17 / 75
本編1
16話
しおりを挟む「フィー!」
だから、その声が聞こえた時、まるで片割れが揺らいだ自分を叱咤しに来たのかと思ったのだ。まったく似ているところのない声なのに、呼び名が同じというだけで。
鈍く重い音がして、女性の気配が背後から消える。昏倒させられたのか、そのまま拘束されているらしき音が聞こえて、フィオラは誰かに抱き起こされた。
「……ルカ」
「フィー、無事……じゃないよね。とりあえず拘束を解こう」
懐剣を取り出して器用にフィオラの手足を縛る縄を切っていくルカを呆然と見る。
視界の隅で意識を失った状態で連行されていく女性が見える。連行しているのは騎士だ。
そして目の前にルカがいる、この状況。
(助かった……?)
縄が切られ、手足が自由になる。慎重にフィオラの体の具合を確認していたルカは、しばらくして、ほっとしたような溜息をついた。
「骨とかに異常はなさそうだ。擦過傷や痣なんかはしばらく残りそうだけど、……よかった」
「よかった、大事無くて」と小さく呟いて、ルカにそっと抱きしめられる。
それに身を任せながら、フィオラは疑問を口にする。
「私は、どれくらい行方不明だったんだ?」
「丸一日は経ってる。遅くなってごめん」
「あやまらせたかったわけじゃない。……私が気が付いたのはついさっきだったから。ずいぶん早くたすけが来たんだなと思ったんだ」
一日で誘拐|(……でいいのだろうか)の実行犯を突き止めて捕縛、被害者も保護、となるととんでもなく早い方だろう。目的からして、犯行声明や要求などが行ったわけでもないだろうし。
「私がいなくなったのには、ルカがきづいてくれたんだろう。ありがとう」
「食事の時間になっても部屋に戻ってこなかったから、何かあったんだと思って。犯人にすぐ目星がついてよかった」
あの女性について、普段見かけない女官を見たので覚えていた者がいたらしい。その後、彼女の最近の様子がおかしいとの仕事仲間からの証言もあって、疑わしいと判断されたとのこと。
そこから足取りを追って、ここを突き止めたらしい。ちなみにこの場所は、街にある曰くつきの空き家の一室だとか。
フィオラは少し考えて、ルカの耳元に口を寄せた。
「……この件には『黒の聖衣の魔法使い』――ディゼット・ヴァレーリオが絡んでいたようだ」
彼の名は刺激が強い。ひとまずはこの場の責任者だろうルカに伝えて、判断を仰ぐべきだと考えたのだ。
ルカは小さく息を呑んで、声を潜めて訊ねてきた。
「……本人は?」
「あらわれなかった。じっこうはんのかのじょは、彼にかんじょうをそうさされたかのうせいもある」
「最近は『悪い魔法使い』への支援以外で名前を聞くことはなかったのに――……もしかして、フィーを狙って?」
「おそらく、だが。……『悪い魔法使い』にできそうなきかいがめぐってきたとかんがえたんだろう。ほんかくてきにかかわってきたわけじゃないから、だいじょうぶだったが――だから、彼女のなしたことについてのさいていでは、そこのあたりもかみしてもらいたい」
「了解。…………本格的だったら、危なかった?」
悩むような間の後に続けられた問いに、フィオラは目を瞬いた。
こんなふうに、ルカが『悪い魔法使い』のことについてフィオラに訊いてきたのは初めてだった。
「だいじょうぶだ。私は、――……ちかって、いるから」
ディーダ・ローシェ魔法士長のような制約はないけれど。
自分に、そしていなくなった片割れに。絶対に自分の不幸の元凶と同じところに堕ちないと誓っている。
復讐はする。どんな理由があれ『悪い魔法使い』は許せない。
直接の元凶は、フィオラが逃げ出した後にシュターメイア王国に身柄を押さえられ、裁かれたけれど、黒幕ともいえるディゼット・ヴァレーリオは、いまだ『悪い魔法使い』として暗躍している。今回のように。
自分のように『悪い魔法使い』による被害で何かを失ったり、悲しむような人を出さない。そのためにできることをする。
復讐をしたいその気持ちと同じ強さで、そう思ってもいるから、フィオラは『善い魔法使い』でいられるのだ。
「そうか。――そうか、そうだね。フィーは大丈夫か」
ルカはほっとしたように笑みを浮かべた。
「友人が『悪い魔法使い』になった、なんて心の傷を、おまえに抱えさせるわけにはいかないからな」
空気を変えようと冗談めかして言うと、ルカは「そうだね、もうこれ以上は勘弁かな」と苦笑した。
(ルカの故郷は『善い魔法使い』から『悪い魔法使い』になった者に滅ぼされたんだったな……少し不用意だったか)
もしかしたら、その『悪い魔法使い』になった人間は、ルカとそれなりに親しい人間だったのかもしれない。それもいつか、ルカ自身から話を聞くことがあるだろうか。
危機が去ったことで、体の痛みが鮮明になっていくのを感じながら、フィオラは未来に思いを馳せたのだった。
3
あなたにおすすめの小説
大自然を司る聖女、王宮を見捨て辺境で楽しく生きていく!
向原 行人
ファンタジー
旧題:聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。
土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。
とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。
こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。
土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど!
一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します
mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。
中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。
私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。
そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。
自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。
目の前に女神が現れて言う。
「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」
そう言われて私は首を傾げる。
「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」
そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。
神は書類を提示させてきて言う。
「これに書いてくれ」と言われて私は書く。
「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。
「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」
私は頷くと神は笑顔で言う。
「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。
ーーーーーーーーー
毎話1500文字程度目安に書きます。
たまに2000文字が出るかもです。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?
向原 行人
ファンタジー
第三王子が趣味で行っている冒険のパーティに所属するマッパー兼食事係の私、アニエスは突然パーティを追放されてしまった。
というのも、新しい食事係の少女をスカウトしたそうで、水魔法しか使えない私とは違い、複数の魔法が使えるのだとか。
私も、好きでもない王子から勝手に婚約者呼ばわりされていたし、追放されたのはありがたいかも。
だけど私が唯一使える水魔法が、実は「飲むと数時間の間、能力を倍増する」効果が得られる神水だったらしく、その効果を失った王子のパーティは、一気に転落していく。
戻ってきて欲しいって言われても、既にモフモフ妖狐や、新しい仲間たちと幸せな日々を過ごしてますから。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる