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無理やり転校編
当事者ほど落ち着いているのもよくあること
しおりを挟む「とりあえず。ちょっと話聞いて、兄さん」
「…………」
「すごい顔になってるけど、落ち着いて。ちょっと話そう。――隣のよくわかんない部屋借りるけどいい?」
「休憩室のこと? いいけど……」
「明らかに教室付属の休憩室とか何であるんだとかつっこみたいけど今は止めとく。兄さん、行こう。――あんたらはついてくるなよ」
「……そこまで空気読めなくはありませんよ」
「一応釘は刺しとかないと。じゃ、またあとで」
+ + + + +
「嬢さんたち行っちゃったけどいいわけ? 説得するんじゃなかったのか?」
「あの状態じゃ、話聞いてもらえませんからね。宥めてくれるつもりのようだし、邪魔をするわけにはいかないですから」
「……? なんかあんたら揃って妙に沈んでるけど、何かあったのか?」
「君には関係ないよ」
「いや、まあそうだけどさ。なんでいきなりそんな神妙な感じになったのかとかは気になるのが人間ってヤツだろ?」
「気になるからって他人の事情にズカズカ踏み込もうだなんて、思慮に欠けるね」
「カンナっ!」
「何、ユズ止めるつもり? なんで無関係の奴に気を遣わないといけないの。僕が元々こういう人間が嫌いなの知ってるよね」
「――口調」
「……っ!」
「レンリも、そんな怖い顔しなくても……」
「放っておいた方がいいですよ、ユズ。二人ともちょっと冷静さが足りてないみたいですから」
「ミスミまで……」
「――……あー。えーと、何これ、もしかして俺のせい?」
「違うよ。きっかけではあったかも、だけど……」
「……よくわかんねぇけど、ちょっと気になっただけで本気で首つっこむ気はなかったんだって。今更言っても遅いけど」
「……。……そんなの、最初からわかってたよ」
「……」
「…………」
「………………」
「……………………」
+ + + + +
「――…兄さん」
「言っておくが、あいつらに謝る気などないからな」
「わかってるよ。謝って、って言うつもりもない」
「…………」
「でも、あまりあいつらを苛めないでやって。兄さんのほうが年上なんだから、大人気ないことしない」
「だが、」
「もう時効なんだって、あのことは。そうやって兄さんが苛めるから、あいつらはいつまでも気に病んじゃってるんだし」
「……いつまでも気に病めばいい。それだけで我慢してやろうと言うんだ、むしろ感謝されても良いくらいだろう。本当は二度とお前に近寄らせたくないというのに」
「兄さん……」
「直接の加害者でなくとも、あいつらが原因の一端を担ってるのは事実だろう。それを理解できる頭がありながら、お前の傍に居続けようとするのが気に食わない」
「兄さんの心配もわかるけど、私はもう子供じゃない。自分のとった行動の責任は自分で取れるよ」
「……それでもお前は俺の可愛い妹で、家族だ。心配をして何がいけない」
「いけないなんて言ってない。心配してくれるのは嬉しいよ。……でも、あいつらにだって、前に進む権利はあるから」
「…………」
「それにちょっと協力するくらいは良いでしょう? ここに入れられたのもその一環だったんだし」
「……強制的に、だったんだろう」
「まあ、それはそれとして。ちゃんと自分で怒ったから別にいいかなって。多分色々不安定になっちゃってるのもあったんだろうし」
「『好きな子がいる』とか言っていたな」
「そう。色々聞いたし、実際にも見てみたけど、本当に普通の子だったよ。普通の、可愛い女の子」
「――『普通の』、か」
「『普通の』、だよ」
「放っとくより、手助けする方がこっちの精神衛生上も良いし。まあ、悪いことにはならないだろうと思って」
「……もう、決めたのか」
「うん、決めた。ごめんね、兄さん」
「奏は、――許可を出したんなら、認めるってことか」
「これから先を考えて、なのかもね。あいつらがどうやったって、奏兄さんが納得しなきゃ転校なんて無理だっただろうし」
「で、俺は『釘』だったわけか」
「そうだね。多分」
「俺もだが、あいつも十分前に進めていないと思うぞ」
「奏兄さん、隠すのだけはうまいから」
「……そうだな」
「兄不幸な妹でごめんね、兄さん」
「いや、……俺たちが、いつまでもあの頃と同じなつもりでいるのが悪いのはわかってる。だが、どうしても、な」
「本人より周りの方が、っていう良い見本だね」
「――本当に、な」
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