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終わりのためのはじまり
『世界干渉力』
しおりを挟む――違う。
殆ど反射的に、強く浮かんだのは否定だった。
『変えられない』わけはない。『変えられない』のなら、私はとっくに運命に屈している。
これは絶対則なんかじゃない。
変えられる、はずなのだ。変えることを諦めなかったから、シーファは繰り返しながらも変え続けた。辿る道筋を。
それが、つくられた『運命』を壊すいつかを、夢見て。
「――ユールと会ったようだね」
不意に聞こえた声には、驚かなかった。
知っている。覚えている。彼と交わした言葉を。
だから、観察するように視線を向けてくる彼に、頷いた。
「あれは、貴方が?」
絶対的に不足した言葉を過不足なく汲み取って、向かいの椅子に忽然と現れたゼレスレイドは首を振る。
「いいや、私は何も。部屋に閉じこもってばかりで、外界と接触を持とうとしないあの子が自ら部屋を出て向かった先が君のところだったから問うたまで。どのような言葉を交わしたのか、そもそも会話が為されたのかも知りはしないよ」
「交わした会話に貴方が興味を持たないとは思えないが。『賢者』の方」
「そのように大仰に呼ばれるのは好かない。それから、興味はあれど、私は自らの分を弁えているつもりだ。あの子が触れようとする物事は、恐らくは私の手に余る。私は世界の理に不用意に触れたがために、このような姿となった。世界がわたしの在り様を見失い、時と共に成長するという理が失われた。『賢者』などと称されていても、ただのおろかものにすぎない。同じ過ちを二度繰り返すまでに落ちぶれたくはないのでね」
「……成程」
記憶にある通りの返答に、やはり彼は変わらないままなのだと知る。
『ユール』という特異な存在を身近に置いていても、その『ユール』の特性によって彼に変化がもたらされることはない。
「それにしても――」
空気を変えるように、少しばかりのわざとらしさを伴ってゼレスレイドが口を開いた。
「驚かないのだね?」
それが何に対しての言葉なのかは分かっているから、私は苦笑する。
「それくらいのことで驚くようなら、そもそもここに寄越されはしないだろう」
「それはそうかもしれないね。だが、タキはともかく、君は『証』持ちでも何でもないのだろう?」
「――分かっていて問うのは、趣味が悪いと思うが」
私の言葉に、ゼレスレイドはゆったりとした笑みを浮かべた。
「話しやすいようにと、水を向けたつもりだったのだがね?」
「そう易々と口にできるようなら、初めから伏せたりなどしていない」
「まあ、それも真理の一つだろうね。――では真正面から問わせてもらおう。君は『世界干渉力』の保持者だね? それも、意識的に揮えるほどの」
前置きの通り躊躇なく核心に触れる――その思い切りの良さに、なんとなく笑いたくなった。やっぱり『シーファ』の表情には出ないけれど。
「その言い方は、答えるまでもなく確信しているのだろう」
「否定しないのなら、肯定と取らせてもらっても?」
「構わない。そういうつもりで答えた。……貴方を相手に誤魔化せるとは思っていない」
「それはまた、過大評価をされたものだ」
「世界の理に一度でも触れたのなら、この力に気付かないはずがないと知っている。意識的に揮えるという点まで感知されるとは思っていなかったが」
「意識的に揮えない人間の例を見ているからね。それとの差異から推測したというだけのことだ」
いつかの『過去』に、そして『未来』に交わした会話。
そして、その時にはなかったやりとりも、また。
「『意識的に揮えない人間』とは――タキのことか」
「その通り。君も気付いていたのだろう?」
気付いていたか、いなかったかでいうのなら、気付いていた。
ただしそれは、今までとの差異として――『世界干渉力』を保持したままだという認識だったけれど。
確信を持って同意を待つゼレスレイドに、望む通りの答えを返す。
「……ああ」
「あれの在り様もまた、興味深く、不可思議で、不自然だが――私の触れられる領域ではないからね。『世界干渉力』は、それを持たない人間の分を超える」
だからタキには何も訊いていないよ、と、言外に伝えられる。
「ただ、そうだね。君には言っておいた方が良いかもしれない」
「……?」
「あれが『世界干渉力』を保持したのは――否、あれから『世界干渉力』が感知できるようになったのは、そう昔ではない。少なくとも、初めてあれに会ったときには、『世界干渉力』は感じられなかった。後天的に得たのか、他の理由で力が現れたのかは私には与り知らぬことだがね」
……それは。
それは、つまり。
『ジアス・アルレイド』が、一度『今まで』と同じ行動をしながら、あえて『世界干渉力』をタキに戻したということだ。
何のために、何の目的で――なんて考えたとしても答えなど出ないと知っているから、すぐさま思考を打ち切る。今すべきは、ゼレスレイドとの対話――確認だ。
「――一つ、確認したい」
「何なりと」
「貴方が初めて会った際のタキは、『剣士』だったか? 『魔法剣士』だったか?」
私の問いに、ゼレスレイドはふっと愉しげに笑んで。
「きちんとした魔法素養のある、魔法剣士だったな」
――そう、答えた。
……ああ、やっぱり。
『ジアス・アルレイド』は、『今まで』通りだったタキの魔法素養と『世界干渉力』に関して、何らかの意図で以て変更を加えたのだ。
今のタキが『魔法剣士』であるかどうかについては現段階では不明だけれど、少なくとも今回の『過去』においては『魔法剣士』だった時期がある。
その後に加えられた変更が、どんなふうにタキの在り方を変えたのかは、未だ分からないけれど――確かなのは。
タキは、意識的に揮うことが可能な強さの『世界干渉力』を保持しているということ。
それはつまり、今回の旅において、タキをパーティから脱退させるわけにはいかないということに他ならない。
限りなく低いけれど、完全に否定はできないタキ自身に及ぶかもしれない危険と。
そして、『シーファ』自身の利己的で最低な、どうしようもない身勝手な理由のために。
――何よりも優先すべきは『悲願』の達成だと。
呪縛のように響く声に耳を塞いでしまえればと思うのがどちらのものなのかは、分からなかった。
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