【完結】±Days

空月

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VS馬鹿ども 思惑渦巻く舞台袖編・2

それはきっと裏腹の

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 彼は目的の人物を待ちながら、イライラとする自分を自覚していた。
 待っていることそのものにイライラしているわけではない。目的の人物を確実に捕まえるために己で選んだのがこの方法だったのだから、イライラするのはただの馬鹿である。
 彼がイライラしているのは、待ち人当人――もとい、その周辺と、振る舞いについてだった。そもそもそれがあるからこそ自分はこうして出向いているわけで、出向かざるを得ない状況にまで陥った原因を考えると溜息しか出ない。

「……あれ? 社くん?」

 顔を上げる。思い描いていたとおりの待ち人がそこにいた。兄にとって無くてはならない人であり、自分や他の家族にとっても、浅からぬ縁のある彼女が。

「やっと来ましたか。……というか何ひとりでふらふらしてるんです」
「会って第一声がそれなの? 相変わらずだね」
「然るべき時には然るべき挨拶をしますよ。今日はそんなまだるっこしいことをしに来たんじゃありませんから」
「すごく嫌な予感がするんだけど」
「良かったですね。予感的中ですよ。――伝言役を任されました。『協力体制は整っています』と」
「……伝言役ってことは、」
「詳細に言ってほしいですか? 貴方はそれほど察しの悪い人間ではなかったと思いますが」
「言わなくていいよ。……というか、なんだか毒舌に磨きがかかってないかな」
「そうかもしれませんね。それなりに、イライラしてるもので」

 目を細めて見遣れば、兄の幼馴染たるその人は肩を竦めた。

「先に弁解しておくと、一人に見えるだろうけど一人じゃないから」
「そちらに対しては心配していません。そこまであの人たちが抜けてるとは思いたくないですから」
「じゃあ、何?」

 わからないふり、気づかないふり。そういうものだけが上手くなっていく彼女に、言いようのない苛立ちを覚え始めたのはいつだったか、自分でも覚えていない。
 自分は苛立ちだったし、すぐ下の妹は罪悪感と慕情だった。末の弟妹についてはどこまできちんと理解しているかもわからない。懐いているのは確かだったけれど。

「今回の件の、概ね全てにです」
「それはまた、範囲が広いね」
「勿論貴方も入っていますが」

 そう言えば、彼女は苦笑する。……苦笑することに、また苛立ちが募る。

「……どうして」

 問うつもりはなかった。答えなど予想できていたし、それで自分の苛立ちが解消されるとも思っていなかった。

「どうして、そのままでいるんです」

 圧倒的に言葉は不足していた。それでも含まれた意味を違わず拾い上げ、彼女は困ったように眉尻を下げた。

「そうだね、……後悔してるから、かな」

 内緒にしてて、と場の空気を塗り替えるように彼女は笑った。笑みなど返せるわけはなく、ただせめてもと言葉を紡ぐ。

「貴方がそういう人間であることはもう仕方がないと思っていますけど――誰も言わないから、僕が言います。貴方はばかです」
「…………」
「そして兄たちは、もっとばかだ。そんなばかは、見捨ててしまってもいいんです。貴方が責任を感じることじゃない。貴方は全部忘れて、幸せになっていい」
「その選択肢は、とっくに捨てたから」
「今からだって選べます。貴方さえ望めば」
「望まないから、今があるんだよ。後悔してるのは、自分に対してだから」
「……やっぱり貴方は、ばかですね」
「そうだね。――馬鹿なんだろうね」

 彼女はまた笑って、自分は笑わなかった。
 笑う彼女の目を閉ざして、全て忘れさせてしまえればと思う。そうすればこの胸の苛立ちは無くなるのだとわかっていた。
 そうできるはずもないのだということも、わかっていた。
 結局のところ、自分も兄たちと同じなのだと、ただ愚かなばかりなのだと自嘲する。

「ばかはばかでも、あなたは前を向けるばかでしょう。経験から学習できるばかでしょう。差し出された手を利用できるくらいには――利用していい手を判別できるくらいには、変わったはずです。そうであることを期待していますから、せいぜい愚兄たちが暴走しないようお願いしますね」
「本当、相変わらずだね。……善処するよ」

 それが口先だけの耳障りのいい断り文句でないことを祈るけれど、そうでない比率なんて半々なのだとわかっていた。わかっていたから、また苛立ちが募る。
 会えば会うほどに苛立ちが募るのに、それでも彼女への伝言役を妹に任せなかった理由など――とっくの昔に自覚していた。


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