29 / 75
本編2
5話
しおりを挟む当座の住居には生活するのに不便ない程度のものは揃えてあったが、食料品などは買いに出る必要があったので、ガレッディ副団長とサヴィーノ魔法士が買い出しに行くことになった。フィオラは留守番――というか別行動だ。というのも、人手にならないのもそうだが、計画上、仲良く共に外に出るのはどうかという話になったのだった。
ちなみにサヴィーノ魔法士はローシェ魔法士長が潜入捜査用に編み出した魔法で、只人と変わらなく感じられるようになっている。つまり魔法使いと出会っても只人二人の兄弟に見えるので、共に出かけたのだった。
というわけで、フィオラは一人で家の周囲を散策してみることにした。
ただ留守番していてもそれはそれで計画は進まない。『扱いの悪い魔法使いの子どもがいる』ということを印象付ける必要がある。
『魔法使い』であることは魔法使い同士ならなんとなくわかるものなので、ともかくも『いかにも虐待されてそうな子ども』がいるということを認識してもらうべきだ。
幸いにも、というのもなんだが、フィオラの今の見た目は傷だらけの哀れめいた子どもである。薄着ではないので一目見て後ずさるほどではないが、数秒目に留まれば傷があることはわかる程度には目立つ。
まずは人目に触れるところから、ということで、フィオラはきっちり鍵をかけてから家の外に出た。
(……とはいえ、目的地もなくふらふらするのもな……。そうだ、確か確か四件目の事件の場所がここから近い。何か痕跡がないか見に行ってみるか)
頭に叩き込んだ事件の地図を思い浮かべて、そちらに向かう。今のフィオラの足では厳しいが、二件目も比較的近いところにある。そもそも事件を調べやすいように住居を用意したのだろうが。
着いた先は、何の変哲もない民家だった。まったく人気がないことを除けばだが。
ネズミにされた家人は他の魔法使いによって人間に戻され事情を聴いた後解放されたらしいが、無論そのまま住み続けるはずもない。よって無人となったわけだが――。
(魔法の残滓はあるが、追えるほどではないな。これが家人をネズミにした魔法だろう。ここの代償と思われるものは、『一定期間声が出なくなる』だったか)
なんでもここ一帯の人間の声が突然出なくなったらしい。当時はかなり混乱が起きたそうだが、当然だろう。『悪い魔法使い』の代償は、いつも突然で、理不尽なものだ。
(この家の子どもだった魔法使いは……六歳か。今の私の姿と近いな)
フィオラが『悪い魔法使い』の代償のために攫われたのは、五歳を過ぎた時だった。
今のフィオラは、傷の具合からして、まだ六歳になる前あたりだろう。事件の関係者である『悪い魔法使い』になった子どもたちは五歳から十歳なので、もし何らかの年齢の基準を設けて『悪い魔法使い』にしているとしても、フィオラも対象に入るはずだ。
(まあ、そうそう都合よく『黒幕』の目に留まることはないだろうが……)
どちらかというと、標的になりそうな魔法使いの子どもと知り合うという方向性で取り組むことになっている。もちろん、『黒幕』が接触してきたら儲けものだが。
一応、調べではまだこの近辺にも魔法使いの子どもがいるはずだが、果たしてうまく知り合えるかどうか。
と考えた矢先に、通りの向こうに魔法使いの気配を感じた。
元の姿とは比べ物にならない速度でまだ慣れないながら歩みを進めると、一つの民家の前で座り込む子どもを見つけた。姿を目に捉えて確信する。――魔法使いだ。
フィオラがさらに歩みを進めると、はっと子どもが顔を上げる。あちらもフィオラが魔法使いだと気づいたのだろう。
「……なにを、しているんだ?」
とりあえず、訊ねてみる。それにしても、以前子どもの姿になった時も思ったが、やはりこの姿の時は言葉が出しにくい。以前の時よりは少し成長した姿なので、まだマシだが。
「……何も、してない。おうちに入っちゃダメって言われたから、外にいるだけ」
「どうして家に入ったらだめなんだ?」
「怒らせたから。……ぼくが魔法を使っちゃったから……」
この年頃の子どもは見た目で性別がわかりにくい。『ぼく』という一人称から、男の子だろうか、と思うフィオラ。
「魔法を使ったらいけないのか」
「……きみ、このあたりの子じゃないの……?」
「ほかの国から引っ越してきたばかりだ」
「そうなんだ。……ここでは、魔法を使ったらダメなんだよ。悪い魔法使いがやってくるから」
(……このあたり特有の言い伝えか?)
内心首を傾げる。さすがに土着の言い伝えなどは頭に入れてこなかった。というかそこまでの資料はなかった。
「じゃあ、どうして魔法を使ったんだ?」
「……おとうとが、なべにぶつかりそうになって……あぶなかったから……」
「……それなら、いいことをしたんだろうに」
「でもダメなんだよ。だから夜まで、おうちに入れてもらえないの」
「そうか。……さむそうだな」
ラゼリ連合王国は、聞いていたとおりシュターメイア王国よりも寒い。それなのに、家を追い出された子どもは、シュターメイア王国で遊んでいるような子どもたちよりも薄着だった。
「外に、出るつもりなかったんだもん……」
「そうか。そうだな。さむいなら、これをはおるといい」
フィオラは自分の着ていた上着を脱いで、子どもに差し出す。驚いたように丸くなった目で見られて、(……唐突すぎたか?)などと思いつつ続ける。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~
ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~
大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。
話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。
説明口調から対話形式を増加。
伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など)
別視点内容の追加。
剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。
高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。
特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。
冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。
2021/06/27 無事に完結しました。
2021/09/10 後日談の追加を開始
2022/02/18 後日談完結しました。
2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした
新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。
「ヨシュア……てめえはクビだ」
ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。
「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。
危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。
一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。
彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。
向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。
幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。
最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです!
勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。
だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!?
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる