【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月

文字の大きさ
67 / 75
本編3

6話

しおりを挟む

「そうだ、ケガを治すんだったね」


 誘拐犯とその被害者という立場ががらがらと崩れそうなやりとりと甘味攻勢をやり過ごし、内心ちょっとばかりぐったりしていたフィオラに、リトは思い出したようにぽんと手を打って言った。


「……ああ、そういえば……」


 廊下でそんなふうなことを言っていた。
 リトにとってはフィオラが満足に動けない身体の方が都合がいいのではないかと思うのだが、それをわかっているのかいないのか、いまいち判別がつかない。どちらにせよ、ケガを治された方がフィオラにとっては都合がいいので、指摘はしないが。


「さっきも言ったけど、僕、治癒魔法は得意じゃないから。……一応好みを聞いておこうと思うんだけど、すごく早く治るけどものすごく痛いのと、痛くないし気持ちいいけどすごくゆっくり治るやり方だったらどっちがいい? ちなみに前者は拷問に使ってたやつなんだけど」

「それを聞いて、前者をえらぶと思うのか……?」

「それは、ほら、人の好みはそれぞれだし」

「その言い方、ますます前者はえらびたくなくなると思うぞ」

「そうかな」


 あまりわかってなさそうな様子で首を傾げたリトは、首を元の位置に戻すと、フィオラの全身を観察するように見遣りながら結論を出した。


「まあとりあえず、君は後者を選ぶってことだね」

「というか、中間はないのか」


 あまりに両極端な選択肢だったため、後者でも一抹の不安がある。それゆえのフィオラの問いに、リトはぽつりと答える。


「――必要なかったから」


 その声がいやに平坦で、リトの瞳が深淵を覗くようだったので、フィオラは知らず背筋を震わせた。
 すぐにリトはその雰囲気を拭い去り、またどこか感情の読めない瞳で、フィオラを気遣う。


「寒い? 建物内の気温は一定になってるはずなんだけどな。君は大事な人質だから、大切にしないと」


 ずれているのか、それともある意味まっとうなのか判断がつかない台詞に、フィオラは詰めていた息をそっと吐いた。


「……人質として大切にされるより、解放されたいものだが」

「それはできないよ。――僕の目的が果たされるまでは」

「わかっている。言ってみただけだ」

「君も、そういう無意味なことをするんだね」

「お前はすぐに私を害するつもりはないようだし、言うだけ言ってみるくらいはする」

「ふうん、そっか」


 おもむろにリトが立ち上がり、テーブルを回り込んでフィオラの座る椅子の側に立った。


(ああ、治癒魔法をかけるのか。近づいたり、触れたりしないと治癒魔法を使えない魔法使いは多いからな)


 ――そのフィオラの考えは正しく、そしてある意味間違っていた。

 リトはフィオラの両脇に手を差し込んでひょいっと持ち上げて、フィオラの座っていた椅子に座り、そして自分の膝の上にフィオラを乗せたのだ。


「……、な、何の真似だ?」

「え? 治癒魔法をかけるから。寝ちゃったら椅子から落ちるかもしれないし」

「……強制睡眠の作用でもあるのか?」

「そういうわけじゃないけど、寝ちゃう人がほとんどだったから。――ルカもよく、寝ちゃってたよ」

「…………そうか」


 ルカのことを語るリトは、遠い過去を懐かしむ目をしていて、常にあるつかみどころのなさが薄まる。


(ルカに害意を持っているわけではなさそうに思えるが……目的が読めない。ルカをここに来させて、そして? 最終的にルカに何をさせたい)


 問いが頭を過るが、口には出せなかった。
 リトに触れているところから伝わってくる心地よい感覚が、たちまちフィオラの思考を蕩かしたからだ。


(なんだ、これは……。確かに、傷はほんの少しずつ癒えているが……これは……)


 思考がふわふわと定まらない。それでもわかることはあった。


(治癒よりも、もっと……そう、別の目的があるような……)


 思考できたのはそこまでだった。凶悪的なまでの心地よさがもたらす眠りに、フィオラもまた落ちる。


「……寝ちゃった?」


 ぽん、ぽん、と、子どもをあやすようにフィオラの身体を優しく叩いていたリトだったが、フィオラが自分に完全に身体を預けきったところでその手を止め、上から顔を覗き込む。


「……うん、寝ちゃったね」


 その声はどこか、かなしそうだった。


「君を害するつもりも、ルカを害するつもりもないけれど――これは彼との契約で、僕の目的のためだから」


 だらりと落ちたフィオラの腕をそっと持ち上げて、その膝に置く。すぅすぅと静かな呼吸の音だけが響く。


「ごめんね。君もきっと、ずっとずっと深く傷ついて、その傷が癒えていない人なのに」


 まるで目隠しをするように、フィオラの両の瞼の上に手のひらを当てて。


「その傷を、利用して――ごめんね」


 ぽう、と手のひらに光が灯って、すぐに消えた。それだけだった。それだけで、彼の目的はもう達成されたようなものだった。
 そうなのだと、そうなるのだと、彼――ディゼット・ヴァレーリオが言っていた。

 そうして、フィオラの身体のすべての傷が癒えるまで、リトはじっと、フィオラを抱えたままでいたのだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~ 大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。 話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。 説明口調から対話形式を増加。 伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など) 別視点内容の追加。 剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。 高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。 特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。 冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。 2021/06/27 無事に完結しました。 2021/09/10 後日談の追加を開始 2022/02/18 後日談完結しました。 2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。

向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。 幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。 最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです! 勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。 だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!? ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...