異世界チェンジリング

空月

文字の大きさ
35 / 56
旅路をなぞる

異分子

しおりを挟む



 「ここまで足を踏み入れた人間を、しかもずいぶんと面白い素養を持っている人間を、まさか見逃すわけがないじゃないか。とうにキミ達は檻の中だよ? 気付いてないだなんてそんなことはないだろう――ねぇ、『魔法使い』?」


  向けられた視線に含まれた声無き言葉が何を示すか、分かったのは多分私だけだっただろう。

 (そうか、『今回』は知っている・・・・・のか)

  ――だったら、多少の痛手を被るのは覚悟しておくべきか。


 「この森の大部分がそちらの手の内であることならば、気付いている。だが、出ることが不可能というわけじゃないだろう」

 「それは宣戦布告ということかな、『魔法使い』」

 「事実を言ったまでだ」


  返した言葉に、愉しげに瞳を細められる。それを見たくなくて視線を逸らせば、図ったようなタイミングでタキが肩を引いてきた。僅かに焦ったような、それでもひそめられた声が耳元をくすぐる。


 「おい、シーファ、挑発してる場合か!? アイツ、間違いなくヤバイだろうが」


  ああ、うん。焦る気持ちは分からないでもない。前知識がなくても、目の前の存在から溢れ出る禍々しい『魔』の気配は感じ取れるだろう。『魔族』という存在に今まで触れたことがなければ尚更、それは脅威として映る。


 「そうだな、危険な存在であることは間違いない。――彼は『魔族』だ」

 「……ッ!」


  告げれば、タキは息を呑む。レアルードもより緊張を高めた。
  粗方察していただろうけれど、確定したとなればまた違うのだろう。

  相手がまだ行動を起こさないのを確認しながら、脳裏に魔法陣を浮かべる。初撃を防がなければ、私達に活路はない。『シーファ』の支援があってこそ、この序盤で『魔族』とやりあうことが可能になるのだ。
  勇者として成長したあとのレアルードとかもうちょっと経験を積んだタキとかならともかく、普通の人間であれば嬲り殺しにされるのが関の山だ。

  まあ、この目の前の彼はそういうのを好まない方だから、せいぜい玩具扱いの末に『使える』部分だけ吸収されて殺される程度だけど。……あれ、嬲り殺しの方がマシかも? いや似たようなものか。


  考えつつ、タキに目線で立ち位置をずらすように訴える。近すぎてこのままじゃ立ち回れないし(まあいざ戦闘に入りそうになったら即座に移動するつもりだったんだろうけど)、私もちょっと移動したかった。

  意図を汲んでタキが立ち位置を変えてくれたのを把握して(やっといてなんだけど、アイコンタクト成功すると思わなかった。タキの洞察力すごい)、レアルードの方へ移動する。
  警戒態勢のままこちらを気遣うような気配を見せたレアルードに、先のタキのように声を潜めて囁く。


 「レアルード。初撃は必ず防ぐが、その後は保障できない。ピアを頼む」

 「……お前は大丈夫なのか」

 「私は『魔法使い』だ。『魔』への耐性そのものはこの中の誰よりもある」


  だから大丈夫だ、と伝えたつもりだったんだけど、レアルードは何故かあからさまに険しい顔になった。
  警戒態勢なのも相まってぶっちゃけ怖い。ほら身長差とかあるし威圧感が……。

  とか内心引け腰になりつつ、なんでそんな表情をするのか訊こうと再度口を開いた瞬間。


 「――さて、そろそろ仕掛けてもよいのかな?」


  疑問の体で――だけど明らかに答えなんて求めてない言葉宣戦布告を放って、『魔族』たる彼は『小手調べ』を仕掛けてきた。
  それは彼にとってのみ『小手調べ』であって、このパーティメンバーにしてみれば瀕死一歩手前くらいには十分の威力を持っているのだと知っている・・・・・

  だから私は、それを防ぎきることが可能なのだ。

  『呪』も紡ぐ間すらなく顕現させた魔法陣が――それが為した結界が他の皆を護る役目を果たしていることを確認して、内心ほっとする。防げることは確信していても、心臓に悪いことには違いない。

  じわりじわりと締め付けられるような痛みが自身を苛むのを自覚する。偏頭痛に近いような気もするけどもちろん違う。というか理由は明白だ。


 「おや、防ぎきるとは。口だけではないようで何よりだ、『魔法使い』」

 「そう言われるような大言を口にした覚えはないが」


  そんな会話をする間も、防御のための結界が不可視の圧力に軋む。それと同じだけ、痛みの強さも増す。
  ……ああ、本当に、どうしようもない。


 「それよりも、随分顔色が悪いようだ。無理せず――抗うのを止めて・・・・・・・くれても構わないのだよ?」

 「そんな提案に乗るはずがないだろう」


  反射で言葉を返しながら、確信する。……やっぱり今回の彼は、という存在について知っている。

  『シーファ・イザン』という存在が、絶えたはずのエルフの末裔であること――それから、何のために一人残され、今こうして旅をしているのか、を。


  それは間違いなく『魔王』が為したことで。
  規則性のない『知っている』彼と『知らない』彼に戸惑ったのも、もう遠い昔のことだ。


  一番最初は、もちろん知らなかった。だって、『魔王』も知らなかったから。確証を得たのは、多分最後の戦いの時だったはずだ。
  その次は、知っていた。ただでさえ『二度目』の旅に混乱していたシーファが、目の前が真っ暗になるような絶望を覚えたのが記憶にある。
  その次も知っていた。その次は知らなかった。その次は知っていて、次の三回は知らなかった。六回連続で『知っている』彼と出会った後、シーファは彼が知っていても知らなくても、どちらでも同じことだと思うようになった。
  彼と戦うという出来事は、ただの通過点――倒すことは変わりないのだから、と。

 (――そう。だから、)

  可能な選択肢と、その先の道筋を頭の中で並べ立てて。
  『不自然でない』流れを選ぶのだって、造作無い。


  結界が壊れる予兆を感じた瞬間に、二つ目の魔法陣を顕現させる。空間が揺らぐような感覚と同時、あちら側に異形が出現したのを確認する。
  発した声は、内心の平静からかけ離れて、随分と切羽詰って聞こえた。


 「レアルード、聖剣を抜け!」

 「なっ、……聖剣をか!?」

 「本来の力は出せないと言えど、それは『魔』の天敵だ。牽制に使える!」

 「ッ、分かった!」


  視界の隅で聖剣の輝きを認めて、次の手を考える前に口に出す。


 「タキ、レアルードの補助を! レアルードは両手剣使いだ、君のように双剣で戦えない」

 「了解。……ついでにピアの補助も、だろ」

 「分かってもらえているなら説明する手間が省けて助かる。頼んだ」

 「まともにやり合うつもり――じゃねぇんだろ? 成功率は?」


  撤退するつもりなのを察したらしいタキに、意識して浮かべた笑みを向ける。


 「百にするさ。でなければ選ばない」

 「心強いこった――そっちは頼んだ!」


  言葉とともに立ち位置を変えたタキを確認して、三つ目の魔法陣を顕現させる。――『今』で許される、ギリギリの拘束魔法。


 「悪いが、少しだけ不自由な思いをしてもらう。大人しくしていてもらおう」

 「構わないけれど――気づいていないのかい、『魔法使い』」

 「……?」


  不可解な言葉。思わず目線を合わせてしまった『魔族』は、不可視の鎖に囚われているというのに、やっぱり愉しそうな顔をしていた。


 「気づいていないのならそれはそれで、とても面白い――気づいた時のキミがどのような顔をするのか、興味がある」

 「……何を、言っている」

 「それを見ることができないのが、残念だ」

 「だから、何を――」


  自分の分からないことを、知ったように口にされる苛立ち。重ねようとした問いかけは、形になる前に宙に消えた。



  ――『魔族』を、背後から貫いた、人物によって。


  どうして。
  ……どうして、あなたが、ここにいる。

  常では背に負っている大剣を、軽々と片手で扱って。
  串刺しにした『魔族』を、振り捨てるように地面に落としたその人は。


 「――『闇の人シス・ディエッダ』……?」


  ここでは絶対に会うはずがないと、ましてや手なんて貸すはずがないと、――少なくとも『記憶』の中ではそうであった、人だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした

五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」 金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。 自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。 視界の先には 私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

処理中です...