異世界チェンジリング

空月

文字の大きさ
40 / 56
旅路をなぞる

レームの町での日々・2

しおりを挟む





  レアルードが案内してくれたお店の食事は美味しかった。シーファが食べ物を食べるのは、実のところ味を楽しむ以外の理由はあってないようなものなので、美味しい食事というのはとても嬉しい。エルフだかららしいんだけど、ご飯を食べることでの満腹感とか幸福感が得られないのだ。うまく言えないんだけど、とりあえず食べたり飲んだりすることでの幸せは半減どころじゃない。美味しいか美味しくないかとかは判断できるくらいの味覚があってよかった。これで何食べても同じ感覚しかしないとかだったらさすがにやってられない気分になったと思う。

  そんなこんなでのんびり食事を終えて、買い物を再開した……のはよかったんだけど。


 「おにーさん、かっこいいね! ここらじゃ見ない顔だけど、旅の人? どこから来たのー?」


  ちょっと薬草専門の店を覗くために離れただけだった。すぐに目的のものがあるかは確認できたので、実際離れてた時間っていうのはそんなにないはずだ。
  だというのに、レアルードが目の前でナンパされているのはどうしたことだろう。

  ……いやナンパと決め付けるのは早い。ちょっと世間話してる可能性もある。初対面だとしたらハードル高いんじゃないかと思うくらいの近付き具合なのはとりあえず目を瞑るとして。

  ええー……これ声かけるの? かけなきゃダメなの? モーションかけてます!な雰囲気の中空気読まずに割り込むべきなの?
  ……まあでも一応連れだもんなシーファ……置いていくわけにもいかないしな……。

  ちょっと気が進まないながらも声をかけることにして、近付く。


 「シーファ!」
 「レアルード!」


  ……こちらが声をかける前に、レアルードが気付いた。
  そしてその呼び声に重なるように、聞き覚えのある声も。


 「……ピア?」


  レアルードが軽く目を瞠って呟いたのが耳に入る。
  そう、その声の主はピアだった。駆け寄ってくる姿は待ち合わせていた恋人の元に走り寄る女の子さながらだ――とかいうふうに見えるのは、私がピアからレアルードへの矢印を日々痛感しているせいだろうか。

  目の前で可愛い二人の女の子によるレアルードの取り合いじみたものが繰り広げられるのを見ながら、ちょっと遠い目になった。

  レアルードは、どこからどう見ても西洋風美形だ。だから、こういう風景を見ることは珍しいことじゃない。
  なんというか、王子様……じゃないな、騎士っぽい雰囲気があるのだ、レアルードは。『私』の知識の上でだけど。つまりは高貴そうな顔立ちっていえばいいだろうか。その辺の有象無象にはない魅力があると思う。でも近寄りがたいわけじゃなく、気さくそうな感じがするのでよく声をかけられる。
  ちなみにこれがタキだと、気安いけれどどこかミステリアスな雰囲気、となる。危険な男っぽい感じだろうか。
  ……シーファ? 近づきがたい美貌ってところだろう。しかも女の子には敬遠されて何故か男を引っ掛ける系だ。

  ともかく、レアルードはモテる。初見さんでもちょっと声かけてみちゃおうかなーってなる程度には外見だけでも魅力的だ。まあ、それはパーティメンバーみんなそうかもしれないけど。それぞれタイプは違えど整った顔をしてるし。

  そしてこういう状況に陥った時、私のとる行動は二つに一つ。
  合流するか、そっと姿を消すかだ。

  しかし今回においては、レアルードに既に気付かれているので後者はちょっと選びづらい。だってそれってつまり見捨てるようなものだし。
  かと言って普通にあの中に割り込むのもなあ……ナンパ(仮)してた女の子はともかく、ピアがどういう反応するかはなんとなくわかるので躊躇してしまう。

  なんて思案している間に、ナンパ(仮)してた女の子が離れていった。もともとの知り合いが現れてしまったのなら分が悪いと思ったんだろう。
  ……あれ、よく考えるとさらに割り込みにくくなってしまったような。


 「すまない、シーファ」


  さてどうしたものか、と考えてたら、レアルードがピアを引き連れてこっちに来てしまった。
  ……うん、気持ちはわかってるからそんな邪魔者を見るような目で見ないでくれないかな、ピア。一応元々の同行者は私だからさ……。

  最近はもう、如何にしてピアを刺激しないかという方向で付き合い方を考えるしかないかと諦めつつある。明らかなライバル視にどうしてこうなった、って気分ではあるんだけど、仕方ないのかもしれないと思う面も確かにある。
  先日の『魔』に浸食された森から帰ってからしばらくは、レアルードはシーファにべったりだった。過保護再来もいいところだった。
  好きな相手が、自分以外の特定の人物ばっかり気にしてたら確かに面白くないだろう。それが想い人と同性(実際は違うが)であっても。
  だからまあ、ある程度はピアのこういう態度については目を瞑ろうと思っている。思ってはいるけど、好き好んでこういう態度を取られたいかって言ったら取られたいわけがない。
  なので極力、関わらない方向性でいきたいところなのだけど、そうは問屋がおろさない。というか「レアルードと関わる=ピアを刺激する」なのでどうしようもない。

  ちなみに今日は、シーファが使った消耗品の類を補充がてら買い物に行くと言ったら、自分も用事があるから同行するとレアルードが申し出たのだ。さらに言うなら、その場にピアはいなかった。
  そこからどこをどうしてこの場にたどり着いたのかは、とりあえず愛の為せる業なんだろうと思っておく。

  レームの町では、最初の頃はともかく、今は比較的自由行動だ。いい集団用依頼があったら他の人達にお伺いを立ててから受けたりはするものの、ひとまず個人である程度依頼をこなすことにしている。依頼とかで得たお金の一部は旅の費用として共用資金に入れてもらうけれど、それ以外のお金は個人のものになる。
  共通して使うような消耗品とかは共用資金で買うけど、個人の武器とか防具とか服は個人資金で買うということで話はついた。食事については、レームの町では個人資金から出すことになっている。長めの滞在だと決まっているからだ。

  シーファは、便宜上だけど薬師みたいなことをして暮らしていたので、薬草とか薬とかの出来不出来を見分けるのに長けてるし、そこそこいろんなものの相場を知っている。だから、というのもなんだけど、共用のものの買い出しは基本的に私が行くようになっていた。時々タキもついてくるし、今回みたいにレアルードが同行することもある。
  今回は特に嵩張るものもなかったし、一人で行くつもりだったんだけど、同行を断る理由もなかった。……今まさに、それを後悔しているけれど。

  ……傍目から二人を見てる分には、「お似合いだなぁ」で済むんだけどなぁ……。


  内心溜息を吐きつつ、如何に自然に離脱するかを考えながら、レアルードと当たり障りのないやりとりをする。
  ……ちょっとだけ、なんでこんなことに、と思ったのは、秘密である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした

五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」 金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。 自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。 視界の先には 私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

処理中です...