眠る姫と異国の島の王子様-愛は突然訪れる

Suzaki Tomoya

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囁かれる予兆 「第3話」

黒い霧の予兆

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島の東の森で出会い、目覚めを共にしたあの日から、リオネルとエレナは幾日も離れることなく過ごしていた。

王子としての公務に追われる合間を縫って、リオネルは必ずエレナのもとを訪れ、彼女に島の歴史や人々の暮らしを語った。

エレナは静かに耳を傾け、ときおり小鳥のように首を傾げて問いかける。

その仕草の一つひとつが、リオネルにとっては新鮮で、そして愛おしかった。

「この島の人々は、とても穏やかで優しいのですね」

「そうだ。父王が亡くなってから、私が彼らを守らなければならない。

だが、正直に言えば不安もある」

夕暮れの波打ち際、二人は並んで腰を下ろしていた。

潮風がエレナの金色の髪を揺らし、その横顔を見つめながらリオネルは言葉を続ける。

エレナ、君に会ってから、心が強くなった気がする。

君が目を覚ましたのは偶然ではなく、きっと島に必要だったからだ

エレナは小さく微笑み、けれど視線を落とした。

私が眠っていた理由を、まだすべて話してはいないのです。

リオネルは驚き、彼女の横顔を見つめた。

エレナはゆっくりと語り出した。「私の生まれた国も、海に囲まれた小さな島国でした。

平和で、人々は歌と踊りを愛していました。けれど、ある日、空を裂くように黒い霧が押し寄せ、土地を侵したのです

黒い霧リオネルは耳を疑った。それはこの島にも古くから伝わる災厄の象徴だった。

霧は人々の心を蝕み、争いを生みました。

私は父王に連れられ、島の聖域で祈りを捧げ続けましたが、最後長い眠りに囚われてしまったのです

エレナの声はかすかに震えた。リオネルは彼女の手を強く握りしめ、真剣な眼差しを向ける。

君を眠りから解いたのは、偶然ではない。必ず意味がある。

私はこの島を守るためにも、君を守るエレナはその言葉に、ほんのわずかな安堵を覚えた。

しかし胸の奥では、まだ言えない秘密が渦巻いていた。

数日後、王宮の議場。重臣たちが集い、島の未来について議論を交わしていた。

東の森で見つかったという娘は何者なのです?王子は心を奪われているようですが、身元もわからぬ娘を宮廷に迎えるのは危険です。

ざわめきは次第に強まり、リオネルの立場を揺るがす声さえ出始めた。

最近、漁に出た者たちが黒い靄を見たと申しております。まさか、古の災厄が再び。

その言葉に、場の空気は凍り付いた。リオネルは唇をかみ、毅然と声をあげる。

恐れるな。私は必ず島を守る。エレナを迎えたのも、運命の導きだ。

彼女は決して脅威ではない。むしろ、この島の未来を切り拓く存在だ。だが重臣たちの表情には不信の色が残っていた。

その夜。王宮の庭園にて、リオネルはエレナと共に夜空を見上げていた。

満天の星が降り注ぎ、二人の間を照らす。

エレナ、君は不安を抱えているのだろう?

エレナは一瞬ためらったが、やがて小さく頷いた。

黒い霧は再び現れるかもしれません。私が目を覚ましたのはそれを告げるためだったのかもしれない。

リオネルは彼女を強く抱き寄せた。ならば共に立ち向かおう。私は君を一人にはしない。

王子としてではなく、一人の男として誓うエレナは胸の奥に温かさを覚え、彼の肩に顔をうずめた。

夜空の星々が祝福するように瞬き、二人の未来を照らす。

しかし、その誓いを見守る影があった。森の奥深く、闇に紛れるように佇む黒いローブの男。

彼は島の古き伝承に縛られた者たちの末裔であり、かつての災厄の残滓を操る者だった。

眠る姫が目を覚ましたかならば我らの計画は急がねばなるまいその囁きは、夜の闇に溶けていった。

翌朝、王宮に一本の知らせが届いた。東の海に、黒い霧が現れたと。リオネルはすぐさま兵を集め、現場へ向かう支度を整える。

その横で、エレナは蒼白な顔で彼を見つめた。

リオネル…それは、私が眠っていた理由と関わっている。

黒い霧は、ただの自然現象ではない。あれは―― 彼女の声は震え、瞳には涙がにじんでいた。

私を狙う者の仕業です。

その瞬間、リオネルの胸に激しい決意が芽生えた。

愛する人を、そして島を守るために、彼はすべてを懸けると心に誓った。二人の物語は、まだ始まったばかりだった。
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