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天国と、地獄行き?

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 一体なんでこんなことになっているのか、わけがわからなかった。確か俺は、春奈の手伝いをしようとしていたはずなのに。
 
「(しっ、静かにだよっ、爽太っ……!!)」

 春奈の小声に思わず体がびくついた。

 春奈の顔がすげえ間近にあるんだが!?

 可愛らしい丸くて大きな瞳、小さな口元は淡くてキレイなサクラ色で艶やか。それに白い肌はなめらかそうで、触れてみたい。って、ダメダメ!! れ、冷静になれ俺!! なんでこうなった!?

 備品庫に運び終えた本の束に、白い大きめの布を被せようとしたんだ、春奈と一緒に。そしたら、いきなり春奈が俺に布を被せてきて。春奈自身も、覆いかぶさる形でだ。つまり、俺と春奈は、布に覆われた狭い空間の中で、すごく近いわけで……、って、めっちゃ甘くていい香りが!? い、いかん!! 俺の紳士的な理性がもたん!! 春奈にこのままじゃ触れてしまいそう!!

とりあえず逃げないと!! 

 俺は覆いかぶさっている布の中から飛び出そうとしたのだが、

 ぎゅっ。

 !?!?

 俺の体が、柔らかい何かで締め付けられた。

 お、おいおい!? は、春奈!? な、何で俺に抱きついてんだっ!?!? 

 春奈が俺の背中に両手を回していた。密着する体。つまりこれはハグをしている、いや、ハグをされている!! 春奈自らによって!! ど、どういうこと!?、何で俺抱きつかれてんの!?!? 

 じいーーーーー。

(ちょっと! じっとしてなさいよっ!!)

 春奈の少し鋭くなった瞳が、そんなことを訴えているように思えた。な、なんで!? 

 むにゅ。

 はうっ!? 俺の胸あたりに、何か弾力のある感触が!? こ、これって、ま、まさか、は、春奈のお、おっぱ、

「春奈ちゃん? そこにいるのかしら?」

 ((!?!?))

 落ち着いた女性の声。でも大人の声じゃない。俺らとそう年は変わらない学生という感じだ。
 春奈の全身がびくついたのが分かった。ぎゅっと俺にさらに密着してくる。ば、バカ!! お、お、おっぱ、おっぱ……、お、押し付けないで!!

「(そ、爽太……!)」
「(!?!?)」

 な、なになに!?!?

「(このなかから顔出さないでねっ!)」

 へえっ!? ど、どういうこと!?

 すると、春奈は俺に抱きつくのをやめた。ショック……!! あのたわわな感触が……!!

 俺がバストロスを味わっている間に、春奈がかぶさってる布から、顔だけを出した。今の俺と春奈は、二人羽織状態って感じだ。

「ほ、穂花《ほのか》センパイ! お疲れさまです!」
 
 ほ、穂花センパイ??

 俺は薄暗い白い布のなか、春奈の背中越しに、ちらっと見える隙間から外を見る。その先には、

「何してるの春奈ちゃん? 布なんかかぶって?」 
「あっ、えっ、えっと! ちょうど今本の片付けをしてたとこなんですよ! 私一人で!」
「本の片付け? ふ~ん? 布なんか被って?」
「うっ!は、はい!」
「んん~……? 一人で、ねぇ……?」
「はっ、はい!」

 春奈に声をかけた穂花センパイは、不思議そうに首をかしげていた。制服姿、どうやら、俺らの上級生ぽい。ん? まてよ、聞いたことある名前だ。……、あっそういや春奈の文芸部のセンパイか。俺らが上級生に絡まれていたとき聞いた名前。
 穂花センパイの肩にまでかかった長めの黒髪が静かに揺れる。深みのある光沢が目をひき、少し切れ長な瞳がどこか知的で、クールな大人な女性と感じさせる。それに……、とてもナイスバディ。春奈より大きくない? 出るとこですぎな、おっぱ、

 ふっ、と穂花センパイと呼ばれた女性が、興味深げに目を細めた。まるで俺を見つけたかのよう。
 げっ!? もしかして俺バレた!?

「そういえば春奈ちゃん、上級生の男子に絡まれてたそうじゃない」
「えっ!? なっ、なんでそのこと……!?」
「んん~? さっきね、顧問の小川先生から聞いたの。大変だったみたいねっ」
「あっ、ま、まあ、そうですかねっ。あはは」

 どうやら俺の存在がバレたわけじゃないみたいだ。良かった……。ん?

 穂花センパイが、急に柔らかな笑みを見せた。

「でも、春奈ちゃんを助ける男子がいて良かったわ♪」
「へっ!? そ、そうですねっ!! そうなんですよ、偶然通りかかった男子がいて、その人が色々と……」
「爽太くんかしらっ?」

 どきっ!?

 俺の鼓動がはねる。い、今穂花センパイ、俺の名前いったよねっ!? なんで知ってる?

 春奈も驚いたらしい。小さな両肩が大きく跳ねた。そして、穂花センパイは楽しげにニヤリと笑った。

「ふふっ、爽太くんなのねっ?」
「なっ!? つっ!? ち、違いますっ!! そ、そんなわけないじゃないですか!! し、知らない男子です!! な、なんであのバカ爽太が助けになんて!! 絶対ないです! ほんと無いですから!!」

 お、おいおい、そんなわけあるだろ。俺めっちゃ助けてあげてたのに!! なんでそんな否定すんだよ!! あとバカは余計だ!!

「あら、違うの?」
「はい!! 全然違いますから!!」
「ふ~ん、そう。ふふっ、それはちょっと残念ねっ~」
「な、なんで残念になるんですか」
「えっ? だって爽太くんのことよく話すじゃない?」
「なっ!?!?」

 えっ? なになに?? 春奈が、俺のことよく話す?? 一体どういうこと??

「最近よそよそしくってムカつくとか」
「なっ!? ちょっと穂花センパイ!?」
「急に私と距離を置いてる感じで、寂し―――」
「わ、わ~っ!!!! 違う!! 絶対違う!! ウソ言わないでくださいッ!! バカ爽太のこと、ほんとどうでもいいです!! な、なんとも思ってないですから!! ほんとっ、爽太のバカ!!」

 お、おいおい、バカバカって……、言わせておけば……。俺が後ろにいるの分ってねえのか、コラ。それ以上バカ言うなら、揉むぞコラ。(殴られて、通報されるだろうからしないけど)。

「ふふっ、そんなに否定しなくてもいいのに」
「つっ!! ほ、穂花センパイがいけないんですよっ。ほんと、爽太は全然、か、関わってないですので……」
「ふふっ、そう」

 2人の会話が、止んだ。急に静かになる。聞こえるのは、春奈の荒い息遣いと、なにか甘い香り。どこか、汗のようにも……。って、こ、この感じは、は、春奈の汗!? や、やべぇ!!  

 布に覆われた空間には、春奈からの、なんとも言えぬ心地よい香りで満たされている。

 う、うお!?!? は、早くこの空間から逃げないと、俺の理性が、男の欲望(性的に)を抑えきれなくなる!!

「あら、春奈ちゃん、汗けっこうかいてるわよ?」

 穂花センパイも気づいたらしい。春奈が小さな両肩を揺らした。

「あっ、そ、そうですねっ」
「布なんか被ってるからよ? さっ、もう取っちゃいなさい」
「えっ!? そ、それは困ります!」
「えぇ~? どうして?」

 穂花センパイがニヤリと笑う。そして、ゆっくり近づいてくる。

 や、やばい! 俺が隠れているのがバレる!? いやでも別に問題ないのでは!? だって、春奈が勝手に俺を隠したんだから。いやでも、そうするわけでもあるのか!? う~ん、どどうしたらいい!?

「き、来ちゃダメです!! 穂花センパイ!!」

春奈の大きな声に、

「ええ~ん? どうして? 優しいセンパイが、その被っている布を優しく取ってあげるだけよ? ほら、暑いでしょ?」
「そ、そんなことしなくて良いですから!! わ、私、寒がりなので!! ふぅ、ふぅ……!」

 おいおい春奈! 説得力無さすぎだろ!! めっちゃ暑がってんじゃねぇか!! てか俺も暑い!! それにすごく甘くて心地いい香りが!!

「ちょ、穂花センパイ!! 近寄らないでください!!」
「ふふっ、ふふふ。春奈ちゃん、な~にを、慌ててるのかしら?」
「そ、そんなことないですから!!」
「ふふっ、さてさて、布のなかに何を隠しているのかしら?」

 口元を三日月のようにして、意味深に笑う穂花センパイ。

 や、やばいバレてる!? もうこれ、春奈の他に、誰かいるってバレてるじゃん!! ど、どうすりゃあいいんだ!? って、は、春奈!? な、なんで後ろに下がってくる!?

 春奈の細身の両足が、後退していくのがわかった。

「な、何も隠してなんかないです! ほんとに、き、来ちゃダメ、ひゃっ!?!?」

 布が何かに引っかかって、ピンとはる。お、おい、春奈! 布の端を踏んで、

 ドン。

 突然、俺の体正面にかかる重み。お、おい、春奈!?

 春奈がいきなり、倒れてきた。俺はそれを受け止めるのに精一杯で。仰向けに倒れる俺。そして、

 は、春奈!? わぷっ!?

 白い布のなか、俺の全身に適度な重みがかかる。そして、顔がなにか柔らかいものに包まれた。

 ふみゅ。

 うおっ!? へっ!? なにこの不思議な、柔らかくて、ほんのり温かい感触!? って、い、息ができんのだが!?!?  

「春奈ちゃん! 大丈夫!?」

 穂花センパイの声とともに、白い布がはらわれた。明るい室内の明かりが目に少し痛い。でもすぐに慣れる俺の両目。その両目がとらえたのは、

「もがもが!?(バ、バスト!?)」

「ひゃっ!?!?」

 春奈のなんとも言えない悲鳴のような声音。すぐに上半身を起こし、俺から離れた。
 俺は、仰向けになりながら、春奈を見つめていた。

 何が起こったのか、頭では理解していた。でも、まだ信じられない自分もいる。

 お、俺、は、春奈の、その、あ、あのふくよかな、ば、バストに……。う、埋もれてたの?

 春奈の顔が、真っ赤になっていく。瞳は潤んで、泣き出しそうで。

「っつぅぅぅ……!! う~……!!」

 春奈の声にならない、恥ずかしげな声が、俺の胸に突き刺さる。ど、どうすればーーー、

「そ、爽太の、ばかっ……!」

 春奈が勢いよく立ち上がり、備品庫から出て行った。

俺は何も身動きが取れず、ただ呆然としていた。お、俺、一体どうすれば……、あっ。

 ふと、見られている視線に気づいた。そこには、

 ニヤリ。

 と、口元を三日月のようにして、意味深に笑う穂花センパイがいた。

 俺、……これからどうなんの? 通報(警察)される? 

 春奈のバストの感触を忘れてしまうほど、穂花センパイの笑みが怖かった。
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