6 / 56
終わりのためのはじまり
第一次接近遭遇・2
しおりを挟む現実のものでない映像が途切れる。それを見ていた時間は瞬きに等しいほど短かったはずなのに、とても長い時間に感じた。
視界の中でタキがこちらに再度手を伸ばしてきたのを見て、後退る。まだ視界が定まらない。夢の中にいるみたいにふわふわする。
頭の中に浮かんできた魔法陣を顕現させ、小さく呪を紡いだ。一時しのぎだけどやらないよりましだ。
伸ばされた手が静電気にでも触れたかのように弾かれる。タキが楽しげに笑みを深めた。
「へえ、やるじゃんアンタ。そこまでして隠そうとしてること、気になるなー」
『隠している』……そう、隠しているのだ。『シーファ』がほぼ恒久的に展開させている『魔法』――幻術によって隠されているのは、エルフの特徴。尖った耳を見られれば即座に人外であることがばれるから、『シーファ』はそれを隠した。
幻術は一度でも破られれば、同じものは効かなくなるらしい。今ここでタキに幻術を無効化されると、確実にエルフだとばれる。
『今ここで』ばれるのはまずい、と『記憶』が告げる。
なんなんだろうこれは。『シーファ』は思っていた以上に面倒くさい……じゃなかった、複雑な身の上だったらしい。
とにかく一旦タキから逃げればいいんだろうか。とはいえこの状況で何をどうすれば逃れられるんだろう。流石に人間に向かって強力な魔法を使うのは嫌なんだけど。そもそもタキは魔法無効化できるようだし。
これぞ袋小路? 八方塞? どうすればいいんだろう本当に。
とりあえず結界を解除しよう。ここはいわば隔絶空間になってるから、そのままだと他の人の介入も期待できないし。
札に向かって物質を消滅させる魔法を放つ。作成者=シーファ(私)の意思の元で放たれた攻撃だから、何の抵抗もなく届いた。ぱっと塵一つ残さず札が消え去る。
……この魔法、生物に向かって使えるとしたらものすごい凶悪だよね……。『記憶』からすると使えないこともないっぽいのが怖い。『シーファ』、使ったことあるのか……。
札が消滅すると同時に結界が解け、音が戻ってくる。鳥のさえずりとか人のざわめきとかそういうの。宿の食堂からだろう、食べ物の匂いも漂ってきて、そういえばお腹すいてるなーとか思った。
いや、それどころじゃないんだけどね?
結界がなくなったことにも頓着せず、タキは底の見えない笑顔でこっちを窺っているし。ちょっとでも隙を見せたら襲い掛かられそうだ。鷹とか豹とかそんな感じで。
方や笑顔、方や無表情で睨みあう。体感的には三十分位経った気がしたけど、せいぜい一分か二分くらいだろう。……精神力のポイント(ゲームのHPみたいなの)とかあったらガリガリ削れてるよ絶対。
どうにもこうにも仕様がない膠着状態を打破したのは、意外な人物の登場だった。
「……っシーファ!」
声と共に唐突に白銀が閃いて、タキが後方に飛び退った。
急いで駆けつけたんだろう、少し乱れた金髪。『シーファ』を庇うように立ったその手には抜き身の剣が握られている。
「レアルード……?」
なんでここに。
「ナイトのご登場~、ってか?」
ふざけた調子でタキが言うと、レアルードの纏う空気が鋭さを増した。……ていうかこれは明らかに殺気放ってるよね!? なんで!?
まあ傍から見て『シーファ』とタキが仲良しこよしに見えなかったのは確かだろうけど、殺気まで放つことはないよね? 牽制なら最初の一閃で充分だったはずだし。
そんなにタキが危険そうに見えたのかな……警戒はしてたものの生命の危機は全然感じなかったんだけど。
だって。
「レアルード、剣をしまえ」
どうしてだ、と言いたげな瞳をレアルードが向けてくる。それでもタキに対して警戒を怠らないのはすごいなぁ。意外とレアルードって戦い慣れしてる?
