【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月

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本編2

25話

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「フィー……大丈夫?」


 アルドのいる研究室兼牢屋から出ると、ルカはそう言ってフィオラを気遣った。その言葉が、かつての片割れと重なる。


「ここで大丈夫、と言って、お前は信じてくれるのか?」

「フィーがそう望むなら」


 静かに、そして真摯にルカは言う。だからフィオラも、本音をこぼせた。


「だいじょうぶだ……とは言えないから、手を、握ってくれないか」


 今はただ、誰かの体温が恋しかった。いつでも傍にあった片割れのように。

 ルカは一瞬の間を置いて、膝をつき、フィオラを抱きしめた。


「……手を、と言ったと思うんだが」

「俺が、フィーを抱きしめたかったんだ」


 優しい声音が染み入るようで、フィオラはそれ以上の反論を口にできなかった。


「……変わらないな、と思ったんだ」

「?」

「『善い魔法使い』も、『悪い魔法使い』も。『これは魔法使いだ』というかんかくだけがあって――何も、ちがいはないんだと」

「違わないけど、違うよ」

「……何がだ」

「『善い魔法使い』は『やろうと思えばできるのにそうしない』魔法使いだろう?」


 当たり前のように言われる。魔法使いでもないのに何を、と思ってもいいところだったのに――その言葉はすとん、と胸に入ってきた。いつかのルカの言葉と同じように。


「あ……」

「フィー?」


 どこかの家で、ルカとそんな話をした記憶がちらつく。
 今のフィオラは知らない、だが、知っている。記憶はこの体が覚えている。


「私は……そういった話を、お前とした、か?」

「……! 記憶が……!?」

「いや……そんな、気がした」


 フィオラの言葉に、けれどルカは落胆を表には出さなかった。
 「潜入捜査のときに、少し」とだけ答える。


「『呪い』が解けないと記憶は戻らないものだと思っていたけど……そうじゃないのかな」

「夢のかたちで、おそらく私の記憶だろうものも見た。記憶がなくなっているというより、ふうじられているような感じなんじゃないだろうか。……すいそくだが」

「なるほど……それなら頭の中には『在る』ってことだから、きっかけがあって蘇ることもあるか……」


 思案気にルカが目を伏せる。
 そろそろ落ち着いてきたのと、冷静に考えると結構人に見られると恥ずかしい体勢なのでは、という気持ちがむくむくと湧いてきて、身じろぎする。それをどう思ったのか、ルカはさらにぎゅっと抱きしめてきた。


「る、ルカ……」

「うん?」

「もう、おちついたから。だいじょうぶだから、その……」


 離れてもらえないだろうか、と言うべきところなのはわかっているのに、続きが喉の奥から出てこない。……体温を、心地いい、と感じる自分が確かにいるのが原因なのだろうが。


「俺はもう少しこうしていたいな。……フィー、子ども体温なんだね。いや、今は子どもの姿だから当たり前だけど」

 だから、ルカのその言葉に、それ以上言い募ることができなかった。代わりに別の言葉を舌に乗せる。


「……ルカもたいおんが高くないか?」

「騎士は平熱が高めの人間が多いよ。筋肉量が関係しているとか聞いたことがあるけど」


 そんな他愛ない会話をしながら、心地よさに身をゆだねる。
 とろりとした眠気までもが忍び寄ってきて、フィオラはそれを払うために若干慌てて口を開いた。


「ルカは、アルドを私がほばくした現場にいたんだろう?」

「うん」

「ほんとうに、私は『またともだちになってくれるか』という問いに……うなずいたのか?」


 アルドの言葉を嘘だと思っていたわけではなかった。ただ、他の人――ルカから聞けたのなら、それをうまく呑み込めるような気がしたのだ。


「――うん。『もちろんだ』って。……俺には、表情は見えなかったから、どんな気持ちで言ったかは、やっぱりわからないけど」

「いや……じゅうぶんだ」


 どんな気持ちを抱えての言葉だろうと、『悪い魔法使い』が普通の魔法使いに戻ったら『ともだちになりたい』と言ったのに、了承を返したのだ。自分は。
 それだけの心を、親しみを、培ったのだ。


「さっきの、もういちど言ってくれないか」

「? さっきの?」

「『善い魔法使い』も、『悪い魔法使い』も、何もちがわないと私は思ったけれど――お前は、そうじゃないと言ってくれた」

「……『善い魔法使い』は『やろうと思えばできるのにそうしない』魔法使いだろう。もちろん、フィーも」

「――ああ。……ああ……そうだな」


 この、彼の信頼を、裏切りたくないと思った。
 絶対に、『悪い魔法使い』にだけはならないと――そう、思った瞬間。

 フィオラの頭の中に声が響いて、フィオラは意識を失った。

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