君に贈る花

番茶

文字の大きさ
1 / 6

君に贈る花

しおりを挟む










私には愛人がいる。 




何不自由なく貴族として生まれた私が14歳で嫁入りして4年。 
同じ屋敷にいると言うのに夫と呼べる人とはもう最後にいつ会ったかも覚えてはいない。 
聞けば3年前から同じ屋敷に愛人を囲み毎夜会いに行っているそうだ。 
部屋に籠っている私はもちろん遭遇しないし外に出るときにも使用人たちが遭遇しないように配慮してくれている。 




新しい使用人が来ると大抵彼女のことを妻だと思い込む。 
確かに私は相手にされていない。 
毎日主人と愛を確かめ合う彼女が本当の女主人だと思っても仕方のないことだ。 
むしろそうならないことの方が不思議でならない。 






責めるつもりなど私にはない。 







「やぁ、愛しい人…遅くなってしまってごめんね。」 






この人がいるから。 






壁にかかっている大きなタペストリーの裏には秘密の通路があって、毎夜彼は私の元へ訪れてくれる。 
使用人たちに知られぬように私を起こすことなく朝方になると彼は帰っていくから目覚めた時にはいないなとはざらで、何度寂しい朝を迎えたかはわからない。 
けれども夜になると彼は来てくれる。 
それだけが救いだった。 




そもそも何故結婚したかと言われればそれはありがちな政略のためであって愛だの恋だのはこれっぽっちもなかった。 
初めて顔合わせをしたのはどれくらい前だったか。 
ぼんやり思うけれどどうしても思い出せない。幼かったのもあるし、それほど私の中ではどうでもいい出来事だったということである。 



「貴方が来てくれるのならいつまででも待つわアスベル。」 



私は手を広げ、笑みを浮かべて彼の腕の中におさまりにいく。 
なによりも幸せな瞬間。 
ふしだらで不道徳でお互い様な歪な時間。 



貴方が愛人を離さないように、私も彼を離さない。 




秘密の関係が始まった頃は離婚して彼と結婚したいと思った次期もあった。 
でも結婚したいと仄めかすと彼は決まって困ったように笑って黙るのだった。 
私は彼に嫌われたくなかったし、面倒くさい女にもなりたくなくてその話題を出すことをやめた。 
彼に”その意思”はない。 
私に会いに来てくれるだけで良い。 
哀れな私に最後に残された希望。 
絶対に手放したくない。 









温かなアスベルの腕の中で今日も私は眠る。 










しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方なんて大嫌い

ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

私たちの離婚幸福論

桔梗
恋愛
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

処理中です...