55 / 75
番外
もしも××しないと出られない部屋に閉じ込められたら(IF)
しおりを挟む「……ええと……俺まだちょっと事態が理解できてないんだけど」
「むしろできてたら驚きだ。……端的に言うと、魔法士長の気まぐれというか、思い付きというか。『条件を達成しないと出られない部屋』に閉じ込められた」
「『条件を達成しないと出られない部屋』?」
「そこにでかでかと書かれているのが条件だ。それを達成しないとこの部屋の扉は開かない――らしい。一応開かないか試しておくか」
「それなら俺の方が適任だと思う。これでも騎士だし」
「いや、お前が騎士なのはよく知ってるが。そうだな、お前の力でも開かなければ、どうしようもないというのは確かだな」
「じゃあ……っと。うーん、押しても引いても開かないな。この扉どっち開きなんだ?」
「意匠からして魔法使いの宿舎のものと同じだから、外開きだろう」
「よっ」
「軽い掛け声とはかけ離れた音がしたんだが」
「体当たりしたんだからそれくらいの音がしてくれないと。……でも本当に開かないみたいだ」
「最低限の確認を済ませたところで、現状に向き合うか。――この部屋は『一定時間ハグしないと出られない部屋』らしいが……まあ、条件としてはマシな方か?」
「えっ!?」
「何を驚いているんだ?」
「いや……これより、その、すごい条件の部屋に閉じ込められたことがあるのかと思って」
「私はない。他の魔法士が被害に遭っていたからな。その中にはもっと達成が難しいのもあったのを知っているだけだ。そのうち私の番も来るだろうとは思っていたが、まさかお前を巻き込んでくるとは」
「俺も魔法士長に呼び出されたと思ったらこんなことになるなんて驚いてるよ」
「うちの魔法士長がすまないな……」
「フィーが謝る必要はないよ。……それに、この内容で他の人と閉じ込められてたら複雑な気持ちになってただろうし……」
「? 後ろの方聞こえなかった。なんだって?」
「大したことじゃないよ。それで……なんでハグなんだろう?」
「そこを考えるか?」
「だっていくら魔法士長が……その……常人には計り知れない思考をなさる方だからって、無意味なことをさせたりはしなさそうだと思って」
「……そういえば数日前、『ハグにはその手軽さと裏腹に素晴らしい効能があるんだよ!』とか言っていたような。聞き流していたが」
「絶対それだと思う」
「フクコウカンシンケイがどうとかストレス解消がどうとか言っていたが、意味の分からないことを魔法士長が言うのはよくあることだったからな……」
「とにかく何かいい効能があるってことだろう? それをフィーに体感させたかったんじゃないか?」
「まあ、そうなんだろうな……。それで、お前的にはいいのか?」
「え? 何が?」
「ここには私とお前しかいないわけだから、私とお前でハグをする流れになると思うんだが、それがいいかと聞いている」
「……そうやって改めて聞かれると緊張するな」
「お前、何気に私との距離感に気を付けているだろう。抵抗があるんじゃないかと思って」
「……バレてた?」
「バレないと思ったか? まあ私にも都合がよかったからそれはいいんだが。そのお前の線引きからすると、ハグは踏み越えたところにあるんじゃないかと思っただけだ」
「そう分析されるとなおさら緊張してくるんだけど、これはある意味緊急事態だろう? それに、周りの目もないし」
「この状況下ならいい、ということか?」
「まあ、そういうことかな」
「それじゃあ遠慮なく」
「えっ。……ふぃ、フィー!?」
「なんで狼狽えるんだ。この状況下ならいいんだろう?」
「だってフィー、フィーから来るとは思わなくて」
「巻き込んだ側なんだから能動的に動くくらいはする。……しかし、『一定時間』とはどれくらいを指すのか……」
「えっもしかしてずっとこのまま?」
「扉が開くまではこのままだな。……確保された犯人のように両手を上げなくてもいいんだぞ」
「ちょっと手のやり場がなくて」
「まあそれはわかる。逆の立場でも手のやりどころに困っただろうからな」
「……フィー、やっぱりこうしてみると細い」
「騎士様と比べればそれはな」
「ちゃんと食べてる?」
「お前が一番知ってると思うぞ。やたらと食わせようとしてくるんだから」
「もっと食べさせないとな……」
「今以上は無理だ。許容量を考えてくれ。騎士と同じ量はそもそも無理だ」
「それはわかってるけど、やっぱりフィーはもうちょっと食べて肉を付けるべきだよ」
「ついてないわけじゃないんだがな……まあこの姿だと余計に肉がないように見えるか」
「フィー?」
「いいや。……ああ、扉が開いたみたいだ」
「本当!? よかった」
「……素早く離れたな」
「いやだってあの体勢やっぱり気まずくて」
「まあ、私も落ち着かなかったが。……さて、魔法士長に苦情を言いに行くとするか」
「一応巻き込まれた人員として俺も行くよ」
「そうだな、ぜひ魔法使い以外を巻き込むことについての苦情を伝えてくれ」
そんなことを言っていたフィオラとルカが、仔細を聞いた魔法士長に「それじゃあクローチェはハグされてないじゃないか!」と『ハグし合わないと出られない部屋』に閉じ込められるのは、そう遠くない未来のことだった。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~
ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~
大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。
話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。
説明口調から対話形式を増加。
伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など)
別視点内容の追加。
剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。
高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。
特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。
冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。
2021/06/27 無事に完結しました。
2021/09/10 後日談の追加を開始
2022/02/18 後日談完結しました。
2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした
新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。
「ヨシュア……てめえはクビだ」
ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。
「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。
危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。
一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。
彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。
向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。
幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。
最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです!
勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。
だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!?
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる