72 / 75
本編3
11話
しおりを挟むシズメキに入る前に連絡手段を持たされていたルカがローシェ魔法士長に連絡をとり、二人と捕縛者一名(リト)はシュターメイア王国へと戻った。
「無理をしたねぇ、クローチェ。これはしばらく身体に影響があるよ。魔法も使わない方がいいだろうね」
「自らの油断が招いた事態ですから、それくらいは仕方ないと思っています」
「外傷が治されていたのは不幸中の幸いと言うべきかな。でなければ、セト騎士団長がうるさかったろう」
「……そ、うでしょうか……」
「おや、記憶に障害でもあるかい? まさか前に君が小さくなった時の彼のあれこれを忘れてしまった?」
にやにやと、答えがわかっているだろうに訊いてくるローシェ魔法士長に、フィオラはため息をつく。
「覚えていますよ。……その、認めるのは、自意識過剰のような気がして」
「そんなことないんじゃない? それとも――愛されていること、認めたくない?」
「……ローシェ魔法士長、その言い方は色々と誤解を招きます」
「誤解かな? 因縁があって、そう指示があったとはいえ、君を攫った魔法使いと一対一で相対することを決めたのはセト騎士団長自身だ。少なくとも、君を大切にしているのは間違いないと思わないかい?」
「…………」
「そこで黙るのが答えだね! ――君もいいかげん、腹を決めたらどうだい? ……僕と一緒にね」
そんな会話を、身体の診察ついでにローシェ魔法士長と交わしたり。
「――『元・悪い魔法使い』に攫われて、洗脳もどきを受けて? セト騎士団長と大立ち回りを演じたそうですね。本当に、人騒がせな」
「……それに関しては私の不徳の限りだが。返事の前に部屋に入ってきて、第一声がそれか。何をしに来たんだ、サヴィーノ魔法士」
自室での療養中、ベリト・サヴィーノ魔法士の訪いを受けたものの、彼が自発的に自分の元に来る理由がわからなくて、フィオラは疑問に思ったのだったが。
「知り合いが寝込んでいると聞いたら、見舞いにくるものでしょう」
至極当然のようにそんな返答が返ってきて、拍子抜けする。
「……君に、そんな当たり前の社交性があったとは……」
「本音、漏れ出てますよ。私もいろいろありましたので、少し人との関わり方を考え直したんです」
「そうなのか……。そのわりに手ぶらのようだが」
「『その顔を見るだけで寿命が延びる』と有り難がられた私の顔が手土産ですが、なにか?」
「……いや。では有り難く拝ませてもらおう」
相変わらずの芸術品のような美貌で、相変わらずの態度で――でもどこか少し何かがやわらかくなった気がするベリト・サヴィーノ魔法士が現れたり。
『クローチェさん、ジード・ガレッディです! お見舞いに来ました! 今大丈夫っすか?』
「ガレッディふくだんちょう? ああ、大丈夫だ」
音を立てて部屋の扉が開く。その向こうにいたのは、名乗りのとおり、ジード・ガレッディ騎士団副団長だった。
「療養が必要だってセト騎士団長に聞いてたんで、心配してたんですよ~。見た感じ顔色よさそうで、安心しました! あ、これ見舞いの花と焼き菓子です」
「……真っ当な見舞いだ……」
「え?」
「いや、なんでもない。ありがとう。焼き菓子は正直有り難い」
「甘味切れてましたか? なら、ちょうどよかったっすね。花は活けときますね!」
「ああ、ありがとう。――その……、ルカはどうしてる?」
「……やっぱり、お二人、戻ってきてから会ってないんすね」
神妙な顔になったガレッディ副団長に頷く。
「その……前みたいに世話を焼いてきてもおかしくないと思っていたんだが、会いに来る様子がなくて……私は一応療養中の身だし、先日のこともあって外出が制限されているから……」
「いや、おっかしーな~とは思ってたんですよ。セト騎士団長、ずーっと仕事してるし。最初にクローチェさんが小さくなった時みたいに休みをとるかと思ってたのに、『個人的なことで迷惑をかけたから』って言って休もうとしないし」
「そう、だったのか……」
「でも、毎日どんどん思い詰めたような顔になってって、それはそれで心配なんですよ~。クローチェさん、ちょっと連れ出して話してみてくれませんか?」
「それは、……そうだな。あれからちゃんと話ができていないし……。わかった。やってみよう」
「ありがとうございます! あ、でもクローチェさんの身体が第一なんで! 無理せず!」
ガレッディ副団長の気遣いに、フィオラは苦笑する。
「――そろそろ、ベッドの上も飽きてきたところだったんだ。気にしなくていい」
そうして、不在にしているローシェ魔法士長の代わりに医務室長に外出の許可を得、ルカを執務室から連れ出すことにしたのだが――。
(……なんだか、部屋の空気がどんよりしているな……)
久しぶりのような気がする騎士団の執務室に足を踏み入れたフィオラは、そんな感想を抱いた。
その原因は、考えるまでもない。
執務机に座り、書類をてきぱきとさばいている騎士団長――ルカが、なんだか重苦しい雰囲気を発しているからだった。
「おい」
「……この案件はもう大丈夫か。それなら、こっちの件に手をつけて――」
「おい、ルカ」
「ああ、そろそろ書類仕事も限界かな……。新人訓練にでも混ぜてもらおうかな……」
「きこえてないのか、ルカ!」
「……えっ?」
机に乗り出して、ぺしんと頭をはたくと、やっとルカはフィオラの方を見た。
「フィー……? 幻覚?」
「人を幻覚扱いするな。……おい、おまえ、なんで頬の傷治してないんだ」
「いや、これは戒めとして残そうと思って――、じゃなくて、え、現実?」
「現実だ。頬でもつねってやろうか?」
「ええ……?」
「ガレッディ副団長がおまえを心配していた。ほら、外の空気を吸いに行くぞ」
机を迂回して、座るルカの腕をぐいぐいと引くと、ようやくルカはいろいろと観念したようだった。
「行く、行くよ……。うーん……やっぱり、俺は騎士団長失格だな……」
その声がいやに真剣味を帯びていたので、フィオラは危機感を覚える。
(これは思ったより、重傷そうだな……)
0
あなたにおすすめの小説
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
大自然を司る聖女、王宮を見捨て辺境で楽しく生きていく!
向原 行人
ファンタジー
旧題:聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。
土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。
とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。
こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。
土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど!
一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?
向原 行人
ファンタジー
第三王子が趣味で行っている冒険のパーティに所属するマッパー兼食事係の私、アニエスは突然パーティを追放されてしまった。
というのも、新しい食事係の少女をスカウトしたそうで、水魔法しか使えない私とは違い、複数の魔法が使えるのだとか。
私も、好きでもない王子から勝手に婚約者呼ばわりされていたし、追放されたのはありがたいかも。
だけど私が唯一使える水魔法が、実は「飲むと数時間の間、能力を倍増する」効果が得られる神水だったらしく、その効果を失った王子のパーティは、一気に転落していく。
戻ってきて欲しいって言われても、既にモフモフ妖狐や、新しい仲間たちと幸せな日々を過ごしてますから。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します
mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。
中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。
私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。
そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。
自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。
目の前に女神が現れて言う。
「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」
そう言われて私は首を傾げる。
「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」
そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。
神は書類を提示させてきて言う。
「これに書いてくれ」と言われて私は書く。
「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。
「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」
私は頷くと神は笑顔で言う。
「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。
ーーーーーーーーー
毎話1500文字程度目安に書きます。
たまに2000文字が出るかもです。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる