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備品庫で、かくれんぼ(ラッキーバストあり)

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 備品庫の扉を開けると、熱気のある風が俺の頬をなでた。

「あっつ……」

 開けっ放しにしている窓からの風では、涼しさをあまり感じない。
 学校の教室の半分ほどの広さに、いろんな物が置いてあるせいか、風通しが悪く感じる。しかも見てて、狭くるしい。

「うわぁっ……、あついねっ」

春奈が、細い指先きで胸元付近のシャツをつまみ、ぱたぱたと小さく煽っている。

 ……や、やめなさい。俺の体温が余計に上がるだろうが。そんなことしても涼しくならんし、余計にぽよんぽよん動いて熱くなるぞ、とは口が裂けても言えん。
 冷房を付けてぇなぁ……。でも俺に本運びを命じた担任が、『使用禁止』というパワハラ発言をしたせいで、つけれない。くそが!! 熱中症(夏の暑さ+春奈のぽよん、ぽよん熱量)で倒れたらどうするつもりだ!! 

 カラカラカラ、ピシャリ。

 ピッ。ゴー。

「んはっ~♪ 涼しい! って、あれ!? 春奈!? 何勝手に窓閉めて冷房付けてんの!?」
「えっ? だって暑いでしょ?」
「そうだけど! つけたら怒られるだろ!?」
「そうなの? 私、いつもここで作業するときは付けてるよ」
「えっ……? まじ?」
「うん。文芸部は冷暖房自由に使って良いって、顧問の小川先生に言われてるし」

 なんだその好待遇は!? 俺の担任とは違いすぎる!

「んんっ。涼しくて気持ちいい♪」

 おいこら。不用意に体をグッとそらすな。見ちゃうでしょ、その立派な胸筋(やわらかそう)を。……、ふむ、やっぱ大きいよなぁ、春奈のお、

「ねぇ爽太」
「っぱぃ!?」

 やべぇ!? 思わず言ってしまった!? 春奈、怒ってる!?

「えっ? なぁに? その可笑しな返事??」

 春奈は、可笑そうに口元を緩めていた。

 良かった、ギリセーフ!! でも、罪悪感ハンパないけどねっ!!

「あのね、持ってる本、重いでしょ。あそこの机に置いてきたら?」
「あっ、あぁ! そ、そうだな」

 春奈の大きめな胸筋を見てたのバレずに済んで良かった……。
 
「よいしょっと……、ふぅー」

 俺は抱えていた本の束を、長机に置いた。放課後に運んだものがずらりと並んでいる。ほんと、暑いなかよく働いたぜ、まったく。

「爽太」
「ん?」

 春奈が、柔らかな笑みで、

「本、運んでくれてありがとっ」
「えっ? あ、ま、まあ、担任に頼まれた仕事だから。春奈がお礼言わんでもいいぞ?」
「ううん、だってねっ、この本の束、ほんとは文芸部員で運ぶつもりだったから」
「えっ? まじで?」
「うん」

 だったら、なぜ俺が1人で運搬を……。

「あ、あははっ、えっと、文芸部の穂花《ほのか》先輩からね、本の運搬をかわりにやってくれる人がいるみたい、って教えてもらって。だから、空いた時間に、本のリストを作ってたの」

 そう言って、春奈は申し訳なさげに、手に持っているバインダーを自分の顔の前にかざした。
 ははっ、そういうことですか……。

「ご、ごめんねっ、爽太にだけ重い本運ばせて」
「気にしなくて良いって。もともと、俺の遅刻が招いた罰だからさ」
「えっ? 遅刻? あっ、そういえば、さっき廊下でそんなこと言ってたね」
「そうそう」

 怖い上級生に絡まれているときにな。ん?

 春奈が、少し近づいてきた。俺の顔を、なぜかまじまじと見つめる。えっ? な、なに? その心配げな目は??

「何で遅刻したの? どこか体調悪い?」
「えっ!? いや、あの、そ、それはーーー」

 俺の夢に春奈が何度も出てきて……、立派なバストを俺に見せつけるから……。寝不足気味になって、とうとう遅刻した。……って、そんなアホなこと言えるかぁ!?!?

「た、大したことじゃないからっ……!」
「でも……、目の下うっすらくまできてる」

 春奈の綺麗な指先が、俺のまぶたにそっと触れた。

「うおっ!?」

 思わず、半端下がった。心臓に悪い。激しい鼓動で、息が苦しい。

「あっ、ご、ごめん! 驚かせちゃって!」
「い、いや気にすんなって! あははっ」
「そ、そう? …………、ふふっ、ありがとっ」

 そう言って、春奈は、本が置いてある長机の端にあった、白い大きめの布をつかんだ。それを、広げる。

「ん? それ、どうすんだ?」
「あっ、本の上にばさっと、被せようと思って。今日全部は本のリストチェックできないから」

 なるほど、明日にまわすものはなるべくキレイに保管ってとこか。

「じゃあ俺はこの布の端持つから、春奈はそっちな」
「えっ? 良いよ、これくらい。爽太すごく働いてたし……」
「これくらい良いって、ははっ、気にすんな」
「そう? そっか、ありがとっ。…………ねぇ、爽太」
「ん?」

 春奈が俺との距離を詰めた。おいおい、本に被せる布広げられないーーー、

「きょ、今日は、あ、ありがとっ」
「えっ? 」

 何故か知らないが、控えめな声音だった。どうした? 春奈?

「あ、あのねっ、爽太」
「お、おう?」
「ろ、廊下でね、わ、私、上級生に、そ、その……」

 そこまで言って、春奈がくちごもる。ああっ、俺、春奈を上級生から助けようとして、危うくボコられそうだったもんな。逆に、春奈に助けられた。怖い気持ちを抑えて、春奈が上級生に立ち向かってくれたおかげだ。人騒ぎあって、担任が駆けつけてくれる結果になったわけだし。なのに、俺は、

「かっこ悪いよな」
「えっ!? きゅ、急に、ど、どうしたの?」
「いや、俺さ、春奈を助けようとして、失敗してさ。ははっ、カッコ悪いのなんの。それに比べて、春奈はすげぇよ。怖い上級生に立ち向かってさ。俺なんかと違って、かっこいーーー」
「そ、そんなことないっ!!」
「いいっ!? は、春奈!?」

 春奈が、俺との間合いをさらにつめる。細身の両腕が、俺の胸元にふれていた。いやちょっ!? おしいっ!! その両腕がなかったら春奈のふくよかなバスト様が当たってたのに!! って、違う違う!? 煩悩退散!!

「す、すごく、かっ、かっこ、……、よ、よか……、った、んだからっ……!!」
「ええっ? な、なに? 春奈? 声が小さくて聞こえん」
「つっ!? も、もうっ!! わ、わかってよっ!!」
「えぇっ!? な、なぜ怒る!?」

 そんなに顔赤くするくらい怒りに震えてるの!? 春奈さん!?

 春奈の小さくて淡い唇が震えていた。

「だ、たから……!! うぅ、も、もう一回しか言わないよっ! ちゃ、ちゃんと聞いて!」
「お、おう!?」

 やべっ、ちゃんと聞こう。聞き逃したら、後がすごく怖い!!
 
 春奈は、両耳を真っ赤に染め、小さな口をそっと開い、

 ガラガラガラ!! 

 扉の開く音が俺の耳に飛び込んでくる。そして、俺の視界を、大きな布が覆った。春奈が、勢いよく、布ごと、俺にかぶさる。

「ごめん、春奈ちゃん。ちょっと遅くなったかしら? ってあれ?」

 女性の声が聞こえる。一体誰かは、分からない。なぜかって? だって今俺は、

「はっ、春、奈っもがもが!?!?」
「(しっー!! こ、声ださないでっ!!)」

 俺の口は、春奈の柔らかな手に塞がれていた。視界には、春奈の小さな顔しかない。ちょっとバランスを崩せば、俺の顔は、春奈の顔に、触れてしまうだろう。それほどまでに近い、息遣いも感じるほど、近い。それに、もしかするとだが、俺のみぞおちあたりに、は、春奈の、バストが、ふ、ふれている!?!?
 
「(そ、爽太、し、静かにだよっ、静かに!)」
「……!?(は、春奈の顔近い!! や、ヤベェ!?)」

 可愛らしい顔が間近に!! こんなの、無理ゲー過ぎる!!

 白い大きな布の中に隠れるような形になっている俺ら。せっかく、春奈のふっくらバストに触れているのに、そんなありがたさを感じる余裕は、このときの俺にはまったくなかった。
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