君に贈る花

番茶

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色を失う世界

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室内から見る雨は嫌いじゃない。



雷もそう。



だって綺麗じゃない?



まるで、まるで…なんだったかしら…。
























「今日はお買い物に行くわ。」

外に出たい。

「奥様、本日は大変な雨です。夕方からは雷も出て来るとか。おやめになった方がよろしいのでは…?」


窓の外を見ていた私に侍女は控えめに言った。空はどんよりとしていて、雨足も強い。
彼女の意見は至極もっともだ。
でも私の中ではもう答えは決まっていた。


「ありがとう、でも少し歩きたいからお散歩してくるわね。」
「では私も、」
「一人がいいの。ありがとう。じゃあ、行ってくるわね。」


どこか上機嫌な私は雨で汚れないよう膝丈のスカートに大きめの傘を持って外に出た。



雨粒が激しく傘に打ち付ける音。
この音も嫌いじゃない。
私は泥濘む道に微笑み歩き出した。








暫く歩いて、丘へと向かう。
林を抜けた丘の上には小さな公園があってそこでよく私はアスベルと遊んでいた。
小さい頃の話。
大人達にはまだ会ってはいけないと言われていたけれど、私たちは大人達の目を盗んでは会っていた。



「懐かしい…」



幼い頃は大きく感じたアスレチックの小屋も今では随分と小さく見える。
雨に濡れて暗い色になってはいるが、晴れていれば子供の好くような明るい配色で、てっぺんの屋根はアスベルの髪の色と似ていて大好きだった。






「早くアスベルに会いたい。」





自分の手が濡れるのも構わず黄色い屋根にそっと触れる。
ふいに視線をあげると遥か向こうの方では晴れ間が見えていた。



「まぁ、綺麗…あら、虹も出てる…。」


そう呟くものの、よく見ればそのさらに奥の雲はここと同じようにどんよりと重い。
晴れるわけではなさそうだ。





「…帰ろう。」




綺麗。
でも、今はいらない。
晴れ間から見えた美しい光の筋と、色鮮やかにかかっていた虹に何故だか私の心は酷く邪魔をされた気分になってしまった。






虹はあまり好きじゃない。
何故だろう。
綺麗だとは思うのに、不思議と好きにはなれない。
昔は好きだったように思う。
色鮮やかで、幻想的で、まるで…まるで…?






「まただわ…」







既視感を覚えてふいに足元を見る。
足元に広がる芝は雨に濡れて深い緑色をしていて私の靴は泥濘を歩いただけあって泥汚れがついていて…何故か安堵する。



「…綺麗なものが怖いのかしら…」



そんなことってある?
もう一度虹を見ようと顔を上げるとそこにはもう虹はおろか晴れ間すら消え去った重苦しい灰色に染まった空が広がっていた。








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