【完結】±Days

空月

文字の大きさ
74 / 75
EXTRA(番外編)

【IF】彼女と三笠 もしもの出会い編

しおりを挟む


「お嬢さん、こんにちは。俺とお茶しません?」

 歩き慣れた帰り道をのんびり歩いていただけなのに、突然見知らぬ見目の良い男がそんなことを言ってきたら、警戒するのが人間というものだろうと上総叶は思う。
 その思考に準じて、思いっきり警戒を載せた視線でその男を見遣れば、それが正しく伝わったらしい男は肩を竦めた。

「俺そんなに怪しい?」
「……①この辺りで見かけたことのない人物である。②この辺りはナンパの定番スポットとかではない。③見目がよくて人当たりのいい笑顔を貼り付けている男にろくな人間がいないという経験則――などなどから、警戒するに値する人間だと判断しました」
「①②はともかくとして、③は本当にただの見目がよくて人当たりがいいだけの男がかわいそうすぎない?」
「その返しをする時点で、あなたがそうではないことは確定しましたから、かわいそうじゃありませんね」
「……なるほど、そういう感じなワケね、お嬢さんは」

 何かに納得する男の、その自分への呼びかけがむず痒くて、叶はつい口を出す。

「お嬢さんお嬢さんと言いますが、あなたそんなに歳変わらないでしょう」
「おっ、鋭い。でも自己紹介をし合ってない状態で名前呼んだらおかしいだろ?」
「その発言が、あなたが一方的に私の名前を知っているという事実を示しているのですが」
「おっと失言」
「絶対わざとだったでしょう、その顔を見るに」
「一方的に名前を知られてる事実を察したわりに、逃げたりしないんだ? 俺ストーカーとかかもよ?」

 面白そうにそんなことを言われたので、叶は渋面になった。

「たとえば万が一あなたがストーカーだったとしたら、逃げたところで住所諸々バレているんでしょうから意味が無いですし、そもそも平均的足の速さの女子生徒と背が高くて足も長い男ではやる前から勝負が見えています」
「つまりお嬢さんは『これはどう見ても逃げられないから話し合いで円満なお別れを目指そう』みたいな思考で俺と話してくれてるワケ?」
「そうですね、大体合ってるのがこわいですね」
「俺、人の思考読むの得意だから」
「それを自称できるところがますますこわいですね」
「もしかして俺、初対面でディスられてる?」
「一方的にこちらの名前を知っている、大枠ではストーカーだろう人間に対しては妥当な反応だと思いますが」
「……ふぅん、なるほど。俺を試してるワケか」
「…………」

 呟くように言われた言葉は図星だったので、叶は慎ましく無言という選択肢をとった。
 相手は一方的にこちらを知っているようだが、叶の側からすると情報が何もない。それこそ『見目がいい』『胡散臭いくらい人好きのする笑みをしている』『怪しい』くらいしかない。
 だから、あえて率直な意見――ふつうこんなふうな初対面だったらしないであろう反応をすることで、相手の出方を窺おうとしたのだが、自称のとおり『人の思考を読むのが得意』な男にはバレてしまった。
 叶は諦めて、直球で訊ねることにした。

「あなた、何の目的で私に声をかけてきたんです?」
「お茶に誘ったのが目的とは思わないんだ?」
「ここまでの会話しておいて、それが目的だと思える頭はしてないので」

 とは言いつつ、叶はおおよそ目的の検討はついていた。叶が知らない人間が、叶のことを知っているとき、その原因は大体二つにわけられる。
 つまり――叶の家族関連か、幼馴染関連かである。
 そして男の年代的に、家族関連の可能性は低い。となれば、元々確率の高い幼馴染み関連と考えるのが妥当だった。

「あなた――清和か仁賀か西条か遠上かに心酔してるか恨みがあるかのタイプには見えませんね。もしかして興味本位で近づいてきたタイプですか?」
「――おお、ご名答。なんでわかった?」
「心酔してるタイプも恨みがあるタイプも、加害性が目に出るので。あなたはそういう感じがしない――あと、知り合いの享楽主義者に似てる気がしたので」
「なんか最後の判別方法、ちょっとヤなんだけど」
「はあ。私の主観なのでそこを嫌がられてもどうしようもないですね」
「ばっさりだなー」

 「ヤなんだけど」と言ったときにはちょっと眉根を顰めていた男だったが、「ばっさりだなー」の段ではどこか面白がるような瞳に変わっていた。
 そういうところが享楽主義者っぽいんだけどな、と思いつつ、口には出さない。

「んじゃあ改めまして。俺は三笠樹。あんたの幼馴染四人組と同じ学校に通うただの男子生徒だ。よろしく」

 自分に辿り着いた時点で、絶対『ただの』じゃないんだろうな、というのもやっぱり口には出さず、叶は名乗られたからには仕方ないので名乗り返すことにした。

「上総叶です。よろしくしなくていいです」
「そこでそう言う?」
「むしろこう言う以外の選択肢が?」
「こっちはよろしくって言ってるってのに」
「そこはお互いの意思表示ですからね。率直に自分の要望を伝えたまでです」
「っ、くくっ、あの四人組が大事に囲ってる幼馴染っていうからどんなものかと思ってたけど。なかなか面白い性格してるな、あんた」
「はあ。面白がられるのは心外ですが、とりあえずもう帰っていいですか?」
「いーや、どんな手を使ってでもあんたとお茶したくなったから、まだ帰さない」
「ええ……」

 そうして結局、「まあ一回お茶に付き合えば興味もなくなってくれるだろう」と判断した叶は仕方なくお茶に付き合うことにするのだが――それによってますます樹の興味を煽ってしまう結果になるとは、まだ知る由もなく。
 そして幼馴染四人が二人が接触したことを知り、「俺ともお茶して!」「何もされませんでしたか!?」「……危機感、持って」「『三笠樹』か……あれを潰すのはちょっと手間がかかるんだよね」なんて言われることになるのも、予見できるわけがなかったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

隣人はクールな同期でした。

氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。 30歳を前にして 未婚で恋人もいないけれど。 マンションの隣に住む同期の男と 酒を酌み交わす日々。 心許すアイツとは ”同期以上、恋人未満―――” 1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され 恋敵の幼馴染には刃を向けられる。 広報部所属 ●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳) 編集部所属 副編集長 ●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳) 本当に好きな人は…誰? 己の気持ちに向き合う最後の恋。 “ただの恋愛物語”ってだけじゃない 命と、人との 向き合うという事。 現実に、なさそうな だけどちょっとあり得るかもしれない 複雑に絡み合う人間模様を描いた 等身大のラブストーリー。

処理中です...