「殺気を向けるような相手じゃない」
言ってから、なんかこれじゃタキが雑魚だって言ってるようにも聞こえるよね、と気付いたけど、幸いにもタキもレアルードもちゃんと私の言いたいことを汲み取ってくれたみたいで、怪訝そうな表情になった。
さて、どう説明すべきか。
『シーファ』の記憶から分かったのは、タキは後々仲間になる人材だってことだ。
二人に本気で戦われるのは困る。人間関係に響くかもだし。
何故なのかはまだ分からないが、『シーファ』はこの『旅』を一度どころか何度も繰り返しているらしい。『ループ』してるのだと言ってもいい。
だからこの『旅』の最中に起こることの『記憶』がある。だけど『私』が『シーファ』の身体に入ったことで本来の『シーファ』がしない行動をしてしまったために、『シーファ』の予期しない出来事――今ここでタキに出会うこと――が起こってしまった。
どこまで『シーファ』が辿るはずだった(あるいは辿った)道筋を外れていいのかがわからないので、洗いざらい喋ってしまうわけにもいかない。というかそんなことしたらただの頭のおかしい人だ。
とりあえずうやむやにしちゃえばいいか。
「どう見えたのかは知らないが、彼は私に危害を加えようとしたわけじゃない。触れられそうになったのに、私が過剰反応してしまっただけだ」
一応、事実だ。実際タキは私を傷つける意思はなかったはずだし。
「じゃあどうして結界なんて張ってたんだ」
「少し一人で考えたいことがあって、」
「だったら別に部屋の中でも良かったんじゃないのか」
「外の空気を吸いたい気分だったんだ」
なんか糾弾されてるような気がするんですが。雰囲気が怖いよレアルード。
「なんで俺が戻るまで待たなかった? この男がそうじゃないとしても、他の誰かに襲われる可能性だってあっただろう。お前は体調を崩していたんだし」
「だから出るのは宿の敷地内のみに留めていたんだ。……そういえばレアルード、ピアは」
レアルードと一緒に行動しているはずのピアの姿が見えないと思って問いかければ、レアルードは「そんなことはどうでもいい」と言い放った。
え、ちょ、それはないだろうレアルード。ピアは弓術が使えるとはいっても女の子なわけで。そしてこの町は比較的治安が良い方だとはいえ、素行の悪い人々もいるわけで。というか曲がりなりにもパーティメンバーに対して『そんなこと』って……!
「いや、どうでも良くはないだろう。ピアはどこにいるんだ。宿の中か?」
それなら安心なんだけど、と希望的観測をもって訊いたのに、レアルードは表情すら変えずに「さあ」と言った。
「お前が魔法を使ったのを感じ取ってすぐここに向かったから……最後にいたのは雑貨屋だと思うが」
曖昧な言い方だ。きっと、殆どピアに意識を向けてなかったに違いない。……あんまりそう思いたくないけど、もしかしたら『シーファ』のことを心配していたからかもしれない。
多分、結界を解いたことで『魔法』の残滓を感じ取ったんだろう。レアルードは人の心の機微には鈍そうだけど、戦いに関することには鋭そうだ。
っていうか鈍いにも程があると思うんだ、レアルード。絶対ピアはレアルードと二人きりで喜んでただろうに。空気読もうよ。
「もしもーし、お二人さん?」
不意にかかった声に、はっとする。ちょっと存在忘れかけてた。
「何だ。用がないのなら去れ。用があっても去れ」
先に言葉を返したのはレアルードだった。っていうか、あの、ものすごい敵意を感じるんですが。用があっても去れってそんな。
「うわ、警戒心バリバリだなアンタ。……なあ、アンタ達旅人だろ? 話し聞いてる限り三人組の」
「…………」
レアルードは無言だ。さっさと消えろと言わんばかりの雰囲気だ。でもタキは全く気にする様子もなく言葉を続ける。
「一人は女だろ。で、そこの美人さんは魔法使い。アンタは剣士だな?」
にこにこ、というよりにやにやと笑うタキ。一体何が言いたいんだろうか。
「オレは一応剣士なんだけど、――オレを仲間に加える気、ない?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
義弟の婚約者が私の婚約者の番でした
五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」
金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。
自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。
視界の先には
私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる