ」
「――うん、君がいいなら、いいんだ」
そうしてフィオラとルカは、店々の立ち並ぶ通りの、隙間のような路地に立ち入ったのだった。
24
あなたにおすすめの小説
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
大自然を司る聖女、王宮を見捨て辺境で楽しく生きていく!
向原 行人
ファンタジー
旧題:聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。
土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。
とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。
こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。
土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど!
一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?
向原 行人
ファンタジー
第三王子が趣味で行っている冒険のパーティに所属するマッパー兼食事係の私、アニエスは突然パーティを追放されてしまった。
というのも、新しい食事係の少女をスカウトしたそうで、水魔法しか使えない私とは違い、複数の魔法が使えるのだとか。
私も、好きでもない王子から勝手に婚約者呼ばわりされていたし、追放されたのはありがたいかも。
だけど私が唯一使える水魔法が、実は「飲むと数時間の間、能力を倍増する」効果が得られる神水だったらしく、その効果を失った王子のパーティは、一気に転落していく。
戻ってきて欲しいって言われても、既にモフモフ妖狐や、新しい仲間たちと幸せな日々を過ごしてますから。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します
mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。
中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。
私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。
そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。
自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。
目の前に女神が現れて言う。
「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」
そう言われて私は首を傾げる。
「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」
そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。
神は書類を提示させてきて言う。
「これに書いてくれ」と言われて私は書く。
「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。
「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」
私は頷くと神は笑顔で言う。
「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。
ーーーーーーーーー
毎話1500文字程度目安に書きます。
たまに2000文字が出るかもです。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる