13 / 56
終わりのためのはじまり
それは不可避の、
しおりを挟む改めて眠りについた翌朝の体調は、すこぶる快調とまではいかないものの、まあ旅に支障ないくらいには回復していた。
寄る予定の村までは一日かからないくらいの距離ということで、朝のうちにリリスの町を出るということは昨日話し合ってあったんだけど、あっさり出発というわけにはいかなかった。
昨日の前半の体調不良と夜中の悪夢による不調のせいか、やたらと心配してくるレアルードを軽くあしらい(まともに相手をすると出発を遅らせようとか言い出しかねないレベルだった)、突き刺さるピアの視線を意識から除外し、「抱えて行ってやろうか?」とかふざけたことを言うタキをいなして、どうにかこうにか町を出て。
道中は特に問題なく――私にちょっかいかけてくるタキと、それに不機嫌になるレアルードと、それに輪をかけて不機嫌になるピア、という何とも言い難い構図はあったものの――順調に進んだ道程の先、辿り着いた村は。
……略奪の真っ只中にあった。
泣き叫ぶ声がする。親を呼ぶ子どもの声。恐怖と嫌悪に震える女の声。子を守ろうとする親が逃げろと叫ぶ。それを嘲笑するかのように響く、下卑た笑い声。
簡素な木造の家の扉が破壊されて、見るも無残に傷ついた男性がそこから転がるように出てきた。――違う、投げ出された。
「……ッ!!」
息を呑んだレアルードが、今まさに連れ去られようとしている女性を助けるために駆け出す。一瞬後に別の方向へと走り出したタキが、すれ違いざまに「アンタらはここから動くなよ」と鋭く告げた。
……何、これ。
問いにすらなっていない思考に、『シーファ』の記憶が『盗賊による略奪』だと告げる。
……知っている。それとも、『知っていた』?
――そう、深く考えていなかっただけで、『私』は知っていたはずだった。この村が盗賊に荒らされる『運命』にあることを。
『シーファ』が幾度旅を繰り返しても、それを回避することはできなかった。旅の『はじまりの日』は決まっていて、『シーファ』はレアルードと旅に出ることしか許されてなくて、だからどうしてもこの村を救えない。
『シーファ』の記憶の中、何度も何度もこの村は蹂躙されて、荒らされて、搾取され、そしていつか再生する。生々しく、陰惨な光景を経て、『日常』を取り戻す。
そうであってくれと『シーファ』は願って、繰り返し繰り返し復興に手を貸した。気付かれないように、エゴであることを知りながら、己の持てる力を一握りだけ。それすら本当は赦されないと、身を以て思い知る。その繰り返し。
『シーファ』の苦しみを『思い出す』。まるで自分のことのように。
――なのに、どうして。
『私』は、目の前の光景を、遠い映画の出来事のように思ってるんだろう。
叫び声。悲鳴。人間が、殴られる音。
昨日の『血の色の声』より、生々しく身に迫る――そして『私』が体験したことのない、暴力で彩られた光景。
ショックを覚えて、悲鳴の一つでもあげて、逃げ出してもおかしくないこの光景を、どうしてこんなに平静に見ているんだろう。
混乱してる? ショックを受けて動けない? 自覚のないパニック状態?
そのどれもが違うのだと、どうしようもなく『分かって』しまう。
――……シーファ。
きっと、呼びかけても届かない名前を、唇だけで呟いた。
笑い出したいような、泣きたいような――心の中がぐちゃぐちゃでどうしたいのかすらわからない。
「……これも、『出来る限りのこと』のうち、か」
『私』の世界がここと比べてあまりにも平和で、平和すぎるから。
こんなふうに『私』の常識とかけ離れた光景が日常茶飯事に起こるから。
『私』の精神が壊れないように、狂わないように、『シーファ』は制限をかけたのだ。
『基準』を超えた感情が、『私』に認識されないように。
『シーファ』に悪意なんかなくて、全くの善意によるものなのは分かってる。
……だけど、この、今の『私』の状態が。
『異常』で、『怖い』としか、思えない。
『感覚』でそうあるべきだと思う『自分』と、実際の『自分』が乖離する。
無意識に握りこんだ指先が、震えている。なのにただ荒らされる村の様子を見続ける自分がいる。
気持ち悪い。怖い。いやだ。なんで、こんな、――
「――離してッ!」
唐突に近くから聞こえた怯えを含んだ声に、はっと我に返る。
いつの間に動いたのか、村の奥に近付いていたピアが、屈強な男に捕まえられていた。なんとか拘束を逃れようともがいているが、相手はびくともしない。
近くにはレアルードの姿もタキの姿もない。何人か盗賊と思われる男が倒れているところを見ると、この辺りを制圧した後に奥に向かってしまったらしかった。ピアを捕らえている男は、タイミング悪くレアルード達と会わずにこちらに来たんだろう。
タキが「動くな」と言ったのは、私とピアが近接戦闘に長けていないからだけじゃなく、ちょうどこの場所が死角になるからでもあったのに――どうしてピアはあそこにいるんだろう。
思考に沈んでピアに気を配っていなかったことを悔やみつつ、自分のとるべき行動を考える。
やみくもに出て行っても勝算はない。まったくできないわけじゃないけど、『シーファ』は接近戦に向いてない。かと言って、魔法を使うには二人の距離が近すぎる。『シーファ』の『魔法』は基本的に範囲指定だから、巻き込まないで済む保証はない。やりようによっては不可能ではないかもしれないけど、細かい指定までできるほど『私』はまだ魔法に慣れてない。
「離せって言ってるでしょ!? はなッ――」
不自然に途切れた声に目を凝らすと、当身でも食らわされたのかぐったりとしたピアを、男が抱え上げるところだった。
このままだとピアもこの村の人達のように連れ去られてしまう。多少巻き込むのを覚悟で『魔法陣』を顕現させかけたところで、
「おっと、オイタはダメだぜェ、『シーファ・イザン』?」
一瞬で背後に現れた圧倒的な気配と、楽しむような声、そしてねっとりとした『闇』が視界を覆い潰すのを認識したのを最後に。
『私』の意識は、途切れた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
義弟の婚約者が私の婚約者の番でした
五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」
金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。
自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。
視界の先には
私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる