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EXTRA(番外編)
【IF】彼女と三笠 もしもの出会い編
しおりを挟む「お嬢さん、こんにちは。俺とお茶しません?」
歩き慣れた帰り道をのんびり歩いていただけなのに、突然見知らぬ見目の良い男がそんなことを言ってきたら、警戒するのが人間というものだろうと上総叶は思う。
その思考に準じて、思いっきり警戒を載せた視線でその男を見遣れば、それが正しく伝わったらしい男は肩を竦めた。
「俺そんなに怪しい?」
「……①この辺りで見かけたことのない人物である。②この辺りはナンパの定番スポットとかではない。③見目がよくて人当たりのいい笑顔を貼り付けている男にろくな人間がいないという経験則――などなどから、警戒するに値する人間だと判断しました」
「①②はともかくとして、③は本当にただの見目がよくて人当たりがいいだけの男がかわいそうすぎない?」
「その返しをする時点で、あなたがそうではないことは確定しましたから、かわいそうじゃありませんね」
「……なるほど、そういう感じなワケね、お嬢さんは」
何かに納得する男の、その自分への呼びかけがむず痒くて、叶はつい口を出す。
「お嬢さんお嬢さんと言いますが、あなたそんなに歳変わらないでしょう」
「おっ、鋭い。でも自己紹介をし合ってない状態で名前呼んだらおかしいだろ?」
「その発言が、あなたが一方的に私の名前を知っているという事実を示しているのですが」
「おっと失言」
「絶対わざとだったでしょう、その顔を見るに」
「一方的に名前を知られてる事実を察したわりに、逃げたりしないんだ? 俺ストーカーとかかもよ?」
面白そうにそんなことを言われたので、叶は渋面になった。
「たとえば万が一あなたがストーカーだったとしたら、逃げたところで住所諸々バレているんでしょうから意味が無いですし、そもそも平均的足の速さの女子生徒と背が高くて足も長い男ではやる前から勝負が見えています」
「つまりお嬢さんは『これはどう見ても逃げられないから話し合いで円満なお別れを目指そう』みたいな思考で俺と話してくれてるワケ?」
「そうですね、大体合ってるのがこわいですね」
「俺、人の思考読むの得意だから」
「それを自称できるところがますますこわいですね」
「もしかして俺、初対面でディスられてる?」
「一方的にこちらの名前を知っている、大枠ではストーカーだろう人間に対しては妥当な反応だと思いますが」
「……ふぅん、なるほど。俺を試してるワケか」
「…………」
呟くように言われた言葉は図星だったので、叶は慎ましく無言という選択肢をとった。
相手は一方的にこちらを知っているようだが、叶の側からすると情報が何もない。それこそ『見目がいい』『胡散臭いくらい人好きのする笑みをしている』『怪しい』くらいしかない。
だから、あえて率直な意見――ふつうこんなふうな初対面だったらしないであろう反応をすることで、相手の出方を窺おうとしたのだが、自称のとおり『人の思考を読むのが得意』な男にはバレてしまった。
叶は諦めて、直球で訊ねることにした。
「あなた、何の目的で私に声をかけてきたんです?」
「お茶に誘ったのが目的とは思わないんだ?」
「ここまでの会話しておいて、それが目的だと思える頭はしてないので」
とは言いつつ、叶はおおよそ目的の検討はついていた。叶が知らない人間が、叶のことを知っているとき、その原因は大体二つにわけられる。
つまり――叶の家族関連か、幼馴染関連かである。
そして男の年代的に、家族関連の可能性は低い。となれば、元々確率の高い幼馴染み関連と考えるのが妥当だった。
「あなた――清和か仁賀か西条か遠上かに心酔してるか恨みがあるかのタイプには見えませんね。もしかして興味本位で近づいてきたタイプですか?」
「――おお、ご名答。なんでわかった?」
「心酔してるタイプも恨みがあるタイプも、加害性が目に出るので。あなたはそういう感じがしない――あと、知り合いの享楽主義者に似てる気がしたので」
「なんか最後の判別方法、ちょっとヤなんだけど」
「はあ。私の主観なのでそこを嫌がられてもどうしようもないですね」
「ばっさりだなー」
「ヤなんだけど」と言ったときにはちょっと眉根を顰めていた男だったが、「ばっさりだなー」の段ではどこか面白がるような瞳に変わっていた。
そういうところが享楽主義者っぽいんだけどな、と思いつつ、口には出さない。
「んじゃあ改めまして。俺は三笠樹。あんたの幼馴染四人組と同じ学校に通うただの男子生徒だ。よろしく」
自分に辿り着いた時点で、絶対『ただの』じゃないんだろうな、というのもやっぱり口には出さず、叶は名乗られたからには仕方ないので名乗り返すことにした。
「上総叶です。よろしくしなくていいです」
「そこでそう言う?」
「むしろこう言う以外の選択肢が?」
「こっちはよろしくって言ってるってのに」
「そこはお互いの意思表示ですからね。率直に自分の要望を伝えたまでです」
「っ、くくっ、あの四人組が大事に囲ってる幼馴染っていうからどんなものかと思ってたけど。なかなか面白い性格してるな、あんた」
「はあ。面白がられるのは心外ですが、とりあえずもう帰っていいですか?」
「いーや、どんな手を使ってでもあんたとお茶したくなったから、まだ帰さない」
「ええ……」
そうして結局、「まあ一回お茶に付き合えば興味もなくなってくれるだろう」と判断した叶は仕方なくお茶に付き合うことにするのだが――それによってますます樹の興味を煽ってしまう結果になるとは、まだ知る由もなく。
そして幼馴染四人が二人が接触したことを知り、「俺ともお茶して!」「何もされませんでしたか!?」「……危機感、持って」「『三笠樹』か……あれを潰すのはちょっと手間がかかるんだよね」なんて言われることになるのも、予見できるわけがなかったのだった。
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