君に贈る花

番茶

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妻の愛しい人

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花を見ると、苛々する。 









花に罪などあるわけもないのに。 
自分の心の狭さに嫌気がさして自嘲するように笑ってしまう。 




「旦那様」 



呼ばれて窓から視線を移す。 
執事が持ってきた資料を受け取り軽く読み流して私は机にそれを緩く放り投げた。 



今心にあるのは"落胆"。 



何度調べてもわからない。 
答えはどこかにあるはずなのに掴めない苛立ちからため息が零れる。 



「…アスベル…お前は一体誰なんだ。」 




誰もいなくなった部屋で一人問うが答えはもちろん返ってはこない。 


正体のわからない男の素性を調べ始めていくら月日が経っただろうか。妻の愛する男だということ以外なにも知ることができないもどかしさ。 
彼女の夫である自分をずっと苛む厄介な存在。 







「シンディはまだアスベルとかいう男を忘れないらしいな。」 

彼女の兄であるルーニーが訪ねて来てからかうように言ったのはつい先日のことだ。 
義理の兄弟であって古くからの友人。 
ルーニーは気を使う様子もなくソファに腰掛け机の上にあるクッキーを一枚手に取った。 

「お前本当は知ってるんじゃないだろうな…?」 
「おいおいずいぶんだな親友よ、さすがの俺も必死なお前を前にそんな意地悪はしない。」 
「そのにやけ顔が信用できないんだよ…」 

まったく、と言いながら彼の向かい側に腰掛ける。 

「寂しい夜を送っているわけもないんだからそんな躍起になることもないだろう?」 
「…うるさい…」 
「お前やシンディにしたって実に円満な話じゃないか。俺達のように貴族社会で生きていれば実際結婚後に相手がお互いいるような夫婦だってそこら中にいる。お前の話を聞いて非難する人間なんていない。」 
「…それでも気にくわないんだ。」 


苛立つ私の様子を見て「眉間にしわが寄ってるぞ」とコーヒーを啜る自称親友は呆れたように言った。 
ルーニーにもあの男について聞いたがルーニーとシンディは少しばかり年の離れた兄妹だったため交友関係はもちろん秘密の恋人の存在など知る由もなく、「アスベル」という男の名前を聞いても何も思い浮かばないということだった。 






「どんなにシンディが嫌がったって、シンディはお前のもんだよ。」 







帰り際、彼はそんなことを言った。 
また一人残された部屋の中で私は呟く。 











「あんなもの、贈らなければ良かった…」 











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